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第121話 強制命令

めっちゃ考察してくれる方がいてニヤニヤしてます。

 どういう訳か、竜形態のドレナちゃんが霊峰からこの屋敷まで駆けつけてくれたみたい。


 けど、一体どうしてここがわかったのかしら? それに、あの蒼いドラゴンは一体……


「ど、竜種(ドラゴン)だとぉ!? なぜこんな所に……!!」


「くはははははっ!! 我が主の(つがい)より助けを求められたまでよ!」


 私のつがい? ……あぁ、おーちゃんの事ね。納得。


 それより、おーちゃんから助けを求められたってどういう事かしら。


「よう、俺だ。イルマちゃんだ」


「え!?」


 この蒼い龍が、イルマちゃん?

 そういえば、イルマちゃんはかつて準特級の魔物の一体だったって言ってたような……。水竜王、そういうことね。


「で、なんでここがわかったの?」


「この前渡したあの髪飾りだ。オーエンちゃんが俺に助けを求めたら、座標の情報が俺に自動で発信される仕組みの魔道具なんだよ」


「なるほどね……。ほんと頼りになるわ」


 そのおかげで、憎きオイカワを取り押さえられそうだ。


「そ、そうか。貴様ら普段は人の形をとっている者なのだな?! よ、よし……聞きなさい!

 ワタシはSランク冒険者のオイカワ様です! ワタシの背後にはワタシを擁立した貴族がいるんですよ! ワタシに手を出せばどうなるか……」


「……へぇ。具体的にどうなるってんだ? 教えてくれよ」


「い、いいでしょう! ワタシはとても顔が広いです! ワタシに手を出せば、権力者たちが黙っていません!」


 力では敵わないので、権力でどうにかしようとしてるみたいね。しかし滑稽過ぎるわね。どうしよう、ちょっとおもしろくなってきたわ。


「……あの〝魔王イルマセク〟に掛け合って、貴様らをこの国から追放させることだってできるんですよ!!?」


「なんと! あんたはあの魔王にまで顔が知れているというのか!! なぁ、ドレナス!!」


「くはは! 身の程知らずとはこの事よ!!」


 二人とも完全にふざけてるわね……。私としてはさっさとぶっ殺してやりたいんだけど。おーちゃんも苦しそうだし。


「そう! ワタシを敵に回した事を後悔したくはないでしょう!?」


「……おっと、これ以上ふざけたらカナンちゃんに怒られそうだ。

 ……で、誰を敵に回すって?」


「ワタシをです! ワタシにはあの魔王が後ろ楯についているようなものなんですよ!!」


「後ろじゃねえよ。てめえの目の前にいるのがこの俺、魔王イルマセクだ。身の程知らずめ」


 そう言って巨大な龍の姿のイルマちゃんは、蒼い光に包まれて人の姿に戻った。

 鍛え抜かれた肉体を誇示するように上半身裸のその姿は、この国の民なら誰でも知っている象徴的な存在らしい。


 もちろん、国際冒険者でも聞いた事くらいはあるだろう。


「は……え? あなたが、魔王……?」


「で、カナンちゃん。こいつ何したんだ?」


「おーちゃんを誘拐して、毒を盛ったりいっぱい傷つけたりしたわ。あとそこの太ったヤツはおーちゃんを犯そうとしたわね」


「……なるほど。俺の妹弟子を拉致監禁した上に怪我をさせたのか。こいつは重罪だなぁ?」


 もう言い逃れはできまい。後はオイカワをどうするかね。このまま殺してしまいたいけど、背後に何やら潜んでいそうだしね。


 殺すのはそれを聞いてからにしたいわね。


「で、デマカセだ! そのガキの言う事はでっちあげだ!!」


「ほう、我が主が嘘をついていると?」


 竜形態のドレナちゃんがオイカワにドスの効いた声で威圧する。

 こいつ、この場においていまだに助かると思ってるのかしら。


「もう何をしたって無駄だぜ。お前は手を出しちゃダメなもんに手を出したんだ。大人しく拘束されるってんなら、痛い目にはあわせねえぜ?」


「く……」


 私としては今すぐに八つ裂きにしてやりたいんだけど、法というものがあるからね。既に何人か殺して真っ赤な私が気にする事じゃないけど。


 追い詰められたオイカワは、がくがくと震えていた。側に立つロゲリスが不自然なほど無反応ね。命令が無いと動けないのかしら?


 なにはともあれ、これでオイカワを捕縛できるとひと安心……していた、その時だった。


「【強制命令】!!〝呪縛をもって命じます! 『オーエン』よ、ワタシを除くこの場のものを殲滅せよ〟!!」


 ……は?

 私は、完全に油断していた。こいつの能力が、私にもおーちゃんにも完全に通用しないものと思っていたのだ。


 だがしかし、おーちゃんは限りなく弱っている。更に呪詛を飲ませられ、体内から侵されている。


 その状況に、気づけなかった。


「う……あぐぅ……!!」


「おーちゃん!?」


 おーちゃんの体が熱くなり、黒い茨のようなものが腕や顔にまで伸びてゆく……。おーちゃんの表情は、とてもとても苦痛に歪んで涙を流していた。


「〝全員集合! そして、敵に命を賭けて突撃しなさい!〟!!」


 オイカワが更に〝命令〟すると、屋敷の中から慌ただしいいくつもの足音が響く。

 数十人もの冒険者やチンピラやらが玄関めがけて走ってきているみたい。


 そんな雑魚はどうでもいい。おーちゃんの様子が……


「ま……しゅ……に、げて……」


 すると私の腕の中でカタカタと震えるおーちゃんが、冷たくなって――




【大氷壁】!




