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街の人はリズの活躍に大変に歓喜した。
さすが伝説の鍛冶師だと。
谷から連れてきて正解だったな。
「ふぅ。やっぱり、リズが直した時計塔の鐘の音は、前よりもずっと澄んで聞こえるな」
俺は、マリアンヌさんの酒場のテラス席に座り、夕暮れの街を眺める。
隣ではシロが喜んでいる。
運ばれてきたばかりの大きな骨付き肉を器用に前脚で押さえていた。
幸せそうに噛み締めている。
「わふん、わふん!」
尻尾が椅子に当たってペシペシと良い音を立てている。
相当ご機嫌らしい。
「当然でしょ。あんたたちが持ち込んできたあの変質な石材、あれを純化して組み込んだんだから。音響特性まで計算して叩き直したんだ、ただの時計と一緒にしないでよね」
リズはそう言って、揚げたてのフライドポテトを口に放り込んだ。
ポテトがお好きとかかな。
彼女の顔にはまだ煤が黒いススが少し残っていたが、その瞳はどこか誇らしげだ。
王都の人々から「伝説の職人様!」と囲まれて逃げてきた直後なので、少しだけお疲れのようでもある。
素直じゃない性格みたいだ。
「本当ですね。ギルドの窓から見える街並みが、以前よりずっと鮮やかに見えます。リズさんの技術は、物質だけでなく、人々の心まで修復してしまったようです」
エルザが温かいエールを一口飲む。
リズに向かって優しく微笑んだ。
「そ、そうかな。私はただ、石が一番輝ける場所に置いてあげただけだよ。エルザ、あんたの浄化魔法のタイミングも悪くなかったし、感謝くらいはしてあげてもいいけど」
リズは視線を逸らしてポテトを食べる。
相変わらず素直じゃないが、彼女が誰かを名前で呼び、感謝を口にするのは大きな変化だな。
「コウイチ! 見て見て! ギルドの依頼板に、リズさんへの『指名依頼』がもう山積みになってるわよ!」
ライラがギルドの中から、大量の依頼書を抱えて戻ってきた。
「『宝剣の研ぎ直し』に『魔法具の修理』、果ては『壊れないフライパンを作ってくれ』なんてものまであるわ。あんた、もうこの街から出られなくなるんじゃない?」
「冗談じゃない。私は定住なんてまっぴらだよ。それに、私のハンマーに応えられる素材は、王都の中にはもう残ってない」
リズはライラが持ってきた紙の山を見もせずに、俺の方をじっと見つめた。
「コウイチ、あんた次へ行くんだろ? 残りの四天王を倒しに」
「ああ。まずは北の氷原だ。そこにカースと同等、あるいはそれ以上の強敵がいると聞いている」
俺が真っ直ぐに答えると、リズはふん、と短く鼻を鳴らして立ち上がった。
彼女は自分の足元に置いていた大きな道具袋を肩に担ぎ直した。
俺の目の前まで歩み寄る。
「なら、私も行く。あんたたちが変なところで死んで、私が打った『絆雷』を錆びさせるなんて許さないからね。現場で叩き直せる職人がいた方が、あんたたちも助かるだろ?」
「リズさん、それって、仲間に加わってくれるということですか!?」
フィンが持っていたメモ帳を落とすほどの勢いで身を乗り出した。
だとしたら最高だ。
「仲間、とか、パーティーとか。そういうのはあんたたちの勝手だよ。私はただ、一番面白そうな素材が集まる場所にいたいだけ。文句ある?」
リズが少しだけ挑発的に笑う。
「文句なんてあるわけない。頼もしいよ、リズ。よろしくな」
俺が手を差し出す。
彼女は少しだけ戸惑った後、汚れたその小さな手で、俺の手を力強く握り返した。
「やったー! 伝説の鍛冶屋さんと一緒に旅ができるなんて! 私、リズさんの技術を全部記録しちゃいますよ!」
「やめてよ、恥ずかしい。秘伝なんだから、あんまりジロジロ見ないでよね」
フィンとリズの微笑ましいやり取りに、酒場の中はドッと笑い声に包まれた。
新しい仲間。新しい絆。
俺たちのパーティーは、リズという最高の技術者を得て、さらなる高みへと進む準備が整った。
「それじゃあ、景気づけに一杯やりましょう! マスター、全員に一番いいやつをお願い!」
ライラの掛け声で、再びジョッキが掲げられる。
「絆に乾杯! そして、新しい相棒に!」
「「「乾杯!!!」」」
夜の王都に、俺たちの元気な声が響き渡った。
空には星が広がる。
明日向かうべき北の空か。
冷たく輝く星が見えた。
そこにはどんな困難が待っているのか分からない。
でも、俺の隣にはシロがいて、信頼できる仲間たちがいて、腰には最強の剣がある。
怖くなんてない。俺たちは、どこまでも行けるはずだ。




