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リズに新たな剣を作成してもらった。
本当に感謝する。
目的の剣は修復し、生まれ変わったから、帰るとする。
リズも早く帰れという態度だ
「聞いていたように、人と会話が苦手みたいだな」
「うん、早く帰れと」
「帰ろうか」
「待って。私はお願いがあります」
帰ろうとした時に、エルザが止めた。
お願いとは?
「エルザ、お願いって?」
「はい、王都のことです。まだ修復の最中でした。まだ修復は進みません。そこで、リズに修復を頼んでみたらいいと思ったのです」
「リズに?」
「無理だろう。剣を作るのも大変だったんだ。どうせ断られるぞ」
「確かにライラが言うように断るか。でもリズの力が必要なのもある。頼んでみよう」
リズに頼んでみるとした。
断られるのは覚悟で。
再び鍛冶場に戻る。
エルザが申し訳なさそうに、
「リズ。お願いがあります。王都の街がボロボロになっています。一緒に来て修復を手伝いをしてほしい」
「嫌だね。王都になど行くか」
「だめ?」
「人が多い」
「それが理由?」
「人が多すぎる」
「リズ、頼む! この通りだ、力を貸してくれ!」
俺は谷の鍛冶場で、新しい相棒となった『絆雷』を腰に差し、リズに向かって深く頭を下げた。
俺の隣では、シロも前脚を揃えて、真剣な眼差しでリズを見つめている。
「わふん」
シロのその声は、いつもの甘えたものではなく、お願するような響きを含んでいた。
「断る。さっきも言ったはずだ、私のハンマーは魂のない鉄クズを叩くためにあるんじゃないってな」
リズは、作業台に置かれた巨大なハンマーを愛おしそうに磨く。
一度もこちらを見ようとしなかった。
彼女の態度は、剣を打ち上げた時の熱量とは打って変わって、氷のように冷たい。
「鉄クズだなんて。リズさん、王都の街は、そこに住む人たちの心の拠り所なんです!」
エルザが必死に訴えかける。
「カースの攻撃で壊された時計塔も、広場の噴水も、何代も前から受け継がれてきた大切なものなんです。それを直せるのは、伝説の職人であるあなたしかいないんです」
「伝説、伝説って、うるさいよ。私は武器職人だ。建物の修復なんて、大工にでも頼めばいいだろう」
リズは苛立ったように鼻を鳴らした。
「大工さんじゃ無理なんだ。カースの呪縛があの街の石材そのものに染み付いている。普通に直しても、すぐに腐敗して崩れちまうんだ。鋼の呪いを焼き切れるお前の火と、魂を宿す槌が必要なんだよ」
俺が食い下がると、リズはようやくハンマーを置いた。
こちらを真っ直ぐに射抜くように見た。
「あんた、分かってないな。私が剣を打つのは、それが誰かの命を守り、明日を切り開く『意志』になるからだ。石っころやレンガに、そんな意志が宿ると思うか?」
リズの言葉は、職人としての正論だった。
彼女にとって、鍛冶とは単なる工作ではなく、魂のこもったものなのだ。
動かない建物、意思を持たない街の景色に、自分の魂を削る価値を見出せないという。
「そんなことないわよ!」
ライラがリズの前に一歩踏み出した。
「街は生きてるわ。あそこで笑ったり、泣いたり、美味しいパンを焼いたりしてる人たちの想いが、全部あの石畳に染み込んでる。あんたのハンマーなら、その想いごと直せるはずよ!」
「平行線だな。帰れ。私はこれから次の鉄を打つ」
リズは背を向け、炉の火を強め始めた。
「あわわわ、リズさん! せめて、せめて一度だけでいいですから王都を見てください! 見ればきっと、みんなの想いが分かるはずです!」
フィンが涙目で叫ぶが、リズは無言でふいごを動かし続ける。
ゴォォォ、という火の音が、俺たちの言葉を拒絶するように鍛冶場に響いた。
やはり無理か。
こうなることはわかってはいたが。
俺たちは一度、鍛冶場を出て、谷の入り口にある岩陰で腰を下ろした。
「どうする、コウイチ。あの子、相当な頑固者よ」
ライラが悔しそうに拳を握る。
「でも、諦めるわけにはいきません。王都の広場では、今日も子供たちがガレキの横で遊んでいるんです」
エルザの悲しげな言葉に、俺は折れた剣の柄を見つめた。
リズが打ってくれた『絆雷』。
この剣に宿る温かさを知っているからこそ、俺は確信していた。
リズの心は決して冷たいわけじゃない。
ただ、あまりにも「純粋」すぎるんだ。
「リズが動かないなら、俺たちがリズを動かすしかない」
「えっ? どうやって?」
フィンの問いに、俺は立ち上がってシロの頭を撫でた。
「リズは職人だ。理屈じゃなく、職人としての『好奇心』と『誇り』を刺激するんだ。空間把握で、この峡谷の地質をもう一度詳しく調べてみたんだが」
俺は、ある仮説を仲間たちに話した。
数時間後、俺たちは再びリズの鍛冶場の前にいた。
「リズ。また来た」
「まだいたのか。しつこい男は嫌われるぞ」
リズが顔を出した。
俺たちの様子が先ほどとは違うことに気づいたかな。
俺たちの前には、谷の深い谷底から引き上げてきた、異様な輝きを放つ『巨大な石材』が置かれていた。
「リズ。王都を直してくれなんて、もう言わない。ただ、職人として教えてくれ。この『呪いを受け止めたまま変質した聖銀石』、お前の槌でも扱えない代物か?」
リズの目が、一瞬で変わった。
彼女は吸い寄せられるように石材に近づき、その表面に触れた。
カースの呪縛と、谷の雷、そして俺たちの絆の魔力が複雑に絡み合い、偶然にも誕生した未知の鉱石。
「な、何、これ。硬度はダイヤモンド以上、なのに魔力の伝導率が異常に高い。それに、この深みのある銀色は」
「王都の建物には、この石の成分が含まれているんだ。もしお前がこれを叩き、呪いを光に変えることができれば、それは世界で唯一、お前にしか作れない『守護の芸術』になるんじゃないか?」
リズの指が、かすかに震えていた。
彼女の職人としての魂が、見たこともない素材、解決不能に思える難題を前にして、声を上げているよう。
「ハッ。あんた、卑怯な男だね。こんなの見せられたら、ハンマーを振らないわけにいかないじゃないか」
リズは顔を上げ笑った。
その瞳からは、先ほどまでの拒絶の冷たさは消え、鍛冶職人としての熱い火があった。
「分かったよ。王都へ行く。だが勘違いするな! 私はこの石を叩きたいだけだ。あんたたちを助けるためじゃないからね!」
「ああ、分かってるよ。ツンデレな伝説の職人さん」
「だっ、誰がツンデレだ! 吹き飛ばすよ!」
リズは顔を真っ赤にしながら、巨大な神槌を肩に担ぎ直した。
「わふん!」
シロが嬉しそうにリズの周りを駆け回る。
こうして、俺たちは伝説の職人リズを仲間に加え、再び王都へと向かうことになった。
壊れた街に、再び光が戻る日が近づいている。
俺の腰の『絆雷』が、まるでリズを歓迎するように、心地よいリズムで震えていた。
この世界では直すたびに、想いは強くなり、新しい価値が生まれるんだ。
俺は、晴れやかな気持ちで谷の坂道を下り始めた。




