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IRIS-Log-Archive  作者: IRIS
MiE〜美しくあるために〜6月号特集_IRIS.log

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隣の空白

昔は、誰かがいた。


たくさんじゃなくても、いた。


学生の頃、放課後に適当にコンビニへ寄る相手がいた。彼氏がいた時期もあった。職場で帰りに軽く飲もうと誘い合う相手もいた。家族だって、完全に途切れたわけじゃない。母はたまに連絡してくるし、私はちゃんと元気なふりをする。


だから、ずっとひとりだったわけじゃない。


なのに、いつの間にか隣が空いていた。


それに気づいたのは、本当にふとした瞬間だった。


昼休憩。駅前のカフェ。二人席の向かいに誰もいない。

休日。映画館の待合ベンチ。隣に置いたバッグだけがやけに大きく見える。

夜。ベッドの端。寄せた服の山が、人の形にもならない。


私は相変わらず、ちゃんとしていた。


店では笑うし、客には似合うと言う。忙しいと口にする。元気だよと返す。自撮りを上げる。整った暮らしを演出する。強い女の顔をする。


でも、誰もそこを踏み越えて来なくなった。


私がそうさせたのだと、分かっていた。


来る前に、全部塞いだからだ。


大丈夫と言って、平気と言って、忙しいと言って、余裕のある顔をして。私はずっと、自分の周りに綺麗な柵を作っていた。


触れにくくて、崩れにくくて、でも中に入る必要も感じさせない柵。


守っていたつもりだった。


損をしないために。


傷つかないために。


みっともなくならないために。


ある夜、私は部屋の真ん中に立っていた。灯りをつけたまま、何をするでもなく立っていた。


棚の上は綺麗だった。ブランドの箱も、香水瓶も、雑誌も、きちんと見える位置にある。


でも、それ以外はひどかった。


ベッドの上の服。

床の隅の紙袋。

開けっぱなしの引き出し。

流しの食器。

脱ぎっぱなしの靴。


私は急に、それを誰にも見せなくていいことに気づいた。


見せる相手が、いない。


その事実は、泣けるほど悲しいわけじゃなかった。


ただ、静かで、どうしようもなく、寒かった。


スマホが光る。


通知。知らない誰かのいいね。


私は画面を伏せた。


それから、綺麗に整えた棚の前に座り込み、膝を抱えた。


見えるところだけは、今もちゃんとしている。


なのに、ふとした時に、隣が空いている。

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