第一章 二人の兄弟
ミシェル・ゼヴァコ『パルダイヤン』(Michel Zévaco, Les Pardaillan, 1907)の全訳です。
フランス語の原文から訳しました。底本は Ebooks libres et gratuits 版、
疑わしい箇所は Bibliothèque électronique du Québec 版と照合しています。
第一巻は全五十章、これはその第一章です。
十六世紀、宗教戦争のさなかのパリ。一文なしの老兵とその息子が、
モンモランシー家の兄弟を裂く十七年来の憎しみと、
カトリーヌ・ド・メディシスの陰謀のただなかへ入っていきます。
全十巻、原文にして百六十万語を超える長篇の、その第一巻です。
作者は一九一八年に没しており、原文の著作権保護期間は満了しています。
固有名詞や歴史的な事柄についての訳注は、各話の後書きに置きました。
家は低く、すべてが平屋で、つつましい顔をしていた。開け放たれた窓のかたわら、紋章を刻んだ肘掛椅子に、ひとりの男が坐っている。背の高い、白髪の老人であった。フランソワ一世王の時代の戦さの叙事詩を生き延びた隊長たちに見られた、あの荒々しい風貌の持ち主である。
彼は陰鬱な眼差しを、モンモランシー家の封建の城館の灰色の塊に据えていた。城館は遥かかなたの青空のなかに、威嚇するような塔の傲りを聳え立たせている。
やがて、その目がそらされた。
声なき呪詛のように恐ろしい溜息が、彼の胸をふくらませた。彼は訊ねた。
「娘は……わしの娘はどこにいる……」
広間を片づけていた召使の女が答えた。
「お嬢さまは、森へ鈴蘭を摘みにいらっしゃいました」
「そうだ、そのとおりだ。春だからな。生垣は香りを放ち、木という木が花束だ。すべてが笑い、すべてが歌い、いたるところに花がある。だが、いちばん美しい花は、わがジャンヌ、気高く清らかなわが子、それはおまえだ……」
そのとき彼の眼差しは、丘の上にうずくまる城館の恐るべき影に、ふたたび向けられた。遠くから彼を狙う石の怪物のような影に……
「わしの憎むものはすべてあそこにある!」と彼は唸った。「あそこにあるのだ、わしを打ち砕き、滅ぼした力は! そうとも、このわし、ピエンヌ卿、かつては一国の主であったこのわしが、大元帥〈コネタブル〉の強欲の残したこのつつましい片隅で、ほとんど貧窮のうちに生きるまでに落ちぶれたのだ!……何を言うか、愚か者め! あの男は今この瞬間にも、この最後の避難所からわしを追い出そうとしているではないか!……明日、わが娘に身を寄せる家がまだあるかどうか、誰に分かる! おお、わがジャンヌよ……おまえは花を摘んでいる……おそらくは、最後の花を!……」
二筋の音もない涙が、絶望に沈んだその顔の皺のあいだに、苦い溝を刻んだ。
突然、彼は恐ろしいほどに青ざめた。黒衣をまとった騎馬の男が、家の前で馬を下り、中へ入って、彼の前に頭を垂れたのである!……
「地獄め!……モンモランシーの代官〈バイイ〉か!……」
「ピエンヌ卿」と黒衣の男は言った。「わたくしはただいま、主人たる大元帥より一通の書付を受け取りました。ただちに閣下にお伝えせよとの命でございます」
「書付だと」と老人は呟いた。その全身を、大きな苦悶の戦慄が揺さぶっていた。
「ピエンヌ卿、つらい役目でございます。ここにあるこの書付は、昨日、すなわち当一五五三年四月二十五日土曜日付の、パリ高等法院の判決の写しでございます」
「高等法院の判決!」とピエンヌ卿は低く叫び、身を真直ぐに起こして腕を組んだ。「申せ、貴殿。大元帥の憎しみは、いかなる新たな打撃をもってわしを撃つのか。さあ! 言うがよい!」
「閣下」と代官は低い、恥じ入るような声で言った。「判決の申すところによれば、閣下はマルジャンシーの所領を不当に占有しておられる。ルイ十二世王はこの土地の所有権を閣下に与えるにあたって、その権限を越えられた。この土地はモンモランシー家に返還されるべきものであり、閣下は一箇月の期限内に、館、村落、牧草地および森林を返還すべし、と……」
ピエンヌ卿は身動きひとつ、身振りひとつしなかった。ただ、いっそう深い蒼白がその顔に広がっただけである。そして広間の沈黙のなかで、外では花咲く李の枝の上で一羽の鶯が鳴いていたが、その震える声が上がった。
「おお、わが尊きルイ十二世王よ! そして名高きフランソワ一世よ! 四十の戦場で命を賭し、血を流した者がいかなる扱いを受けるかを見るために、墓からお出ましくださらぬか。お戻りください、陛下がた! そうすれば御覧になれましょう、身ぐるみ剥がれた老兵が、一片のパンを乞うてイル=ド=フランスの街道をさまよう、この壮大な見世物を!」
