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アップルパイ・ナイツ  作者: O.K.Applefield
3章
28/30

3-6


 お姫様の鳥型精霊甲冑から聞こえる声に、私、ウェンディ・マナドは上流に目をやる。

「牛だ!」

 流れて来たものを見て私は叫んだ。

 濁流の中を数頭の牛が流れて来ている。

 何とか溺れずにいる様で、川から上がろうと必死に泳いで岸に近寄ろうとしては居るが、流れが強くて上手く行っていない。

「もしかして、上流で既に氾濫しているのか!?」

 私の隣にやって来たジルベールがそう言う。

「いえ、氾濫したなら川の外に押し流されるはず。水流で川岸が削れて、そこから川に落ちたんだと思う」

 私はそう言う。

 多分上流の川岸に建っていた牛舎が有ったんだと思う。

 それが壊れて、牛達は濁流に飲まれたのだろう。

 私達より上流で作業をしていた二年生達の精霊甲冑が助けようと、川に入るが流れが速すぎて牛達に近付くことも出来ない。

 出来たとしてもパニックになっている牛を安全に捕まえられるかは疑問だ。

 巨大な鉄の手で無理に捕獲すると牛を殺してしまいかねない。

 実際には近付く事も出来ずに、濁流に足を取られて転んでしまう機体ばかりだ。

「出来るか?」

 ジルベールが私に聞いて来る。

 もちろん、あの牛たちを助けられるかと言う意味だ。

 人ではなく、家畜なので見殺しにしたところで、誰も責めないだろう。

 でも、あれも誰かの財産である。

「やってみる」

 私はそう答えて、自分の精霊甲冑を川の中に飛び込ませる。

 私のアクア・パールは水陸両用精霊甲冑だ。

 下半身を変形させる。

 両足がくっついて、イルカのヒレの様になる。

 可動範囲は減るけど、その分、水流制御魔法を使った時に安定する。

 流れて来る牛は全部で三頭。

 正面から受け止めるのは牛に怪我をさせそうなので、一度やり過ごして、後から追い掛ける形になる。

水牢真珠アクア・パール!!」

 私は精霊甲冑の固有魔法を発動させる。

 水魔法と風魔法の複合魔法で、中空の水の球で相手を捕獲する魔法だ。

 魔法は距離が離れるほど威力と精度が落ちるので、なるべく近くで使用する必要がある。

 その為に、わざわざ川に飛び込んだのだ。

 アクア・パールは主に広い海で使用することを前提に設計されているので、流れの速い川では使いにくいが、仕方ない。

 牛を閉じ込めた水の球を操り、一頭ずつ川岸に運ぶ。

 川の流れに乗りながらの作業なので、C組の仲間達からは離れて行く。

 下流にはB組とA組が土嚢積みの作業をしていて、私が岸に揚げた牛を保護してくれる。

 パニックになっていて暴れるかもと思ったけど、泳ぎ疲れているらしく、陸に上がれて安心したのか大人しくしてくれているみたいだ。

「これで最後!」

 三頭目を岸に揚げる。

 流れの速い川の中でアクア・パールを操り固有魔法を使うのは初めてだったけど、無事やり切った事に安堵する。

 だけど、それがいけなかった。

「危ない!!」

 川岸の誰かが叫ぶ。

 私の精霊甲冑に、鈍い衝撃が走る。

 流木が機体を打ったのだと気付くのに少しの時間を要した。

 油断していた。

 精霊甲冑の外装には防御魔法が施されていて多少の衝撃では壊れはしない。

 しかし、バランスが崩れて濁流の中できりもみする。

 流れる牛を追い掛ける為に、私はアクア・パールを泳がせていたけど、川の水深は精霊甲冑なら立ち上がって胸の辺りまで水が来るくらいである。

 川底に足を着けて立ち上がった方が安定するかと思い、私はアクア・パールを二足歩行モードに変形させる。

 これがまた、良くなかった。

 二本の足に水流が複雑に絡んで、余計に安定を失う。

 川底に足を着けようとするけど、もちろん川底は平らではなく、大きな岩に足を取られてしまう。

「ダメだ!人魚モードの方が安定する!」

 私は再び両足を変形させる。

 一度バランスを崩すと、立て直すのが難しい。

 慌てずに周囲の状況を確認しようと、無理矢理にでも自分を落ち着かせる。

 川岸の別クラスの人達が何かを叫んでいるのが聞こえる。

 下流の自分が流されて行く先を見る。

「橋!?」

 川に架かる大きな橋が見えた。

 この大雨でも流されないだけの立派な橋だが、今は不味いかもしれない。

 石組みの橋脚の土台が激しく水を砕いている。

 あれに激突すると、頑丈な精霊甲冑は壊れなくても、中の私は無事では済まないかもしれない。

 背中に冷たい汗をかく。



 私、アイラは川から少し離れた所で、バロン・ルージュを操り土嚢造りをしていた。

 土を入れる麻袋はかなりの大きさで、破けない様に全体が網の目状のロープで補強してある。

 土嚢を作る作業なんて初めてだけど、良く出来ていると感心した。

「なんか向こうが騒がしいな」

 同じく土嚢造りをしていたクラス委員の男子がそう言った。

 確かに、川岸の方で精霊甲冑で拡声された生徒達の声が飛び交っている。

 川の上をイリア皇女様の飛行型精霊甲冑が飛び回っているのも見えた。

「なんだろ?」

 私は呟く。

「上流から牛が三頭、流されて来ているようです。アクア・パール殿が救助活動を始めた様ですね」

 操縦席に状況を説明するヴァインの声が響いた。

 今、私が乗っているのはバロン・ルージュであって、グラン・ヴァインではない。

「本当に!?アクア・パールってウェンディの精霊甲冑じゃない!?」

 私は制服のポケットから銀色のメダルを取り出す。

 このメダルから声がしていた。

 グラン・ヴァインの格納形態である。

 実はヴァインは人間の姿にも成れるが、普通にこの形に姿を変える事も出来るのだ。

 私は校外でのボランティア活動に出る前に執事姿の彼に会っていた。

 他所の執事達は主人を学校の送った後は自分達の屋敷に戻って仕事をするのが普通なのだけれど、ヴァインは学校の図書館で少しの間、本を読むのが習慣になっていた。

 なんか、オカルト系の雑誌を読むのが好きらしい。

 ともかく、学校を出る前に事情を説明をしたのだけど、何か嫌な予感がするとか言って、自分も連れて行く様に言って来たのだ。

 精霊だからなのか、彼の予感は良く当たる。

「そうですね。アクア・パール殿なら増水した川でも活動できるかもしれませんが、少し不安ではありますね」

 ヴァインがそう言う。

 精霊は万物に宿る存在であり、また、常に流転する為、存在の境界線が薄い。

 ヴァインは他の精霊甲冑の知覚した情報をある程度共有することが出来る。

「牛は全て救出できたようです。・・・む、いけませんね。アクア・パール殿がバランスを崩して流されていきます」

「ちょっ!マズイじゃない!?」

 ヴァインの報告に私は声をあげる。

 助けに行きたいが、ここからは少し距離がある。

 人より早く走ることが出来る精霊甲冑だが、この距離では間に合わない可能性が高い。

「どうなされますか?」

 ヴァインが聞いてきた。

 そう、普通の精霊甲冑では間に合わない。

 でも・・・


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