Episode.2 (part.29) 決着
雹龍は悠徒の目の前に現れた瞬間、上空も地上も雹と霰が吹き荒れている。
悠徒の視界は、ほぼ見えていない。
だが、魔眼のおかげで雹龍の位置、動きは確認できるが、それだけに集中しないと雹龍の動きを把握できない。
先程の銀竜とは違い、雹龍は小柄なサイズで2枚の翼は本体のサイズ以上で飛翔能力は銀竜の倍以上のスピードを出している。
おまけに翼を羽ばたかせると、翼から氷柱の雨を降らせた。
全方向から雹と霰が襲い掛かり、雹龍のいる方から氷柱の雨が降り注ぐ。
悠徒は紅に色変えすると上空に灼熱の大地を発動させて、水分を全て蒸発し、サウナ状態にした。
雹龍の体は燃えることは無く、灼熱の大地の中を飛び廻っていた。
悠徒は攻撃を止める事なく大魔法を連発した。
右腕に炎を纏って炎剣を作り、雹龍に突撃するが回避され、その時に雹龍は氷の刃を飛ばしてくる。
紅の能力で自動防御が発動しているが、雹龍の氷は溶かし切る事が出来ずに悠徒の体を容赦なく襲い掛かった。
防御に気を取られ過ぎ、足に火炎を出して停滞していたのが解除されて、悠徒は落下していった。
悠徒は急いで迅風に戻して落下を免れたが、雹龍の羽ばたきで灼熱の大地は再び氷原の地と化した。
レーヴァテインと雷切を再び出し、しっかりと握ると、雹龍にレーヴァテインを喰らわせて、それに続いて雷切を放った。
レーヴァテインは雹龍を切り裂き、氷の体を水に変えると、雷切で水を酸素と水素の1対2の割合に分解した。
「やったか?」
『悠徒、まだ、モンスターの反応は消えていない。ましてや、反応が――――ザ―――ザ、ザザ―――ザザザ』
「ベクター!どうした?」
悠徒はインカムに声を掛けるが、反応が全く無く、雑音だけが聞こえた。
悠徒はベクターの下に向かおうと降下し始めた瞬間、悠徒を覆うように白い空気が悠徒の周りを包んだ。
抜け出そうと悠徒は全力で滑ったが、白い空気が悠徒を覆っていて、悠徒の動きを完全に止めた。
酸素が無くなり、体内に補充してある酸素も使い果たし、悠徒の意識は朦朧として居た。
悠徒が倒れそうになった瞬間、悠徒の周りに在った白い空気は一瞬にして消えた。
白い空気がなくなった瞬間、悠徒の周りに空気が舞い戻り、悠徒は大きく息を吸って体内に酸素を送り込んだ。
呼吸を整えた悠徒は即座にベクターのいる格納庫の方を見た。
『これで借り1だね。』
「嫌な性格だな。」
『別に死んでも解剖はできるからね。』
悠徒はベクターの発言で鳥肌が全身に出て来た。
『まだ、一時的に悠徒の周りの空気を拡張して雲竜を吹き飛ばしただけだから、気を付けて。』
「雲竜?あぁ、名前なんか付けてたのか。」
『レポートを出す時に必要になるから・・・ってそんな事じゃなく、悠徒の周りにまた密集して来たよ!』
悠徒は即座に索敵に色変えして、敵の位置を確認した。
「全方位にいるね。」
悠徒はそう言いながら紅に戻した。
『紅にしてどうする?アイツは倒せないよ。』
「ベクター、簡単な質問する。今、ここに水素2原子と酸素1原子あります。」
『それがどうした。』
「では、その2つに火を点けると?」
『・・・そうか!悠徒は発想が面白い。』
「予測範囲は?」
『直径300mぐらいだな。』
悠徒はベクターの言葉を聞いて紅に再び色変えし、灼熱の大地を発動させた。
灼熱の大地は悠徒の周りをどんどんと焼き尽くし、白い空気に触れた瞬間、変化が起こった。
白い空気(=雲竜)に灼熱の大地が触れた瞬間、大爆発を起こし、直径500mの爆炎と直径1200mにわたって爆風が押し寄せた。
「ざまぁみろ!」
『モンスター反応消失』
「最後はデカかったな。」
『そうだね、計算より結構大きかったな。こっちの方は被害が無かったが、基地内にいる一般人の一部がパニック状態に陥っているだけだ。』
悠徒は白煙の中から脱出して、格納庫の方に戻ると、中佐たちが並んでいた。
「一般市民が我々のやるべき事を成し遂げて頂き、感謝する。」
中佐を中心にして悠徒に向かって敬礼をした。
「自衛隊が対処できる相手じゃなかったからな。」
悠徒はそう言いながらも自衛隊に敬礼を返した。
「悠徒、良くやったな。」
格納庫からベクターがパソコンの画面を見ながら言った。
「お前もな。」
悠徒はベクターの方に歩み寄り、それに気付いたベクターは近くの机にパソコンを置き、2人は腕を当てて勝利の儀をした。
悠徒とベクターが勝利を分かち合った瞬間、上空から金属の破片のようなのが落下して、悠徒とベクターの真横に突き刺さった。
「「・・・・・」」
無警戒だったとはいえ、悠徒とベクターは一流の魔法使い。
狙撃銃で撃たれても、常時展開中の障壁で阻止できるのだが、上空から降ってきた金属片は障壁を空気を切る事が出来るほど、その金属片は切れ味が良かった。
地面にめり込んだ金属片を悠徒は地面を抉って取り、その金属片をベクターに解析させた。