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リボンが黒く染まるまで 〜救うほど闇に近づく魔法少女になってしまいました…!〜  作者: ぽころっと
Chapter 1 白いリボンが黒く染まるまで

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第一話 黒い星が落ちた日


 その夜、空から黒い星が落ちた。


 流れ星みたいに綺麗だった。

 けれど、願いごとをするには少しだけ不気味で、夜空に引かれた尾は、光ではなく墨をこぼしたみたいに黒かった。


 白咲リノは、自分の部屋の窓からそれを見ていた。


「……何、今の?」


 カーテンの隙間から覗いた街は、いつも通り静かだった。

 コンビニの明かり。遠くを走る車の音。どこかの家から漏れるテレビの笑い声。

 何も変わっていない。


 でも、リノの胸だけが変にざわざわしていた。


 机の上に置いていた白いリボンのブローチが、かすかに光っていたから。


「え……?」


 リノは恐る恐る、それを手に取った。


 それは今日、帰り道で拾ったものだった。

 商店街の端、誰も通らない古い噴水のそばに落ちていた、小さなリボン型のブローチ。


 白くて、つやつやしていて、真ん中には薄桃色の宝石がついている。


 かわいい。


 ただそれだけの理由で、リノは持って帰ってきた。

これは窃盗、いや遺失物等横領罪という罪になるのはニュースで見て知っていたがあまりにも私の好みにぴったりで持って帰ってきてしまった。


 けれど今、そのブローチはまるで心臓みたいに、ゆっくりと光を脈打たせている。


「白咲リノ」


 突然、部屋の中に知らない声が響いた。


「ひゃっ!」


 リノはブローチを落としそうになった。

 慌てて周りを見る。誰もいない。ドアも閉まっている。窓だって開いていない。


 なのに、声はまた聞こえた。


「お願い、リノ。この街を救えるのは、あなただけ」


 その声は、子どもみたいに高くて、でも泣きそうなくらい切実だった。


「だ、誰……?」


 リノが震える声で言うと、ブローチから白い光があふれた。

 光はふわふわと形を変え、小さなうさぎのような生き物になった。


 丸い耳。星形のしっぽ。首元には、リノのブローチと同じ白いリボン。


「ぼくはミミル。君を迎えにきた」


「迎えに……?」


「君は選ばれたんだ。魔法少女に」


 リノは固まった。


 魔法少女。


 それはアニメやゲームの中だけの言葉だと思っていた。

 かわいい衣装を着て、ステッキを持って、悪い怪物をやっつける。

 最後にはみんなに「ありがとう」と言われて、笑顔で空を飛ぶ。

私の勝手で素敵な妄想だ。


 でも、目の前のミミルは笑っていなかった。


「今の状況を説明するね

黒い星が落ちたことで、この街に“ノイズ”が生まれるようになった」


「ノイズ?」


「人の心の中にある、不安、嫉妬、寂しさ、怒り……そういうものがふくらみすぎると、怪物になるんだ」


 リノはブローチを握りしめた。


「それを、私が倒すの?」


「倒すだけじゃだめ。できるなら、浄化してほしい」


 ミミルはそう言って、目を伏せた。


「ノイズは悪者に見える。でも本当は、誰かの心の叫びなんだ」


 その言葉は、リノの胸に小さく刺さった。


 心の叫び。

 誰にも言えない気持ち。

 笑っているふりをして、胸の奥に隠しているもの。


 リノには、少しだけ分かる気がした。


 学校では普通に笑っている。

 友達もいないわけじゃない。

 でも、本当はいつも少し寂しかった。


 誰かに選んでほしい。

 一番じゃなくてもいいから、ちゃんと見てほしい。


 そんな気持ちを、リノはずっと見ないふりしていた。


「……私に、できるのかな」


 ミミルはリノを見上げた。


「できるかどうかじゃない。君にしかできないんだ」


 その瞬間、窓の外で悲鳴が上がった。


 リノは反射的に窓へ駆け寄る。

 商店街の方角から、黒い煙のようなものが立ち上っていた。


 煙の中に、誰かがいる。


「あれ……ミカちゃん?」


 同じクラスの三枝ミカだった。


 ミカはいつも明るくて、みんなに囲まれていて、リノとはあまり話したことがない。

 けれど今のミカは、商店街の真ん中でしゃがみ込み、黒い怪物に覆いかぶさられていた。


 怪物は、ぐちゃぐちゃのリボンを丸めたような姿をしていた。

 顔はない。

 でも、いくつもの口だけがあって、同じ言葉を繰り返している。


「わたしを見て」

「わたしを見て」

「わたしを見て」


 リノの背筋が冷たくなった。

気持ち悪い、私はそう思った。


「リノ、変身して」


「で、でも……!」


「怖いよね。でも、このままだとあの子はノイズに飲み込まれる」


 ミミルの声が震えた。


「お願い。リボンを胸に当てて、“マジカル・リボン・ドレスアップ”って唱えて」


 リノはブローチを胸に押し当てた。


 心臓がうるさい。

 手が震える。

 逃げたい。

 布団にもぐって、今見たものを全部夢だったことにしたい。


 でも。


 商店街の方から、ミカの泣き声が聞こえた。


「……マジカル・リボン・ドレスアップ」


 リノが小さな声でそう唱えた瞬間、部屋いっぱいに白い光がはじけた。


 髪がふわりと浮き、制服が光の粒になってほどけていく。

 代わりに、白とピンクのフリルが重なったドレスがリノを包んだ。

 胸元には大きな白いリボン。

 手には、ハートの先に小さな羽がついたステッキ。


 鏡に映った自分を見て、リノは息をのんだ。


 かわいい。

 まるで、物語の中の主人公みたいだった。


 でも、胸元のリボンは温かいのに、なぜか少しだけ重かった。


「行こう、リノ」


 ミミルが窓を指した。


 リノはうなずき、窓を開けた。

 夜風がドレスのリボンを揺らす。


 怖い。

 でも、行かなきゃ。


 リノは窓辺を蹴った。

 体がふわりと浮かび、夜の街へ飛び出す。


 商店街に降り立った瞬間、黒いノイズがこちらを向いた。


 ミカは泣いていた。

 けれどノイズも、泣いているように見えた。


「わたしを見て」

「どうして、だれも見てくれないの」

「消えたくない」


 リノはステッキを握りしめた。


 倒せば、ミカは助かる。

 でも、ノイズの声を聞けば、何か分かるかもしれない。

 強い魔法を使えば、一瞬で終わらせられるかもしれない。


 胸元の白いリボンが、小さく震えた。


 リノの中に、三つの気持ちが浮かぶ。


 助けたい。

 知りたい。

 壊してしまいたい。


 どれが正しいのか、リノにはまだ分からなかった。


 ただ、ミミルが小さな声で言った。


「リノ。選んで」


 その言葉と同時に、夜空の黒い星がもう一度またたいた。


 リノはステッキを構える。


 まだ白いリボンが、黒く染まる前に…

素敵な白いリボン。

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