#5 エピローグ
喫茶店は、女学生の一行で賑わっている。
しかし、一人の女学生が一つのテーブルを眺めながら
「驚いたよね?今、勝手にこの窓開いたよ」
五十嵐は、囁かれているそのテーブルに歩いていった。出窓の窓が開け放たれていた。そして、テーブルには上の桜の花びらを繋ぎ合わせた文字が……
『ありがとう』
五十嵐にはハッキリとそう読むことが出来た。
「全ては、幻だったのか?」
不思議な出来事。そして、忽然といなくなった愛。
口をつけられてないレモンティーのカップの中には桜の花児らが一輪ユラユラ浮かんでいた。
確かにいた。
夢ではない現実。
そこにバイト生がやってきた。五十嵐の行動を不審に思った節でもあるように、
「どうしたんですか?マスター……放心状態になって……」
「なあ、木村?さっきお前が入ってきた時、すれ違った少女を覚えているか?」
「は?少女なんていませんでしたよ?マスター寝ぼけてるんじゃないですか?」
そんな少女は見なかったと、木村は答える。
「そんなはずは無い!ほら、日本人形のような、セーラー服を着た少女だよ!目が覚めるような美少女!」
あんな少女を見落とすはずなんてあるはずが無い。そう、絶対に!
「はあ?居ませんよ!……セーラー服といえば、五十年前に二葉女学園がそうだったらしいですよ?うちの母がそこの卒業生で聞いたことあります……今じゃ、ブレザーに変わったらしいですけど……マスター、一度精神科にでも行ったほうが良いかも知れませんよ?」
「五十年前!?」
五十嵐は愕然とした。
誰も見てない?今の今まで幽霊と話しをしていたのか?それとも幻覚?五十嵐は、もう一度確かめるように、再び愛が座っていたテーブルへと足を運んだ。
「いらっしゃいませ!」
木村が、今訪れた女学生に声を掛けた。
「いつものやつ!」
「はい!ありがとうございます!」
コーヒーメーカーがコポコポと小気味の良い音を鳴らしていた。
「でさ、凄かったんだよ!さっきの風!」
深雪が先に来ていた女学生に声を掛けた。その頭には桜の花びらが付いていた。
「何々?」
興味津々で訊こうとしている雅美。
女学生たちの話題は、より一層華やいでいた。
「突風!あれって、春一番の風なんじゃないかな?これで暖かくなるといいね?」
春一番の風……
それは、愛と充弘の約束の日。
五十嵐はフッとその窓の外を見る。まだ蕾だった筈の桜が花を咲かせていた。
「おめでとう……良かったね」
五十嵐はそう言い残し、全てを受け止めると再び仕事に就く。
「マスター?この席のレモンティーどうするんですか?」
空席なのに、片付けないとこれから入ってくるお客のことを考えて……といった風に木村は小首を傾げて五十嵐に問いかける。
「良いよ。今日はこのテーブルはそのままにしておいてくれないか?」
ちょっとだけ余韻に浸りたい。五十嵐はそんな気分になった。
今頃あの二人は、五十年以上前の約束を果たしに、映画館に向かっていることだろうなと思いながら……
本当は、充弘は愛よりも先になくなっているという設定です。でも、それを描くのは躊躇われたので、止めたてます。不思議な話は、不思議な話で終わらせた方が良いのかなと。
でも後書きに書くと、何かな〜かも・・・ですね。
色々と想像をめぐらせて見てください。




