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第122話 死神の誘惑

前回投稿した時、PVが異常な勢いで伸びて恐怖を覚えてました。一時間で2300pvって何……?

 その男は、異世界からの来訪者だった。


 地球と呼ばれるその世界で、男は所謂パワハラ上司というものであった。


 無能な癖に常に暴言を吐き散らし、やたら他者よりも優位に立ちたがる。

 しかしその裏には、自信の無い弱い自分を隠したいという願望があった。


 自分に自信は無い。

 否定されたくない。

 責任を背負いたくない。


 でも人の上には立ちたい、踏みつけにしたい。


 己の間違いは他人のせい。

 部下のミスは部下のせい。


 些細なミスでも、何時間も精神が磨りきれるまで怒鳴りつけてやるのが彼の……オイカワのやり方だった。


 そして怒鳴りつけて無駄にした時間も、自分を怒らせた部下のせい。


 大きな声で怒鳴れば、誰も自分には逆らえない。


 そうする事で自分が中心に世界は回っているのだと、自信の無い自分に言い聞かせていた。


 〝この世の全てが俺に従えばいいのに〟


 そしてオイカワは、白い軽トラに撥ねられた。







 *







「はぁ……はぁ……、なぜワタシがこんな目に……」


「オイカワ様……あっちにも冒険者が」


「わかってますよそんなこと!! ロゲリス! だいたい貴方の能力(アビリティ)が中途半端なのがいけないんです! 〝10秒だけ姿を消せる〟だけじゃできる事もできないですよ!!」


 街の路地裏で大声をあげるのは、精神的に追い詰められたオイカワだった。


 転移陣で塔の町へ逃げられたのはいい。

 しかし、半日も経たない内にオイカワはお尋ねものとなってしまった。


『A級指名手配犯 オイカワ。生け捕りには1000万ゴルド、討伐は500万ゴルド』


 国からはもとより冒険者ギルドからも、魔物と同列の扱いを受けているのだ。


 街のあちこちに懸賞金目当ての冒険者が集まり、眼をギラギラさせている。

 迂闊に出歩けば、ロゲリスがいようと袋叩きにあって御用だろう。


 そんな状況は、オイカワにとって耐え難い屈辱であった。


 何と言われても、ロゲリスの能力は逃亡に大いに役立っている。発見されても即座に姿を消せば、10秒だけとはいえそれなりに距離を稼げる。


 ロゲリスがいなければとっくに死んでいるだろう。オイカワは、どうにかして国外への逃亡を企てていた。






 ――だが、ここでオイカワの命運も尽きる事になる。


 事の始まりは、ロゲリスの様子がおかしくなった事だった。


 自分の首に手を当てて、何かをしている。


「何をしているのですか、ロゲリス?」


「うぐ……お、オイカワざ、ま……だすげ、て……」


「ロゲリス!?」


 ロゲリスはなんと、自分の手で自分の首を絞めていた。


 涙と鼻水を垂れ流しながら、ロゲリスは青紫色の顔でオイカワに助けを求める。

 しかし、無能なオイカワにできる事は何もない。


 やがてロゲリスは白い泡を噴き出してぱたりと倒れてしまった。


 ……否、絶命したのだ。Sランク冒険者と遜色ない実力者が、あっさりと。


「ひいぃ!? お、起きなさいロゲリス! 貴方がいなければ誰がワタシを守るんですか!!」


 何が起きたのか理解できず、腰が抜けてへたりこむオイカワ。


 そこへ、悪魔は舞い降りる。



「みいつけた♡」


 黒いコートをはためかせ、毛先の紅い髪をはためかせ、彼女はオイカワの頭上から降ってきた。まとまったサイドテールが尻尾のようになびいている。


「は、ひ……カナン!?」


「かくれんぼはおしまいよ」


 カナンは絹で包んだ林檎のような頬をにっこりと微笑ませながら、腰の抜けたオイカワに剣を向ける。

 その不自然な微笑みの裏には、激しい怒りが満ちていた。


「ひゃ、やめろぉ!! ワタシを殺したら……どうな」


「私の許可なく喋るな」


 オイカワの口が、血しぶきと共に真横に裂けた。

 舌も斬られ、言葉を発する事が叶わなくなる。


「お、あが……!?」


「あぁ、今日はいい天気ね……。小鳥はさえずり可憐なお花が咲いていて……。こんなに素敵な日こそ、あんたみたいなゴミには……」


「あ、あえ……」


「この世に生を受けた事を、未来永劫に後悔してもらうわ」


 オイカワを見下して、カナンの口角は更に上がってゆく。


 ――どう、調理してやろうかしら?


