294/294
エピローグ
彼は、清い人だと語られた。
酒に酔わず、色に溺れず、金に執着せず、最後まで主の導きに身を委ねた人だったと。
彼が最期に動かした唇は、祈りだったと語られた。
彼が伸ばした手は、主の御手を求めたものだったと語られた。
彼の沈黙は、信仰の証だったと語られた。
その場にいた者たちは、彼の苦しみを祝福と呼んだ。
彼の呻きを祈りと呼んだ。
彼の恐怖を、主の御許へ近づく者の震えと呼んだ。
けれど、その沈黙の中にあったものは、祈りではなかった。
金はある。
ただ、それだけだった。
彼はその一言を、最後まで誰にも渡せなかった。
導きは主の御手に。
そう唱える者たちの手は、金庫を開けなかった。
医者を呼ばなかった。
水を飲ませることもしなかった。
彼が見ていた祭壇の裏には、金が残った。
彼が磨かせた礼拝堂も残った。
彼が飾らせなかった主の像も、白いまま残った。
信者たちは、その前で泣き続けた。
彼が作った言葉は残った。
彼を清い人だと信じる者たちも残った。
彼の最期を尊いものとして語る声も残った。
ただ、彼の本音だけが残らなかった。
あなたは、お金が好きだと思う?




