Episode.2 (part.28) 神の図書
「相変わらず、君はおもしろいねぇ。」
そう言ってベクターはPXの横に広がる壁にプロジェクター映像を流した。
「悠徒、君はここの世界の住人となっているが、実際にはこの世界の住人では無い。君は、もう一方の世界の住人なんだ。」
ベクターの話は意味が分からなかった。
スクリーンに流される地球の形をした絵が分裂したり、2つに分裂した地球の一方が攻撃されている映像を映しながらベクターの話は続いた。
結局のところ、ベクターの話はこうであった。
悠徒が魔法世界に行く事によって、世界に歪みが生じた。
その歪みに乗じて、何者かによって大規模な魔法が発生し、世界が分裂した。
一方が悠徒たちのいた平和な世界、もう一方が悠徒たちのいない破滅の世界。
魔法の影響でガルドの作った扉は破滅の世界に通じており、悠徒はこの世界で悪の親玉を潰さないと元の世界に戻れないし、2つの世界を1つにできないのであった。
「・・・という事だな?」
「・・・・・まあ、あながち間違ってないが・・・まあ、悠徒がそう思っているなら、それで良い。」
ベクターはそう言いながら、次の映像を流した。
「これは、自分が所属している研究チームが開発した、ヒト型ロボット。通称『ヴァルキリー』」
「魔力で動くのか?」
「動力源は核燃料を使っているから大丈夫だ。」
ベクターはそう言いながら次のスライドを映した。
ロボットの構造、機動性などの性能、武装、その他の機能などの説明を20分ぐらい続けた。
悠徒は半分以上聞いていなかったが、まあ、凄いってことは分かった。
「悠徒、話を聞いていなかったが、お前に最後に渡したい・・・・と思ったが、悠徒、お客さんがたくさんいますがどうします?」
「じゃあ、今回はベクターの自信作のお手並み拝見としますか・・・」
悠徒はそう言いながらも最前線で見届けるつもりであった。
『敵数、約三百。飛竜級45、要塞級5、戦車級100、狼級150。』
「そんなものか。」
ヴァルキリーに乗った中佐はそう言うと、残りの2人も笑いながら、そうだなと言った。
「普通の人間が倒せるのか?この機体で。」
「見くびるなよ、悠徒。ヴァルキリーはこの世界で作ると、少なくとも100年は掛かるぞ。」
『ベクター教授がこちらに来てくれたおかげで、我々が生きているようなものです。』
中佐は誠意の込めた言葉で言い、戦場に赴いた。
格納庫を出ると、上空の飛竜級モンスターの数体に気付かれ、急降下攻撃が来た。
中佐が乗ったヴァルキリーは俊敏な動きで格納庫から離れ、右手に持ったサブマシンガンを連射した。
急降下していたモンスターはそのまま真っ逆さまに落下し、地面で拉げた。
中佐が攻撃の最中、大量の狼級が中佐目掛けて突進して来ていたが、残りのヴァルキリーが中佐を守るように前に出て、サブマシンガンを乱射して、モンスターを殲滅し、撃ち損じた残りは腰に付けてるナイフで倒した。
『要塞級、及び戦車級、接近!3時の方角、距離800!』
飛竜級、狼級が残り少しになった時、いきなりオペレーターから警戒が来た。
悠徒はインカムを耳に入れていたのでその事を聞き、即座に格納庫の周りに結界を張った。
「僕が居ない間に凄く成長してるね。また検査させて欲しいな・・・」
「遠慮する。」
悠徒の額から嫌な汗が出て来た。
ベクターは残念そうな顔をしてなかったが、「ちぇ。」と言って、ベクターはパソコンの画面に映った3機のヴァルキリ-の状態を監視していた。
『ヴァルキリー2・3、戦車級を任せた。ヴァルキリー1は要塞級を殲滅する。』
『中佐、ずるいっすよ。』『そうですよ、中佐。』
『つべこべ言うな!そんな事を言ってる最中も敵との距離が縮まってるぞ!』
そう言って、中佐の乗ったヴァルキリーは戦車級の群れを素早く縫うと、その奥でゆっくりと前進して来ている要塞級が現れた。
要塞級は足は鈍いが、手が速く、手には巨大な鉤爪が付いており、当たったら、ヴァルキリーいえど致命傷になるだろう。
中佐が乗ったヴァルキリーはさらに加速し、鉤爪を紙一重で避けて要塞級を通過した瞬間、後退用の飛行ユニットのブーストを最大出力で使い要塞級の真後ろで止まった。
そして、がら空きの背中にサブマシンガンを連射した。
要塞級はわずかに揺らいだが、撃たれながらも鈍い足で方向転換し、中佐に向かって攻撃した。
中佐は戦いなれているのか、鉤爪攻撃する瞬間、膝に隠してあるナイフを取り出してサブマシンガンを左手に持ち、右手でナイフを握って鉤爪を受けながら、サブマシンガンで弱点の手首の関節を狙った。
要塞級は雄たけびを上げて吹き飛ばそうと腕に力を入れるが、ヴァルキリーはビクともしない。
サブマシンガンの段数はどんどん減っていき、残り100発の所で要塞級の鉤爪の付いた腕は、手首の部分から落ちた。
『っふ。』
