狙撃手誕生
どこまでも続く平地を走行する装甲車の姿があった。
「す、すごい……‼︎ 馬より速いです‼︎」
フィリアはオープントップの車体から身体を乗り出して子供の様にはしゃいでいた。
ロイスは下の運転席でぎこちないながらも装甲車を操っていた。
Sd Kfz 251-装甲兵員輸送車型
と言う装甲車? と呼ばれるものらしい。
しかし馬車の様に馬に牽引されている訳でも無くエンジンと言う物で動いてるようだ、最もロイスがエンジンとやらの仕組みを何一つ理解しているわけでは無いが。
そして運転の仕方もこれを召喚した時に脳内にスッと入ってきた。
とは言え、頭では覚えても身体が追いつくかどうかは別なのだが。
ロイスが装甲車の運転に四苦八苦している上ではフィリアはその肌で風を感じていた。
そしてフィリアの隣にはいくつかの武器が置かれていた。
バレットM82対物ライフル
MG34汎用機関銃
カールグスタフ無反動砲
九九式狙撃銃
その他etc……
と言ったおおよそ片手では扱う事のできない様な代物の数々だ。
せっかく両手が使えるようになったのだからと実験も兼ねて色々召喚してみたのだ。その過程で召喚したのもこの装甲車なのである。
しばらく進み続けていると、フィリアから声をかけられる。
「ロイス、左から馬に跨った集団が此方に向かって来てます!」
ロイスはフィリアに声をかけられ、装甲車を停止させる。
フィリアの言う方向を見ると確かに、馬に跨った数名の集団が此方へ向かってきてる様だった。
「冒険者か何かか?」
「いえ、あいつらのは私の追手です」
「この距離から判別できるの? 俺には影くらいしか見えないけど」
「ええ、私達神聖魔族は他種族より目がいいので……それで銃を貸して貰えませんか?」
「まぁ、いいけど」
フィリアは側にあった木製のスナイパーライフルを手に取る。
九九式狙撃銃ーーー今まで召喚してきた物でロイスの知っているマスケット銃に最も形が近い物だ。
とは言っても性能には雲泥の差はある。
「それでどうするつもりだよ?」
「いえ、試して見たくて……」
「ん? と言うと?」
「もともと私達は弓や銃の扱いに長けてる種族なので狙撃銃でも同じ様にできるのかなと思って……」
「いや、この距離なら普通に逃げれるし、攻撃しなくてもじゃないか?」
「嫌です」
と彼女はキッパリと断る。
彼女の表情はとても真剣な物で、同時に冷酷な眼差しでもあった。
「あいつらには散々酷い事をされてきました……そんなクズが目の前に居るのにおいおいと見逃すなんて出来ません!」
彼女がそう言い放った後、暫く沈黙が続く。
「お願いします、あいつらは私の同胞を犯し殺した、連中なんです、どうか仇を取らしてください……!」
フィリアはロイスをなんども説得しようとする。
正直フィリアが今まで何をされてきたかなんて詳しくは分からないし、今更詳しく聞こうとも思わない。
しかし相当悲惨な目にはあってきてるはずなのだろう、相手を殺してやろうと思うくらいには。
もしも自分がフィリアと同じ立場なら彼女と同じ様な行動を取るだろう。それに自分はパルティア達をこれから十中八九殺す事になる、ならば何処にも彼女を止める理由も権利も無い。
「……俺はフィリアに何があったかなんて知らないけど、俺に止める権利なんて無い……好きにしていいさ」
「……そうですか、ありがとうございます」
再び沈黙が続いた後フィリアはか細い声で返答する。
彼女は銃を構え、スコープを覗き込み、照準を此方へ向かってくる馬に跨った先頭の男に向ける。
当然ながらスコープ越しだと憎たらしい男の顔がよく見える。
その男はフィリアが幽閉されていた地下牢の門番の一人でフィリアの目の前で彼女の同胞を拷問してその反応を楽しむ様なクズ野郎だった。
恐らくフィリアを探している探索隊の一つなのだろうが。
男の顔をはっきりと見てしまった事で記憶が鮮明に蘇り、こみ上げてきた怒りで強く歯を食いしばる。
ダアァァン‼︎‼︎
フィリアが引き金を引くと7.7mm×58弾と言う大口径小銃弾が爆音と共に放たれる。
弾丸は男の眉間に命中しそのまま馬から転げ落ちる。
余りにも突然の出来事に男達の集団に動揺が走り理解を全くしていない様子だった。
(確かロイスが言うにはこのレバーを引っ張って上げて戻せば良いんだっけ?)
ロイスがこの狙撃銃を召喚した時に言っていた様にコッキングすると空薬莢が排莢される。
空薬莢はそのまま装甲車にあたりキーンと言う金属同士がぶつかる音を立てる。
フィリアは側にいたあたふたしている男に照準を合わし、引き金を引く。
男の側頭部を貫き、その男も地面へと倒れ伏せる。
フィリアはすかさず、更に一人、二人、と的確に頭を撃ち抜いていく。
男達の集団は何が起きているのか理解出来ていない様で、酷い混乱を起こし遂にはバラバラに脱兎の如く逃走を始める。
だが、フィリアはそれを逃す事は無く、次々と射殺していく。
空薬莢がカーンと装甲車にぶつかる度に一人の命が奪われて行く。そして男達の集団はあっという間に全滅する。
そこに残ったのは主人を失った馬の姿でいずれ彼らも散り散りになって行くだろう。
「す、凄い……」
その光景を遠目に見ていたロイスは驚愕する。
500メートル程は離れているのに彼女は1発も外さず撃ち抜いていた。それに一撃で地面に倒れている事から一撃で弱点を貫いて殺しているのだろう。
ふと、ロイスはフィリアの方を向くと彼女は薄っすらと狂気的な笑みを浮かべていた。