 根元的な恐怖に駆られ、オイカワは這いずって逃げようとするが



 ブチッ



「あ、おあああああっ!?!?」


「逃げようとする悪い手足は、もういらないわね」


 カナンがピッと指を振ると、オイカワの左腕と右足が真っ赤なしぶきをあげて粉々に消し飛んだ。


 ――何故右腕を残したのか、オイカワはまだこの時は疑問にすら思わなかった。


「おっと、勢い余って殺してしまいそうね。楽には死なせないわよ?」


 カナンは懐から取り出した上位回復薬(ハイポーション)の瓶を、止血としてオイカワに投げつける。


「あああああああああ!!! いだいよおぉぉぉぉ!!!」


「あらら、口まで癒しちゃった。けどちょうどいいわ、あなた闇奴隷商人と繋がりがあるわよね? 発言を許可するわ、奴隷商人について知ってる事を話しなさい。回答しだいで考えて(・・・)やってもいいわ」


「は、話すとも話すとも!!」


 オイカワは、自身が助かるかもしれないという希望に縋りつき、カナンに自分の知っている情報を洗いざらい話す。


 ――闇奴隷商人に誘拐した子供を売りさばいてはいるが、その素性までは知らないということ。


 ――その闇奴隷商人との取り引きの場所こそが、塔の街の南にあるあの屋敷の廃墟だったということ。


 ――おーちゃんを拐ったのは奴隷にする訳ではなく、自身の戦力強化の為だったこと。


 ――一連の失踪事件は、ロゲリスの能力を悪用して洗脳した配下にやらせていた事。


「――魔人の子供は、特にアンシャンティ大陸では高値で取り引きされるのだそうですよ! だから魔人の国であるここは大変な狩り場だそうで……」


「なるほどなるほど……。で、今までに一体何人拐ったのかしら?」


「たしか16人……いや、17人? 細かい数字までは覚えてないですねぇ……」


 悪行を饒舌に話すオイカワに、カナンは内心苛ついていた。

 話す内容も自慢げにかつ冗長的になり、もはや聞く事は残っていない。


「……もういいわ。用済みよ」


 そう判断したカナンは懐からナイフを取り出すと、殺気と【威圧】を込めつつオイカワに向ける。


「ひぃ!? な、何を……!?」


「ひとつ、賭けをしましょう?

 このナイフを投げて、もしもあんたに命中したならとどめを刺す。当たらなかったら私は(・・)殺さないでおいてあげるわ」


 オイカワにできる事は何もないが、もしもナイフが外れたなら生き延びられる最後のチャンスである。


「や、やりましょう! やらなければ殺すのでしょう?! やるしかないじゃないですか!!」


「決まりね。じゃ、早速やるわよ」


 オイカワは、カナンに良心がある事に感謝しつつナイフが逸れるようにと神に祈った。


 そして――



 ナイフは、オイカワの右手のすぐ側の地面に突き刺さっていた。


「や、やった……!」


「あら、運がいいわね」


 オイカワは残された右腕で喜びを表現しようと試みる。


 脚を片方失っているのだ、もう逃げられず自分は捕まるだろう。だが、少なくともこの場で死ぬ事はない。



 ……と、勘違いしていた。




「私は殺さないわよ。私は、ね……」



 ――パキッ



 カナンは、手の中で何かを握り潰した。


「……はぇ!? う、腕が!?」


 するとオイカワの右手は、地面に突き刺さったナイフを引き抜く。


 それはオイカワの意思ではない。体が勝手に動いているのだ。


 ナイフを握りしめた右手が向かう先は、自らの頸で――


「うあああ!!!? ワタシに、何をしたんですか!? 話が違う!!」


「私が殺すことはしないと言ったけど、生かして帰すとは一言も言ってないわ?」


「そ、そんなの!! あんまりだ! ワタシが何をしたっていうんですか!? うぶっ」


 ズブズブと、オイカワの喉にナイフの刃が入ってゆく。己の意思に反するように、右手は己を死へと追いやってゆく。


「私の……おーちゃんを傷つけ、苦しめた。

 ――それはね、世界で最も罪深いっ……。万死に! 値する! 大罪よッッッ!!!」


「じ、じにだくなっ、ぶひゅっ……!?」


 なまくらのナイフの刃が皮膚を突き破り、オイカワの喉から真っ赤な血がびゅっと飛び出した。


 それをカナンは、冷たい眼差しで見下していた。






 ――【タナトスの誘惑(メメントモリ)


