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「いよいよ、音が近くなってきたな」
俺は、雷鳴のような槌音が響くのを感じながら、一歩一歩踏みしめるように進んでいた。
谷の奥へ進むにつれ、霧はますます濃くなる。
さらには紫色の花が地面になっている。
リズが言っていた『雷晶石』があるという場所は、この峡谷の心臓部にあたる巨大な洞窟の中らしい。
「わふぅ」
シロが毛を逆立てて、慎重に歩いている。
静電気でシロの白い毛がふわふわと広がっていて、少しだけ面白いが、緊張感は本物だ。
「コウイチさん、前方です。空間が歪むほどの魔力を感じます!」
エルザが杖を構えて叫んだ。
彼女の指し示す先には、巨大な水晶の柱が乱立する広間があった。
広間だな。
その中央、ひときわ大きく輝く蒼白い結晶。
あれが目的の『雷晶石』だろう。
「雷晶石か?」
「雷晶石だと思う」
だが、その手前には、この峡谷の主とも言える守護者が待ち構えていた。
「嘘でしょ。あれって、雷雲の魔像じゃない!」
ライラが息を呑む。
雷雲の魔像!
ゴーレムなのか。
岩石と稲妻で構成された巨大な人型が、俺たちの接近を感知している。
ゆっくりとその重厚な体を震わせた。
「グルォォォォォン!!」
雷鳴そのもののような音が洞窟を揺らす。
「あわわわ! あんな大きなの、どうやって倒すんですかー!」
フィンが半泣きになりながらも、必死に魔導書をめくって解析を始めている。
頼むぞフィン。
「フィン、弱点はどこだ!」
「ええと、胸の中心にある核です! でも、周囲の雷がバリアになっていて、普通の攻撃は弾かれます!」
「なら、そのバリアをこじ開けるまでよ!」
ライラが風の力で飛び出した。
大丈夫か?
「疾風・連斬!」
ライラの剣が緑色の光を引いてゴーレムの足元を狙う。
触れる直前に激しい放電が走り、彼女を弾き飛ばした。
「ライラあああ!」
「くっ、熱い! 絶縁の魔法をかけないと近づけないわ!」
「私がやります! 聖なる守護、大気の絶縁層よ、展開!」
エルザの魔法が俺たちを淡い光で包み込む。
それでも、肌を焼くようなピリピリとした熱気は収まらない。
俺はボロボロの剣を抜き、目を閉じて「空間把握」を極限まで広げた。
視える。雷の流れの中に、わずかな隙間がある。
ゴーレムが右腕を振り上げた瞬間、すべての雷が腕に集中した。
その時、胸の核を守る結界が一瞬だけ薄くなる。
あの一瞬か。
「シロ、合図したら跳べ! ライラ、左側から陽動をお願いする!」
「分かったわ!」
「わふん!」
俺の指示に、仲間たちが同じ呼吸で動く。
ライラが風の残像を残す。
ゴーレムの周囲を高速で旋回し、注意を引きつけてくれる。
ゴーレムの巨大な拳がライラを追って地面を叩き、激しい衝撃波が走った。
「今だ! いけ、シロ!」
「ウォン」
シロが弾丸のような速さでゴーレムの脚を駆け上がり、肩口まで一気に到達した。
「わふぅぅん!」
シロがゴーレムの顔面付近で激しく吠え、視界をさえぎる。
苛立ったゴーレムが自分の肩を叩き潰そうとした瞬間、胸のバリアが大きく揺らいだ。
「今だ!」
俺は地面を蹴った。
「不屈の絆、剛力・一点突破!!」
俺の全身から溢れる黄金の魔力が、ボロボロの剣に宿る。
バキバキと剣が悲鳴を上げているのが手に取るように分かった。
あと一撃。この一撃さえ耐えてくれればいい。
お願いだ。
「おおおおおっ!」
俺の突きが、ゴーレムの胸の中心にある核へと吸い込まれた。
激しい閃光と爆音が起きる。
「やったか?」
俺の体は雷の衝撃で後方に吹き飛ばされた。
「うわあああ」
「コウイチ!」
ゴーレムの体は内側から崩壊したぞ。
光の欠片となって霧の中に消えていった。
「倒した?」
俺は地面に手をつく。
荒い息を吐きながら前方を見た。
そこには、静寂を取り戻した洞窟。
輝いている『雷晶石』だけが残されていた。
そして、俺の手に残ったのは、完全に折れてしまった剣の柄だけだった。
「剣が、ついに折れちゃったか」
「コウイチさん! 大丈夫ですか!?」
エルザたちが駆け寄ってくる。
「ああ大丈夫。でもさ、剣は死んじまったけど、目的のものは手に入ったよ」
俺は、無事に回収した蒼い石を持った。
すると、霧の向こうから、あのカツーンというハンマー音が再び聞こえてきた。
今度は、俺たちを導くような、穏やかなリズムだった。
「リズだ」
「遅かったな。待ちくたびれて、昼寝をするところだったぞ」
霧が晴れた先には、小さな鍛冶場があった。
リズが腕を組んで、俺たちが持ってきた石を品定めするように見つめている。
「ほら、約束の石だ。これで直してくれるんだな?」
俺が石を差し出す。
リズはそれをひったくるように受け取り、ニヤリと笑った。
「不合格だと言いたいところだが、その折れた剣が、使い手の必死さを物語っているな」
彼女は巨大なハンマーを持ち上げ、炉の前に立った。
「いいか、よく見てろ。絆なんていう目に見えないものを、鋼に叩き込む方法をな」
「修復してくれるのか」
「やりましたねコウイチ。伝説の鍛冶師ですよ」
リズがハンマーを振り下ろした瞬間、鍛冶場に黄金の火花が上がった。
その光景は、戦いの中にあった俺たちを優しく祝福しているようだった。
俺は仲間たちと肩を並べ、新しい相棒が誕生する瞬間を、じっと見守り続けた。
以前の俺には想像もできなかった、熱い時間がそこには流れていた。




