エピローグ
――また来たのね、あなた。
これで二度目。
こうして続けて触れられた記録は、少し扱いやすいの。
閉じ方に迷いが出にくいから。
ここは本編の外側よ。
記録を読み終えたあとにだけ、薄くひらく場所。
あなたは向こう側、私はこちら側。
今こうして話しているけれど、触れているのはたぶん言葉だけね。
今回の記録は、夢だった。
夢は便利でしょう?
形にならない欲しさにも、ちゃんと輪郭を与えられる。
強さが欲しいなら強さを。
選ばれたければ、選ばれる形を。
帰る場所が欲しいなら、そういう温度まで整えて見せてくれる。
しかも、たいていはやさしい顔をして現れるわ。
怖いもののようには見えにくい。
拒まれにくい。
だから、深くまで入る。
あなたも、そういうものは嫌いではないでしょう?
……答えなくていいわ。
ここで返事は必要ないもの。
今回の記録には、分かりやすい破滅はなかった。
崖から落ちるみたいな終わり方ではなかったでしょう?
もっと静かだった。
朝をひとつ見送り、昼をひとつ後ろへずらし、夜の方へ重みを預ける。
それを繰り返しているうちに、戻るための足場まで薄くなる。
ああいう崩れ方は、あまり音がしないの。
だから、本人も気づくのが遅い。
彼もそうだったわ。
最初から壊れていたわけではないし、何か特別な不幸があったわけでもない。
ただ、少し薄かった。
昼が。
自分の輪郭が。
そこへ、少し濃いものが入り込んだ。
それだけ。
それだけで十分なのよ。
最後に彼が触れた夢、見たでしょう。
大きな力でも、拍手でもなかった。
ただ、一日を終えて帰る場所があるというだけの夢。
とても小さいでしょう?
でも、小さいものの方が遅くまで残ることもあるの。
届かなくなってから、輪郭だけが妙にはっきりすることもね。
見えてしまったのに、もう触れられない。
ああいう形は、記録としてきれいに残るわ。
私はいつも通り、見せたものを保存するだけ。
分類して、閉じて、必要があればまた取り出す。
それ以上のことはしない。
ただ、こうして終わりに少しだけ声をかける。
そのくらいはしてもいいでしょう?
開かれた記録と、開かれなかった記録は、やっぱり少し違うもの。
あなたは何も返さなくていいわ。
返さないままで、ここにいるだけでいい。
それで十分。
それじゃあ、この記録はここで閉じるわね。
あなたはどんな夢を見たい?