この絶望を前にして、代官は震えた。
こっそりと、彼は呪わしい羊皮紙を卓の上に置き、あとずさり、扉にたどりつくと、逃げ去った。
そのとき、この貧しい家のなかに、身を裂くような葬送の叫びが聞こえた。
「そして、わが娘! わが娘! わがジャンヌ! わが娘には身を寄せる屋根もない! わがジャンヌにはパンもない! モンモランシー! おまえと、おまえの一族すべてに呪いあれ!」
老人は握りしめた拳を城館に向かって突き出した。その目が引き攣り……そして彼は気を失った。
破局は凄まじいものであった。事実、ルイ十二世の御代からピエンヌ卿のものであったマルジャンシーは、かつてピカルディを統治したこの男に、往時の栄華から残された唯一のものだったのである。財産の崩壊のなかで、彼は大元帥の所領に囲まれたこの貧しい土地に身を寄せた。そしてただひとつの喜びが、これまで彼を生に繋ぎとめてきた。輝かしく清らかな喜び、すなわち彼の娘、彼のジャンヌ、彼の情熱、彼の崇拝の対象が。
マルジャンシーの乏しい収入は、少なくともこの子の品位を、あらゆる侮辱の外に置いていた。
いまや、それも終わったのだ! 高等法院の判決は、ジャンヌ・ド・ピエンヌとその父にとって、恥ずべき窮乏、陰惨な窮乏、民衆がその絵画的な形容の才によって「黒い窮乏」と呼ぶものを意味していた!
ジャンヌは十六歳であった。細く、華奢で、誇り高く、えも言われぬ優雅さをそなえた彼女は、目を奪うために造られた被造物、この輝かしい春の精気の顕れのように見えた。そのいささか野生じみた優美さにおいて、朝日のもと、露にふるえる山査子の花に似ていた。
この一五五三年四月二十六日日曜日、彼女は毎日と同じように、同じ時刻に外へ出た。
彼女はマルジャンシーの背後に広がる栗の森へ分け入った。
夕方に近い頃であった。芳香が森を満たしていた。大気のなかに愛があった。
木下闇で、ジャンヌは胸を締めつけられ、片手を心臓に当てて、足早に歩きはじめ、こう呟いていた。
「あの方に打ち明ける勇気があるかしら。今晩、そう、今晩こそ、わたしは話すわ!……あの恐ろしい、そしてこんなにも甘い秘密を打ち明けるわ!……」
突然、たくましく優しい二本の腕が彼女を抱きしめた。ふるえる唇が彼女の唇を求めた。
「やっと来たね、きみが! きみが、わたしの恋人が……」
「わたしのフランソワ! いとしいわが君!……」
「だが、どうしたのだ、いとしい人。震えているではないか……」
「聞いて、聞いてちょうだい、わたしのフランソワ……ああ! わたしには勇気が……」
彼は身をかがめ、いっそう強く彼女を抱きしめた。
背の高い美しい青年であった。眼差しは真直ぐで、顔は優しく、額は高く穏やかであった。
さて、この若者はフランソワ・ド・モンモランシーという名であった!……そうなのだ! 彼こそ、ピエンヌ卿からその財産の最後の一片を奪い取ったばかりの、あの大元帥アンヌの長男だったのである!
二人の唇は結ばれた!
抱き合ったまま、二人は開いた花々のあいだをゆっくりと歩いていった。花々の魂は神秘的な香気となって流れ出していた。
ときおり、身震いがこの恋する女を揺さぶった。彼女は立ちどまり、耳を澄まして呟くのだった。
「誰かがつけてくる……誰かが窺っている……聞こえなかった?」
「怯えた鷽でもいたのだろう、わたしの優しい恋人よ……」
「フランソワ! フランソワ! ああ! わたしは怖い……」
「怖い? 子供のようなことを……わたしの腕がきみを守っているというのに、いったい誰がきみに目を上げる勇気を持つものか!」
「何もかもが不安なの……わたしは震えているわ! ことにこの三箇月というもの……ああ! 怖い……」
「いとしい恋人よ! きみがわたしのものとなったこの三箇月というもの、われわれの待ちきれぬ愛が自然の掟に従うために人の掟を追い越した、あの祝福された時から、かつてなく、ジャンヌ、きみはわたしの庇護のもとにある。何を恐れることがある。まもなくきみはわたしの名を名のるのだ。われらの二人の父を隔てる憎しみ、あれはわたしが打ち砕く!……」
「分かっています、わが君、分かっていますとも! たとえその幸福がわたしに約束されていなくとも、あなたにすべてを捧げているというだけで、わたしは幸せです。ああ! 愛して、愛してちょうだい、わたしのフランソワ! わたしの頭上には不幸がのしかかっているのだから!」
「きみを崇めている、ジャンヌ。天に誓うが、この世の何ものも、きみをわたしの妻としないでおくことはできない!」
一つの笑い声が、押し殺したように、すぐ近くで響いた……
