13章 必要ないけど必要なもの〔中村顕子〕
ダイニングキッチンに着くと、お母さんが咲希に言った。
「ごめんね、内川さん。椅子がないから、あっこと一緒にその長椅子に座ってね」
「分かりました。わざわざすみません」
「いいのよ!私も急だったから何も用意してなくて。少し多めに作った大学いもぐらいしかないのよ。でも、食べないよりかはいいわよ。さ、召し上がれ!」
「ありがとうございます!いただきます」
本当は、咲希に何か食べさせないと、と思って作りかけの大学いもの量を増やしたことぐらい、簡単に予想がついた。
その時、うちらよりも先に来ていた陸斗が「いただきまーす」と言った。そこでうちも「いただきます」と手を合わせた。そして、お母さんも「それじゃあ、私も」とつぶやき、いただきます、と言った。
大学いもを口に入れた咲希は、目を丸くして言った。
「……美味しい!」
「でしょ⁉︎ 」
と陸斗くんが言った。うちも笑って
「どの料理も、本当に美味しいんだよ」
と言った。お母さんはよく、この世界にはなくて、お母さんの故郷、間の国にある食材を料理の中に入れている。この大学いもも、実は間の国で作られた砂糖と間の国でしか取れない材料、ナジアを使って作られている。でも、お母さんは料理の隠し味をうちにしか教えないから、陸斗はそのことを知らない。
みんなで談笑しながら食べていると、お父さんが帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり」
「おかえりなさい」
「こんばんは」
お父さんは、咲希の方を向いて言った。
「おや、珍しいお客さんだね」
「初めまして。内川咲希です」
「うちの部活の後輩なの。詳しい事は後で言うけど、行く場所が分からなくなっちゃったみたいだから、連れてきたの」
「そうか。内川さん、ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」
お父さんも加わって、楽しいひと時を過ごした。
やがて夕食を食べ終わると、うちはお風呂に入りに行った。髪の毛を洗い、顔を洗い、体を洗って、軽く風呂に浸かった。ナジアのいい香りがする。
うちは思わず微笑んだ。
(お母さん、中にナジアを入れたんだ)
ナジアをお湯に混ぜてその湯に浸かると、体がよく温まる。しかもいい香りがして心地いいのだ。ナジアはいろんなことに使える。なんて言うんだっけ、こういうの……汎用性が高いって言うのかな?
それはともかく、今日は寒かったし……それに、咲希も疲れているだろうしね。お湯にナジアを入れたのは正解だと思った。
お風呂から上がって、咲希を呼んだ。
「咲希、お待たせ!お風呂空いたよ」
咲希はお風呂に入った。私はその間に、使っていないパジャマを取り出して来た。お母さんが指を鳴らして下着を出した。
咲希がお風呂から上がると、お母さんがタオルを咲希に渡して、「これ、たまたま新品があったから」とさっきの下着も渡した。うちも「これ、使ってないから使って」とパジャマを貸した。咲希はお礼を言い、着替えた。
その後、みんなで一緒にテレビを見て楽しく過ごした。うちだけはテレビに手を触れていた。こうすればうちもテレビを観れる。
うちは時計に手を触れる。もう寝る時間だ。
「咲希、そろそろ寝ようか」
「はい」
うちは咲希を連れて部屋に戻った。うちが布団を敷いていると、咲希も枕を置いたり、布団を敷くお手伝いをしてくれたりした。
と、その時。お母さんの声がした。
「あっこ、私はもう寝るからね」
「はーい、おやすみなさい」
「おやすみ。あと、内川さん、」
「はい」
「あなたにとって必要のないことが、実はあなたに必要なものだったりするのよ。よーく覚えておいてね」
「……はい」
必要のないことが、必要だったりする……
なんとなく、分かった。
お母さんと咲希は、似ている存在なのだ。
「……どういうことでしょうか?」
咲希に聞かれたけど、あえて答えは教えなかった。
「きっと、そのうち分かるよ。さ、寝よっか」
布団に横になって、寝ることにした。
今日も、いつもと違うことはあったけど、楽しかったなぁ……。
そんなことを考えているうちに、うちは眠りに落ちていた。




