4-13
「チェリーパイで御座います」
ヴァインが私達のテーブルに切り分けたパイを持ってくる。
いつものヴァインが運んで来る料理はあまり美味しくないから警戒してしまうけど、これは彼が作ったものではないので安心だ。
焼けた小麦粉と甘酸っぱいサクランボが煮詰まった美味しそうな匂いが漂う。
ここは学校近くの大きめの喫茶店。
入学式の前頃に入るか悩んで、結局入らなかったあのお店だ。
放課後にA組とC組の生徒達で借り切っている。
お母様とレオンハルト皇子の授業参観は午前中で終わったが、皇子が気を利かせて予約してくれていたのだ。
もちろん支払いは殿下持ちだ。
今日の打ち上げみたいな感じだ。
お母様達は午後から仕事が有るそうで、ここには居ない。
各家の従者達は居るけど、彼等が座るだけの席は無いので、給仕の手伝いをして貰っている。
「お、美味しそうですね」
隣の席に座るウェンディがそう言う。
他にはハンナとイライザも居るけど、みんな少し緊張した面持ちだ。
それは私の向かいに座っているイリア皇女のせいだ。
A組の女子は別のテーブルにかたまっている。
彼女が何故私達のテーブルに着いているのか、その理由は何となく察せられるけど、誰も何も言わない。
「本当に美味しそう。熱い内に頂きましょう。『お姉様』」
イリアお姫様が私に向かってそんな事を言う。
「あ、あの・・・あの勝負は時間切れで引き分けになったはずでは?」
私はそう指摘する。
「それはそうですが、私の中ではアレは私の負けです。皆さんもそう思うでしょう?」
イリア様がウェンディ達に聞く。
確かに、二度の攻撃をしのぎ切り、彼女から手を出せなくなったのだから、私の優勢だったと言って良いかも知れない。
「ええと、私達からは何と言って良いのか・・・」
ウェンディが口籠る。
皇女自身が負けを認めているからと言って、それを肯定して良いのか迷っている感じだ。
私自身もそうだ。
と言うか、皇女様に『お姉様』とか呼ばれるのは勘弁して欲しい。
「まあ、良いですわ。お互いの呼び方をどうこうすると言うのは私の方からの条件ですし、ここは勝った方のアイラさんの言う事をなんでも一つ聞きましょう」
彼女が笑顔でそう言う。
その表情には負けを認める事に対する悔しさは微塵も見えない。
それどころか、何かが吹っ切れたかの様な清々しさがうかがえる。
良く分からないけど、彼女の中で何かが決着したらしい。
それは良い事だけど、私の方からお願いする事もない。
「・・・ええと、それでしたら、私とそれからここに居るみんなとお友達になって貰えますか?」
少し考えてから私はそう提案する。
他に何も思い浮かばなかったし、こうしておけば『お姉様』呼びは無くなると思う。
「そんな事で良いのですか?」
イリア様が小首を傾げる。
「ええ、イリア様とお友達なんて、おこがましいかも知れませんが、そうして頂ければ・・・」
「そうですわね、皇女様とお友達なんて、私達も光栄です」
イライザもそう言う。
「あら?私はもうお友達だと思っていましたけど?アイラさんがそれで良いなら、そうしましょう。では、これからは『様』付けはなさらないでくださいね」
「うっ・・・」
ニコリと笑い、イリア様はまた無理な事を言う。
「まあ、今すぐ無理にとは言いませんけど」
私が言葉に詰まったのを見て、そう言ってくれた。
皇女様とのお話が一段落したので、みんなでチェリーパイを食べ始める。
入学式の前の時期まではアップルパイも出していたらしいが、今は季節ではないのでメニューには載っていなかった。
代わりに今はサクランボが旬だ。
採れたてのサクランボがパイの中にぎっしりと詰まっている。
一つ一つ種を取り出した実をじっくりと砂糖と一緒に煮込んだものを使っているらしく、甘くて美味しい。
サクランボの香りと酸味も良いし、サクサクのパイ生地も良い。
「ん、美味しい」
思わず声が出る。
ミルクも砂糖も入れないストレートの紅茶で、口の中を洗い流すと、幾らでも食べられそうだ。
やっぱり、このお店は当たりのお店だ。
秋になったら、アップルパイも食べに来たいと思う。
女子達は果物のパイやケーキなどを注文している様だけど、男子達はやはりそれでは満足できないみたいで、ハンバーガーや大盛りのパスタなんかを頼んでいる。
かく言う僕、イザークも明太子パスタなる異国の食材を使ったスパゲッティを注文した。
チラリと、女子達のテーブルに目をやると、異母妹のイリアがアイラ・マクディアス達C組の女子達とテーブルを囲んでいる。
何やら、話が弾んでいる様だ。
今日の精霊甲冑の実習の事を思い返す。
イリアとアイラ嬢の対戦は引き分けに終わったが、それによって親睦は深まったみたいだ。
「結局、『奴』は出て来なかったか・・・」
僕は誰にも聞こえないくらいの声で独り言を言う。
『奴』とはもちろん、銀色の悪魔の事だ。
今まで、あの謎の精霊甲冑はC組の女子がピンチになった時に現れていたが、流石に学校の実習くらいでは出て来ない様だ。
「・・・やはり、何かハプニングが必要か?」
僕は赤い魚卵の様な物が付いた麺を口に運んで、小さく眉を顰める。
このパスタ、美味いのだが、少し辛い。
ここまで読んで頂き有難うございます。
ここで、この物語は一段落になります。
もちろん、この先の用意は有りますが、それは別シリーズの後にしたいと思います。
お気付きの人も居ると思いますが、この話は『機動戦士ガ○ダム 水星の魔女』のパク・・・オマージュです。
女性主人公のロボットもの、学園で決闘をする、曰く付きの主人公機、主人公の母親がキーパーソン、等々、類似点がいっぱい有ります。
ぶっちゃけ、水星の魔女を見て、それをファンタジー世界に落とし込んでプロットを作りました。
色々違う所も有るので大目に見てください。
あ、グラン・ヴァインの名前は某聖戦士ダ○バインから採りました。
オーラ執事なんつって・・・
では、次は『春日部てんこの異世界器用貧乏』で、




