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04.格安スーパー、夕方 ー 実際に死ぬと、少し段取りが狂う

一郎、二郎が私の前を歩いて行く。三郎は私と手を繋いで横を歩いていた。


「今日の晩御飯はなあに?」


二郎が振り向いて私を見た。口角が上がり、完全に食いしん坊の顔だ。


「焼きそばだ」

「ウェーイっ!やったー!」

「やったやった!」

「焼きそば!?やったぁ!」


3人が一斉に喜びの声をあげた。7歳、5歳、4歳の男の子3人。彼らを食べさせて行く使命が私にはある。それは過失係数が見えるようになっても変わりはしない。バカな上司に身勝手な降格人事をされても、給与が口座に支払われていなくても、会社が巨額不祥事に見舞われても、薔薇咲一族に絡まれても、品川埠頭の暴君に追われても、だ。



この中で猛烈な恨みがあるとすれば、上司だ。死んでほしいとは思った。さっきあっけなく死んだけど……。実際に死ぬと、少し段取りが狂う。


もう一人上司はいる。今日は姿を見せなかったが、奴の命も時間の問題かもしれない。


――放っておけ。


心の中の私は冷たい。


子供の過失係数は見えない。まぁ、見えたら逆に怖いけど。


「圭父ちゃん」

「なんだ」

「お料理のエプロンがいるって」

「ぉ……そうか」

「二郎、俺のがある!貸してやる」

「そっか。一郎ちゃんのがあるね。よかった」

「そうだな。一郎のエプロンを今晩出してみよう」

「うん!」


姉が亡くなって、いきなり3人の子供を引きとたのは2年前だ。しっかり者の一郎、食いしん坊の二郎、甘えん坊の三郎と私の4人での生活は、2年経った。


――もう2年も経つのか。


――ったく、姉ちゃんは何に巻き込まれたんだよ……。


私の仕事柄、姉の事件に何の保険が使われたかは想像がつく。時効短縮保険、刑期圧縮保険、示談促進保険……姉の事件はおそらく前者2つが適用されたはずだ。何者が犯人か分かっていない。


灰音の声が耳元でこだました。帰り際、美華斗の正体を聞いた私に、灰音は囁いたのだ。


『品川ダンジョンは、通称そう呼ばれていますが、正体は時効保険中央演算庫よ。封鎖を対魔災害封印区画を使って行なっているのよ。つまり品川埠頭の地下にその2つが眠っています』


メガネの奥の瞳は彼女の前髪で見えなかった。

でも、なんとなく想像できた。あの時の声に、嘘の温度はなかった。


「圭父ちゃん、スーパーでアイスも買っていい?」

「いい」

「おらもー」

「おらもー」

「3つ買っていい」


私はスーパーのカゴを左手に持ち、右手で三郎の手を引いて、一郎と二郎に続いて格安スーパーに足を踏み入れた。


一郎と二郎がチョコチョコ売り場を歩き、焼きそばの麺やカット野菜の袋をかごに入れるのを眺めた。


――姉ちゃんの事件は、時効保険中央演算庫で調べられる……のか?


スーツのポケットの封筒が熱く感じた。

さっき保育園に迎えに行きすがらスマホで銀行口座残高を見た。非常に厳しい状態だ。家賃、光熱費、食費、生活費諸々……。


バカな上司2人、あいつらは何してくれたんだ。

 

美華斗と灰音がくれたお金をありがたく使わせてもらうしかない。


「圭父ちゃん、おわりー」

「牛乳と食パンも入れて」

「はーい」

「おらがとってくるー」

「あぁ、三郎が行くなら、父ちゃんと行こう」



私の日常に、品川埠頭の地下ダンジョンが割り込んでくる。あとは時間の問題だ。


嫌な予感ほど、よく当たる。



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