「きゃっ!?」


 それは、巨大な氷の壁。

 私の体を半分包み込み、更にイルマちゃんと竜形態のドレナちゃんすらも丸ごと閉じ込めるようにに氷がせりあがっていた。


 これは……おーちゃんの魔法……?


 クソ……。よくも……よくも!


「おのれオイカワあぁぁ!!!! 許さない、お前は必ず私が地獄に落としてやる!!!」


「はは、ははは! ワタシをコケにするからそうなるんです! とはいえ魔王に勝てるほど傲ってませんので、ここいらでお暇いたしましょう! いきますよロゲリス!」


「チッ、待ちやがれ!!」


 イルマちゃんが氷の中から抜け出そうとするけれど、おーちゃんの魔法だからか苦戦しているみたい。


 そうこうしている内にオイカワの姿は見えなくなり、【広域探知】の反応も一切無くなってしまった。


 きっと転移の術式で逃げたのね。


 そっちはまあいいわ、もう〝マーキング〟済みだから。

 それより今は、おーちゃんの暴走をどうにかしないと……。


「おーちゃん……絶対に、助けてあげるからね!」


「は、なれて……傷つけ、ちゃう……」


 おーちゃんの意思とは関係なく、溢れ出る氷の勢いは衰えない。


 更にそこへ、オイカワの命令を受けた連中までもが巣をつついた蟻みたいに屋敷の中から殺到してくる。


「オイカワ様の命令だあああああ!!! 死ねええええ!!!」



 幸い、氷に【絶対切断(ザンテツケン)】はすんなり通ってくれた。が、斬ったそばからすぐに埋まってしまう。


 だったら【威圧】!

 こっちに近づいてきたやつらをまとめて失神させてやった。


 ドレナちゃんも人化した上に炎で氷を融かし、洗脳された連中と戦いつつイルマちゃんを助け出していた。

 水を使うイルマちゃんは氷とは少し相性が悪いみたいね。


「おーちゃん……!」


「まっ……だめ、これは……」


 すると、氷の中に黒い不定形のものが混ざるようになってきた。

 これは闇魔法ね……。私が着ているお洋服が闇魔法で崩れていってしまっているわ……。


 私本体には氷結と闇魔法の耐性があるけれど、完全に無効化できる訳ではないのでこのままだとまずい。


 が、ひとつ考えがある。


「カナンちゃん! そっちに手助けはいるか!?」


「大丈夫よ!」


「我が主! 周りの連中は任せよ!!」


「あ、うん! 助かるわ!!!」


 イルマちゃんとドレナちゃんが、氷を融かしつつ連中の相手もしてくれている。

 威圧出しっぱだとおーちゃんへの影響があるし、雑魚の相手をしてくれるのは助かるわ。



 しかし――


「おーちゃ……うぐっ!?」


 私のお腹に、氷のトゲが貫通していた。

 く、氷は効かないけど……、物理的にはそりゃあ効くわね……。


「ま、ます、た……! ご、め……」


「ごふっ……だ、大丈夫よ……。これくらい、すぐに治るわ……」


 こ、これしき何ともないわ! おーちゃんが受けた痛みに比べたら、こんなの……


「おーちゃん、口を……開けられる?」


「あぅ……あ」


「ちょっとだけ、我慢してね」


 おーちゃんが頑張って開けてくれた口の中に、私はそっと右手の指を奥まで入れた。

 舌のずっと奥……。そこを押すといいって聞いたわ。


「えぅっ……げほっ」


「ごめんね、気持ち悪いよね。けど、吐いて」


 小さな体に、これ以上の負担はかけたくない。けれど、首を折る以外にきっとこれしか手段はないから。


「げほっ、ごほっ……おぇ、ごほ」


 おーちゃんは私の胸の中で何度か咳き込むと、黄色い液体と一緒に真っ黒な球体を地面に吐き出した。


 きっとあれがおーちゃんに呪詛を与えていたものね。そして、おーちゃんを操るこの術式も。


「ます、た……。ますたー……」


 途端に、おーちゃんの顔まで侵食していた黒い茨が消えてゆく。と同時に、魔法の攻撃をやめてくれた。


「よしよし……」


「ふぅ……はふぅ……」


 何だかほっとした様子のおーちゃんは、私の胸の中でぽろぽろと涙を流していた。まだまだ麻痺させている毒もあるけれど、ひとまず苦しめているものは何とかなったんじゃないかしら。


「我が主! む……イルマ、じろじろ見るでないぞ!!」


「見ねえよ!」


 私の服は闇魔法のせいでほとんど失くなっちゃっているので、ドレナちゃんが気を使ってくれた。

 私は他人に見られたってそこまで気にはならないけど、気遣ってくれるのは素直に嬉しいわね。


「我が主……。ワタシの服を貸そう、魔力のみでできたものだが半日は保つはずだ」


「ありがとうドレナちゃん」


 ドレナちゃんは自分が着けているのと同じ風変わりなドレス作り出し、私にくれた。かなりぶかぶかだけど、何も着ないよりはいいわね。


「おーちゃん……?」


「すう……すう……」


 寝ちゃったのね。大変な目に遭ったから、それも仕方ないわ。おやすみおーちゃん。



 ……。


 おーちゃんが回復したら、今度こそ気持ちを正直に伝えるわ。


 もう、誰にも奪わせないんだから。

オイカワの強制命令はそこそこ格上にも通じたりするけど、数分程度で解除される上に魔力消費が激し過ぎるため切り札として温存していた技です。


そもそもおーちゃんはオイカワよりも超格上なので、素で使われてもまず効きません。

極限まで弱らせた上に体内に入れた宝珠を通してようやく2分ほど……っていう裏話です。2分耐えても解除されてました。



次回! オイカワ死す!! カナちゃんスタンバイ!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] い、一体オイカワはどうなってしまうっていうんですか!?
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