中佐はボクシングの選手のような一つ一つの動作に呼吸を合わせて、右手のナイフとサブマシンガンを捨てて、新たに出現させた長刀で要塞級1体を2・3分で絶命させた。
「ベクタ―!なんだ、あの空間亀裂は?」
「悠徒、あれは僕の研究の1つの別空間に物を保管する技術だよ。」
「俺も分も用意してくれ。」
「実は悠徒の分は前から用意してある。」
ベクターはそう言って右手を動かし、別空間から光の玉を取り出した。
そして、その玉を悠徒に渡すと、玉は急激に光り始めたと思ったら、消滅し跡形も無くなった。
「おい!消滅したじゃねぇか!」
「右手を振ってみろ。」
ベクターの言葉通りに悠徒は右手を振ると、悠徒の目の前に半透明の画面が出現した。
画面には『Library of God』神の図書というタイトルが表示されていた。
悠徒はベクターに操作の仕方を聞かずに画面に触れた。
画面に触れた瞬間、画面は砕け散り、新たに無数の画面が出現した。
「『神の図書』は悠徒が今まで見た武器や防具、魔法道具を保管し、それを再現できる魔法道具だ。」
「お前・・・すげえな!」
「天才だからな。だがな、それはもう作れない。そいつに使った素材はすべてこの世に1つしかない素材を使っているから、もうそれは作れない。」
「俺のだけ特別かよ!」
「倉庫と言っても、ヴァルキリ-のは単純な転送装置で、科学の力で補っているから作れるが、『神の図書』は膨大なデータに、記憶装置、形状及び能力を再現させるのにはこの世に1つしかない『賢者の石』を使用しているからだ。」
賢者の石は発見された時代、場所、どんな素材で出来ているのかが不明で、唯一、賢者の石の能力だけが分かっていて、固有の魔力を持つこと、膨大な知恵の泉を所有していること、そして固有魔法を持つことであった。
ヴァルキリー3機は順調にモンスターを殲滅していったが、殲滅し終えた瞬間、空気が揺らぐほどの轟音が上空の雲の上から聞こえた。
『何なんだ!アレは!』
ヴァルキリー2からの無線は、稲妻が走って上空に巨大な何かのシルエットが映し出していた。
ヴァルキリー2はそのシルエットを見てパニックに陥り、ヴァルキリーに装備されていた電磁砲を使った。
電磁砲はヴァルキリーの使用エネルギーの1割を使用して、一筋の雷を放った。
ヴァルキリー2の放った砲撃は、シルエットの真ん中を貫き雲が引き裂かれ、上空にいた巨大な何かが現れた。
『あり得ない・・・』
ヴァルキリー2は呆けた声で言ったのも一瞬で、再び轟音が聞こえた瞬間、ヴァルキリー2は木端微塵になっていた。
『ヴァルキリー2応答せよ!ヴァルキリー2!・・・・・くそっ!』
中佐の声は空しく、ヴァルキリー2の応答はなかった。
『ヴァルキリー1・3は急いで格納庫に入れ。』
格納庫内にいたベクターは、パソコンの画面を見てヴァルキリー2が消滅したのを既に知っており、ヴァルキリー2機に撤退命令を出した。
ヴァルキリー1・3はベクターの命令に従い格納庫内に入った。
「じゃあ、俺の出番だな。」
悠徒は右肩を回しながら格納庫から出た。
外に出るとそこは暴風域の中のようだった。
悠徒は飛ばされないように迅風を発動させ、自分の周りだけ無風地帯を作った。
上空を見上げると、電磁砲で開けた雲が再び覆っており、悠徒は敵の全容を見るために上空に上った。
上空9500フィート辺りでその姿を悠徒は捉えた。
「まさか・・・あの時の銀竜か?」
悠徒はガルドに無人島に特殊訓練のために送られて、最初に出会った死んで蘇った竜。
その竜は最初、青っぽい色の竜だったのが、悠徒が倒して蘇った時には銀色になっていたのだ。
その竜が今、悠徒の目の前にいる巨大な竜であった。
銀竜は咆哮しながら右手を握ると、悠徒のいる位置を中心に空間圧縮が起こった。
悠徒は攻撃の瞬間、回避を行ったが間に合わず、悠徒は空間圧縮で左足を持って行かれた。
ポケットにしまってある神の図書を取り出し、悠徒は手当たり次第の剣を出現させた。
「くそったれが!」
悠徒は雄たけびを上げながら、剣を2本適当に選び、二刀流で挑んだ。
神の図書に入っている剣の能力はすべて頭に入れていたので、2本の剣の特徴を生かした剣技を悠徒は披露した。
右手の剣は炎剣レーヴァテインで、悠徒の魔力で紅蓮の業火が銀竜を包み込み、左手の剣は雷切で、悠徒の魔力で剣は電気を纏い、悠徒はレーヴァテインと雷切で銀竜がいる炎の中に飛び込んだ。
炎の中で銀竜は悶えており、悠徒は銀竜が反撃をしない今、悠徒の持つ二刀は銀竜の体を裂き、感電し、燃えていった。
悠徒の剣舞は銀竜が灰になるまで続いたが、銀竜が灰になった瞬間、冷たい感覚が悠徒に襲い掛かった。
悠徒はそれが灰になった銀竜の仕業だとすぐに分かった。
灰になった銀竜は灰という不純物になり、水滴と混ざり合い、上空で氷になった。
そしてその氷が集まりあって1体の雹龍が出現した。




