【第1話】新しい場所、新しい出会い
大きな挫折もなければ、これといった成功もない。五十数年の時間を、私はただ静かに通り過ぎてきただけのような気がする。
ただ、自分の中でずっと大嫌いなところがあった。それは、感情が高ぶるとついつい口調がキツくなってしまうことだ。
悪気はないのに、言葉のトゲのせいで人を傷つけ、何度も意図しない対人トラブルを経験してきた。
「このままの自分で、人生を終えたくない。今からでも変わりたい」
そんな切実な思いを抱えていたある日、地域の広報誌で目にとまったのが「健康麻雀ボランティア養成講座」の文字だった。
藁にもすがる思いで応募し、私はその門を叩いた。しかし、講座を無事に終えた直後、世の中は予期せぬコロナ禍に見舞われた。
サークル活動や集まりはことごとく中止になり、私は数年間、麻雀から遠ざかることを余儀なくされてしまった。
「変わりたい」と願いながらも、何もできないもどかしい空白の期間が過ぎていった。
ようやくウイルスの嵐が落ち着きを見せ始めた頃、私は意を決して、当時のボランティア講座の講師の方に連絡を入れてみた。
「今、どこかで麻雀ができる場所はありませんか」
そこで紹介してもらったのが、現在の健康麻雀サークルだった。
緊張しながら見学に訪れ、そのまま入会を決めた。そこには、私が普段私が感じているものとは全く違う温かな空気が流れていた。
参加者の大半は女性。私の父や母と同じくらいの年齢にあたる七十代、八十代のシニアの方々がずらりと席を埋めていた。
五十代の私は、ここでは完全に「若手」だった。「あら、いらっしゃい。こっちの席へどうぞ」
人生の先輩たちは、緊張でカチコチになっていた私を、まるで我が子を迎えるような優しい笑顔で包み込んでくれた。
卓の上に広がっていたのは、どこか心安らぐ薄い茶色をした、温かみのある牌だった。
牌を囲みながら交わされる、相手を思いやるソフトな話し方、穏やかな空気。
それらに触れているうちに、私の心の中にあった尖ったトゲが、少しずつ、でも確実に丸くなっていくのを感じていた。
サークルに入って二ヶ月が経った頃、私は一人の男性の顔を思い浮かべていた。
同じ会社で働いていた、私の亡き父と同年代の元同僚、神山さんだ。会社を退職されたと風の便りに聞き、
「あの人なら、きっとこの温かい場所に馴染むはずだ」と直感が働いた。
私はすぐに神山さんに連絡を取り、健康麻雀サークルに誘ってみた。神山さんは私の誘いを快く受け入れ、すぐにサークルに入会してくれた。
気の置けない仲間が増えたことが、私はたまらなく嬉しかった。
ある日のこと、サークルを立ち上げた初代会長の音羽さんから
「うちで麻雀をやりませんか、神山さんもご一緒に」と声をかけられた。
私は遠慮しつつも、とても嬉しいお誘いに神山さんと二人で音羽さんのご自宅にお邪魔した。
手作りの温かいもてなしを受けながら、居間の卓を囲んで奥様も一緒に麻雀を楽しんだ。そんな風にご自宅に招かれて卓を囲む機会は、二度もあった。
時計の針が進むのも忘れて笑い合った、とても温かく穏やかな時間であった。
この時の私は、この先サークルに大きな嵐が吹き荒れることなど、微塵も想像していなかった。
(2話に続く)




