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「それでは、実食を開始する」
フォルダムさんの宣言と共に、王都の広場に緊張が走った。
「どうかな?」
「どれも美味そうだ」
ついに実食だ。
いつもとは違うけど、緊張感はある。
審査員の机の上には、四つのチームが食欲を注いだスタミナ飯が並んでいる。
俺は確信していた。
リズの鍛冶炉による完璧な火加減、俺の『熱感知』による細胞単位の温度管理、そしてライラとエルザが選んだ最高の素材。
俺たちが作った『絆の雷炎ステーキ』は、料理というよりは一つの「芸術品」に近い完成度だったからだ。
まずはセシリア令嬢の『貴族の薬膳スープ』が運ばれた。
フォルダムさんは一口運び、ふむ、と頷いた。
「美しい。魔力回路に優しく染み渡るような、高貴な活性化を感じる。これは雪原での休憩時に、精神を整えるのに最適だろう」
シロも「わふっ」と上品に一口舐め、尻尾をゆらりと振った。
貴族らしい繊細な味わいは、なかなかの高評価のようだ。
「あんなシロは見たことない」
次にクラリスの『学院秘伝・筋肉鍋』だ。
「おおおっ! これは、熱い! 喉を通った瞬間、筋肉が膨らみ、血が沸騰するようなエネルギーだ!」
フォルダムさんは一気に平らげ、顔を真っ赤にして叫んだ。
クラリスたちの気合がそのまま物理的な熱量となって、食べる者の闘志を無理やり引き出している。
部活動的なスタミナ感がある。
プニがその鍋に飛び込むと、プニの体もみるみるうちに真っ赤に染まり、いつもより弾力が三倍増しになった。
「大丈夫かプニ。赤いぞ」
そしてマリアンヌさんの『ギルド爆食プレート』。
「これだ。これこそが冒険者が求める『生の味』だ。濃いめのガーリック、溢れる脂、そして圧倒的な米の量。理屈ではない、生存本能がこの味を求めている!」
フォルダムさんは無我夢中で肉を頬張り、シロに至っては「わふんわふん!」と狂喜乱舞しながら皿を舐め回している。
マリアンヌさんはニヤリと笑い、調理場から親指を立てた。
「負けそうだな。三人とも凄い」
「どれも食欲をそそります」
「次は俺たちの料理だな」
最後に、俺たちの『絆の雷炎ステーキ』が運ばれた。
俺は自信満々に、リズと一緒に焼き上げた黄金色の肉を差し出した。
「フォルダムさん、食べてみてください。タンパク質の凝固点を完璧に維持し、肉汁を魔力的に封じ込めた究極の焼き上がりです」
フォルダムさんは神妙な面持ちでナイフを入れ、一口運んだ。
沈黙が流れる。
どうだ?
「確かに。技術的には完璧だ。肉の柔らかさ、温度、スパイスの調和、どれをとっても一流シェフ以上と言えるだろう」
フォルダムさんは静かにフォークを置いた。
「だがコウイチ殿。これは『料理』としては満点だが、『スタミナ飯』としては物足りない」
「えっ? どういうことですか?」
俺は思わず聞き返した。
リズも横で「私の計算に狂いはなかったはずだよ!」と憤慨している。
「コウイチ殿、貴殿の料理には『隙』がないのだ。あまりにも洗練されすぎていて、心にガツンと来る『野性』が欠けている。スタミナ飯とは、明日死ぬかもしれない極限状態で、理性をかなぐり捨てて貪り食いたくなるような、泥臭い力が必要なのだ」
フォルダムさんの言葉に、シロとプニも申し訳なさそうに「くぅ~ん」「ぷにぃ」と鳴いた。
二匹とも俺たちの料理を食べてはくれたが、マリアンヌさんの肉を食べた時のような興奮は見せなかった。
「結果を発表する。優勝は、マリアンヌ殿の爆食プレート! 二位はクラリス殿の筋肉鍋、三位はセシリア殿のスープ」
フォルダムさんは一呼吸置いて、俺を真っ直ぐに見据えた。
「そして最下位は、コウイチ殿のチームだ」
「さ、最下位いい!?」
ライラが膝をつき、エルザも杖を落としそうになった。
俺は頭を殴られたような衝撃を受け、その場に固まってしまった。
あんなに苦労して、スキルまで使いこなして作った料理が、まさかの最下位だなんて。
「がははは! 坊やたち、技術に頼りすぎたね!」
マリアンヌさんが大きなジョッキを片手に歩み寄ってきた。
「いいかい、料理ってのは『食う相手』を想像して作るもんだ。あんたたちは『完璧な料理』を作ろうとしたが、私は『明日も生きて帰ってこなきゃならねえ冒険者』のために作ったのさ」
マリアンヌさんは、余ったガーリックソースを俺たちのステーキにドバドバとかけた。
「ほら、これを食ってみな。理屈抜きで美味いからよ」
確かに、爆発的な食欲が来る。
抑えきれない食欲。
俺は促されるまま、ソースまみれになった自分たちの肉を一口食べた。
「――っ!!」
ガツン、と脳に響くような塩気とニンニクの刺激。
洗練された旨味を、野蛮なソースが強引に引き立て、全身に熱いエネルギーが駆け巡る感覚。
「ライラどうだ?」
「がああああああ、美味い!」
「エルザは?」
「食べるのが止まりません」
「負けました。これは、確かにスタミナがつきます」
俺は苦笑いしながら認めるしかなかった。
「ふん。技術だけじゃダメ、か。鍛冶と同じだね。素材の良さを引き出しすぎるより、使い手が一番使いやすい形にするのが職人の仕事だった」
リズも、ソースのかかった肉を頬張りながら、神妙な顔で頷いていた。
ライラとエルザも、マリアンヌさんの料理を囲んで、いつの間にか笑顔で宴会に参加し始めている。
最下位という結果には残念だが、不思議と悔しさは消えていた。
楽しい時間になったかもな。
なんだか疲れも消えていくような感覚。
これがマリアンヌがやりたかったのかもな。
王都の人々がこうして一つになって、俺たちの門出を祝うために本気でぶつかってきてくれた。
そのことが、何よりも嬉しかったんだ。
「コウイチ殿。最下位の罰ゲームとして、後片付けは貴殿一人でやってもらうぞ」
フォルダムさんが冗談めかして言った。
「ええっ、俺一人でこの惨状を!? みんな助けてくれよ!」
俺の叫びに、仲間たちは笑いながらジョッキを掲げた。
「自業自得よ、コウイチ! 勇者なんだからそのくらい剛力で片付けなさい!」
「あわわわ、僕はセシリアさんのスープのレシピをメモするのに忙しいんですー!」
「コウイチさん、頑張ってください。私はお祈りで応援だけしていますね」
シロも「わふん!」と元気よく一吠えして、プニと一緒に肉の余りを探しに走っていった。
「おいおい、まいったな」
俺は広場に散らばった鍋や皿を眺めながら、深く息を吐いた。
明日への活力を蓄えるのが、とても大事だと学んだ。
完璧な技術よりも、泥臭い情熱。
洗練された計画よりも、共に笑える今。
それが、これから向かう極寒の地で、俺たちを支える本当の力になるんだろう。
俺は『剛力』を少しだけ使って、積み上がった大鍋を軽々と持ち上げた。
「よし、片付けるか!」
夜の王都に、俺たちの笑い声がいつまでも響いていた。
北の四天王、待ってろよ。
今の俺たちには、世界で一番温かくて、世界で一番元気が出る「スタミナ」が詰まってるんだからな。