「だから」とフランソワは続けた。「もし何か秘めた苦しみがきみを乱しているのなら、それをきみの恋人に……きみの夫に打ち明けてくれ」
「ええ、ええ!……今晩。聞いてください、真夜中に、あなたをお待ちしています……わたしの善い乳母のところで……あなたに知っていただかなければ!……夜なら、わたしにも勇気が出るでしょう!」
「では真夜中に、いとしい人……」
「さあ、もう行って、お発ちになって……さようなら……今晩また……」
最後の抱擁が二人を結んだ。最後の口づけが二人を戦慄させた。それからフランソワ・ド・モンモランシーは駆け出し、茂みの下に姿を消した。
しばらくのあいだ、ジャンヌ・ド・ピエンヌは同じ場所に、心を動かされ、胸を高鳴らせたまま立っていた。
やがて、溜息をついて、彼女は振り返った。その瞬間、彼女はひどく青ざめた。誰かが目の前に立っていたのである——二十歳ばかりの男、荒々しい顔つき、暗い目、傲慢な物腰の男が。
ジャンヌは恐怖の叫びをあげた。
「あなた、アンリ! あなただったの!」
言いようのない苦渋の色が、この新来の男の顔を引き攣らせた。彼は嗄れた声で答えた。
「ぼくだ、ジャンヌ! どうやらぼくはあなたを怯えさせるらしい! 死神にかけて、ぼくにはあなたに話しかける権利がないというのか……あの男のように……ぼくの兄のように!」
彼女は震えたまま立っていた。すると彼は、はじけるように笑って言った。
「もしその権利がないというなら、ぼくが奪い取る! そうだ、ぼくだ、ジャンヌ! すべてを聞きはしなかったにせよ、すべてを見たのはこのぼくだ! すべてをだ! あなたがたの口づけも、抱擁も! すべてをだ、と言っているのだ! 地獄にかけて! あなたはぼくを、地獄に堕ちた者のように苦しめてきた! さあ、今度はぼくの言うことを聞いてもらおう! キリストの血にかけて、あなたに最初に愛を打ち明けたのはこのぼくではなかったか。ぼくはフランソワに劣るとでもいうのか」
奇妙な威厳が、この娘を昂然とさせた。
「アンリ」と彼女は言った。「わたしはあなたを愛していますし、これからもいつも兄弟として愛するでしょう……わたしが命を捧げたあの方の、弟として。そしてわたしのあなたへの情愛は、よほど大きいにちがいありません。だってわたしは、フランソワに一言も言わなかったのですから……これからも決して言いはしません……ああ! 決して!」
「ほう! それはむしろ、あの男に心配をかけまいとしてのことだろう! だが言うがいい、ぼくがあなたを愛していると! あの男に、武器を手にして、ぼくに詰問しに来させるがいい!」
「あんまりです、アンリ! そのお言葉はわたしには忌まわしい。あなたがあの方の弟であることを思い出しつづけるのに、わたしは力のかぎりを尽くさねばなりません!」
「あの男の弟だと?……あの男の恋敵だ! よく考えてみるがいい、ジャンヌ!……」
「おお、わたしのフランソワ」と彼女は両手を組み合わせて言った。「聞いてしまいながら黙っているわたしを、許してください!」
若者は歯ぎしりし、息を切らせて言った。
「では、ぼくを拒むのだな!……何とか言え! さあ、何とか言うのだ!……黙っているのか……ああ! 気をつけるがいい!」
「あなたの目に読み取れるその脅しが、わたしひとりの上に落ちますように!」
アンリは身震いした。
「また会おう、ジャンヌ・ド・ピエンヌ」と彼は唸った。「聞こえたか……また会おう……さらばではないぞ!……」
そのとき彼の目は血走った。彼は激しい身振りをし、手負いの猪のように頭を振って、森のなかへ駆け去った。
「わたしひとりが撃たれますように!」とジャンヌは口ごもった。
そして、この言葉を口にしたとき、何か未知の、遠い、言い表しようのないものが、彼女の存在の奥底、そのいちばん奥底で身じろぎした。とっさの仕草で、彼女は両手を脇腹に当て、狂おしい恐怖にとらえられて膝から崩れ落ち、こう呟いた。
「ひとり! ひとりですって! いいえ、不幸なわたし、わたしはもうひとりではない! わたしのなかには、生きていて、生きようとしている者がいる! わたしが死なせたくないと思っている者が!……」
### 訳注
1. **パリ高等法院**(Parlement de Paris)── 旧体制フランスの最高司法機関。国王の勅令を登記する権限を持ち、政治的にも大きな力をふるった。近代的な意味の「議会」ではない。
2. **大元帥〈コネタブル〉**(connétable)── フランス王国軍の最高指揮官。ここではアンヌ・ド・モンモランシー(一四九三-一五六七)を指す。




