↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらスキル無限になった ~底辺人生からチートになって、最強に成り上がる~  作者: おーちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/97

75

「信じられない。こんなに美味しい食べ物が、この世にあるなんて」


 ライラが、白く輝く蟹の身を口に。


 うっとりと目を細めた。


 リズの炉でサッと炙られた氷鋼蟹の身は、口の中で雪のように溶ける。


 濃厚な甘みが一気に広がる。


 ハンパないぞ。


 極寒の雪原という最悪の環境が、この料理を世界最高の贅沢に変えていたようだ。


 日本でも寒い地域の料理は美味しいと言われるが、それに似ているのかな。


「はふはふ熱いけど、止まりません! 魔力が体の芯から湧いてくるようですー!」


 フィンも、普段の知的な姿はどこへやら、夢中で身を頬張っている。


「本当に。これほどの滋養強壮効果がある食材、神殿の文献でも見たことがありません」


 エルザが上品に、確かな勢いで箸を進めていた。


「わふん! むしゃむしゃ!」


 シロに至っては、リズが特別に割ってくれた一番太い脚を、夢中でかじりついている。


「シロは蟹を食べるようだな」


 俺も一切れ、口に運んでみた。


「おおおお! 美味い」


 驚いた。単に美味しいだけじゃない。


 リズの火加減と、叩き割る際に入れられた絶妙な衝撃が、素材の旨味を極限まで引き出しているのかな。


 だとすると、鍛冶師のできる範囲を超えているよな。


「リズ、ただの鍛冶屋じゃないな。この調理法、素材を知り尽くしていないと不可能だろ」


 俺が問いかけると、リズは自分の取り分をゆっくりと口に。


 夜の雪原を見る。


 遠くで、オーロラがカーテンのように揺れている。


「私の故郷は、このもっと北にある『白銀の廃都』だよ。今はもう、四天王の魔力に飲み込まれて、誰も住んじゃいないけどね」


 リズの声は、吹雪の音に消されそうなほど静かだった。


「白銀の廃都。あそこは確か、数百年前に滅んだとされる、伝説の鍛冶師の一族が住んでいた場所では?」


 フィンが手を止め、真剣な表情でリズを見つめた。


「そう。私の家系は代々、あの地で神に捧げる武具を打っていた。でも、北の四天王が目覚めた時、真っ先に狙われたのが私たちの工房だったんだ」


 リズは自分の神槌の柄を、白くなるほど強く握りしめた。


 とんでもなく辛い過去だな。


「奴らは、自分たちを傷つけることができる武器を恐れた。だから一族を皆殺しにして、工房を氷の中に封印したのさ。私は、父さんに隠されて、たまたま生き残っただけの出来損ないだよ」


 リズの瞳が炎の反射ではなく燃えているようだ。


 彼女が人間嫌いになり、峡谷に引きこもっていた理由。


 それは、守れなかった故郷への想いと、自分一人が生き残ったことへの負い目だったのだ。


「出来損ないなんて言わないで。あんたがいたから、私の剣は蘇った。リズ、あんたは最高の鍛冶屋よ」


 ライラがリズの肩にそっと手を置いた。


「そうですね。リズさんの槌は、もう一度立ち上がる勇気を与えてくれます。それは、何物にも代えがたい聖なる力です」


 エルザの言葉に、リズは照れ隠しのように鼻をすすった。


「ふん。湿っぽいのは嫌いだよ。ねえ、コウイチ。あんたに頼みがある」


「何だ? 俺にできることなら何でもやるよ」


「一度、王都に戻ろう。この蟹、マリアンヌの店に持って帰るんだよ」


 リズの意外な提案に、俺たちは顔を見合わせた。


「えっ、今から? 四天王の城はどうする?」


「馬鹿だね。このまま突っ込んでも、あんたたちの今の装備じゃ、北の女王の冷気には勝てない。この氷鋼蟹の甲殻は、最高の対氷素材なんだ。これを王都の設備で加工して、みんなの防具を補強する。それに」


 リズは少しだけ声を低くした。


「あいつを倒す前に、もう一度、あの温かい街の空気を吸っておきたいんだ。私の故郷には、もう二度と戻らない温かさをね」


 リズの本音を聞いて、反対する者はいなかった。


 俺たちは、大量の蟹の甲殻を魔法の袋に詰め込み、吹雪の中を王都へと引き返すことにした。


 甲羅は硬い。


 強い素材になり得るてことか。


 一時は最悪に思えたけど、山に来て良かったと思える。


 帰り道は、来た時よりもずっと足取りが軽かった。


 リズが仲間たちの輪に少しだけ深く入り込んだことで、パーティー全体の空気が変わった気がする。


 数日後、俺たちは再び王都の門をくぐった。


「おかえりなさい! コウイチさん、早かったですね!」


 門番の兵士たちが笑顔で手を振ってくれる。


 街はリズの修復のおかげで、以前よりも活気にあふれていた。


「マリアンヌさん! 最高の土産を持ってきたぞ!」


 俺がギルドの扉を開けると、いつものようにカウンターでグラスを拭いていたマリアンヌさんが目を見開いた。


「あら、あんたたち。もう四天王を倒したのかい?  何だいその大きな袋は」


 俺たちが袋を広げ、銀色に輝く氷鋼蟹の脚を取り出す。


 酒場にいた冒険者たちが一斉に立ち上がった。


「おい、まさかそれ、伝説の氷鋼蟹か!?」


「あんなの、プロの猟師でも一生に一度拝めるかどうかだぞ!」


「マリアンヌ、こいつを最高の方法で料理してくれ。リズ直伝のレシピがあるんだ」


 俺の言葉に、リズが横から口を出した。


「ちょっと、私のレシピを安売りしないでよね!  でも、マリアンヌ。あんたの腕なら、私の期待に応えられるだろ」


「どれ、料理してあげます」


 その夜、冒険者ギルドは「蟹祭り」に沸き返った。


 リズの指導の下、マリアンヌさんが腕を振るった蟹料理が次々と運ばれてくる。


「かんぱーい!!」


 王都の住民も、ギルドの仲間も、みんなが銀色の殻を剥き、その味に酔いしれた。


 リズは隅っこの席で、フライドポテトと蟹の身を交互に食べながら、騒がしい酒場の様子をずっと眺めていた。


 その顔は、峡谷にいた時のような険しさは消え、どこか安らかなものに変わっていた。


「リズ、楽しんでるか?」


 俺が声をかけると、リズは小さく頷いた。


「賑やかなのは、嫌いじゃないよ。ねえ、コウイチ。明日から忙しくなるよ。この甲殻を使って、あんたたちの防具を全部『氷神仕様』に作り変えてやる。北の女王を、裸足で逃げ出させるくらいのね」


 リズが力強く神槌を叩いた。


「ああ。頼むよ、リズ」


 俺は、『絆雷』の柄に手を置いた。


 一度戻ってきたのは、逃げるためじゃない。


 より強く、より深く結びついた絆を武器に変えて、次の一歩を踏み出すためだ。


 翌朝、王都の広場には、リズが臨時に設営した特設工房が置かれた。


 カツーン、カツーン。


 朝霧の中に響き渡る規則正しい槌音。


 それは、俺たちが北の四天王を打ち破るための、勝利へのカウントダウンのように聞こえるな。


 俺たちは王都の活気を背負い、再び北の地へと向かうための準備を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。