 それが、カナンが新たに得た能力だ。

 いや、正確には【刈り取るもの(タナトス)】の中で発現した、タナトスの真の権能と言った方が正確だろう。



 その力は、対象にあらゆる手段を用いて自死を強制させるというもの。


 発動条件は1度でも目を合わせた相手に〝マーキング〟を施すこと。

 1度〝マーキング〟をすれば、カナンの任意のタイミングでいつでも発動させる事が可能だ。


 更に〝マーキング〟された相手は、【広域探知】と組み合わせると本来の範囲より更に広範囲の察知が可能となる。


 その範囲は直径1000km。

 同時にこの範囲内にいる対象は、カナンの意思次第で問答無用に命を奪えてしまうのである。




「ふふっ……あははははっ!!!」


 オイカワの死体を前に、カナンは高らかに笑う。

 そしてその手には、カナンにしか見えない半透明の球体が握られていた。


「あーーん」


 カナンはそれを、大きく開いた口の上で握りつぶす。



 ぱちゅんっ


 水風船が弾けるようにオイカワの魂が破裂する。

 そしてカナンは、手から滴るモノを口で受け止め飲み込んだ。


 そしてその時から、オイカワの最期にして永遠に感じられる地獄の時は始まった。


『ひぎっ、いっ、ぎゃあああアアアアアアアア!!!!』



 魂にも苦痛を受ける感覚はある。

 カナンが飲み込んだ魂は、体内で消化され自我を失う過程で苦しみはするものの、純粋な魔力に分解され吸収されればカナンやおーちゃんの一部として生まれ変われるのだ。


 しかし、カナンが明確に「苦しめる」という意思を持った上で捕食されたならどうだろうか?


 消化という分解工程よりも先に魂をバラバラにされたとしても、行き着く先は同じくカナンの一部だ。


 だが、その前に味わう苦痛は、比べ物にならない程だろう。


 その中でオイカワは激しい後悔に苛まれていた。



(ワタシはどうしてカナンという少女に手を出してしまったのでしょう……。何も手を出さなければこうはならなかったのに……。全部カナンのせいに決まっている! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!! 死にたくない!!!

 いや、ワタシが己のちっぽけなプライドを守るために他者を蔑ろにしていたことでしょうか?

 それとも、奴隷商人と関わったこと?

 あぁ、全て、全てが後悔に染まってゆく……


 ――この世に生を受けた事、それ自体が間違いだった……)






 無限に続くように思える苦しみの中で、もはや後悔すら意味を成さない。


 狂う事さえ許されず、オイカワという存在の最期の時は非情に過ぎてゆく。


 ちっぽけなプライドに囚われたオイカワという男は、11歳の少女の手の内で断罪されのである。


 カナンは搾りかすとも呼べる状態となったそれを、口の中に放り込んでごくりと飲み下した。


 「ごちそうさま」


 オイカワがカナンに唯一貢献した事といえば、その魂の味でカナンの舌を楽しませたこと。それだけだ。

オイカワの体感的には魂を破壊される瞬間の苦しみが数百年くらい続いてます。まさに万死ージャンプ。


次回はカナおーがいよいよ一線を越えるかもそれないし、越えないかもしれません。とりあえずイチャイチャが早く見たい方は星評価や感想をよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] カナンがごみ宗教どもと同じようなことをしなかったことに敬礼
[一言] 5億年ボタン(リターン無し)
[一言] ナイフで切り刻んで針をさしまくって元の状態に回復させてそれを何回も繰り返して今回の話みたい展開になればよかったと思ってる自分がいる(おーちゃん怪我させあんな状態までさせたらこんな風になってほ…
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