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【第13話】


 結局、咲千(さち)帝釈天(たいしゃくてん)に連れられ、善見城(ぜんけんじょう)に部屋を与えられた。

 七人部屋で、同室の天女たちは柚有(ゆう)と似た雰囲気のたおやかな女性たちばかりだった。


(きん)さんは違う部屋になったのかしら)


 あとで聞いてみようと思う。

 それより大事なことは。


(きちんとスローライフを送れるかどうか)


 スローライフと「きちんと」の単語の意味が正反対すぎてつり合いが取れないが、そこを気にしてはいけない。


「あのう、ちょっとお尋ねしますが……」


 同室天女に話しかけると、彼女らは揃って大きな目をしばたたかせる。


「善見城の天女のお仕事は、具体的にどんなことがありますか?」


 南天は花畑の管理だけだった。

 しかし、ここは中央の城だ。

 もしかしたら南天ほどゆるくはないかもしれない。


「お仕事?」

「はい。今朝の散華(さんげ)のほかに、どんなことをすればいいのかと思いまして」


 天女たちは顔を見合わせる。

 それから、ゆっくりとこちらを向いて、眉を下げた。


「お仕事というのかわかりませんが……わたくしたちのお役目はここにいること、ですわ」

「ここに……いる?」

「ええ。わたくしたちは善見城の彩りです。光り輝く美しい極楽浄土に存在するのが大事なのです」


 わかったようなわからないような。


 咲千はしばらく眉間に皺を寄せて考えた。

 そして、一つの結論に達する。


(カレーにおける福神漬けみたいなものかな?)


 食べる人も食べない人もともかく、添え物としてあるべきもの……みたいな。違うか。


「――とそんなわけで、咲千さまもどうかごゆるりとお過ごしください。なにも気負うことはございませんのよ」


 ゆるっとまとめられる。


(つまりは、スローライフなのは間違いないのよね?)


 南天から善見城へ移動してきても、天女は天女。

 上司に絡まれさえしなければ、安泰なようだった。


(それなら、ふらふらせずに部屋でじっとしていればいいんだわ)


 部屋は暑くもなく寒くもなく快適で、割り当てられたベッドはちょうどいい柔らかさ。

 退屈しのぎになるゲームやネットはないけれど、日がな惰眠を貪ってごろごろしていても誰も咎めないのだ。


(結構いいじゃない。てか、それ天国)


 咲千は『ザ・引きこもり@天上世界』の称号を手に入れた!

 ベッドに転がりながらくだらないことを考えて、にやにやと頬をほころばせる。

 そんなときだった。


「今宵、大広間で宴会が催されるそうですわ」

「まあ、それではみんなで参加しないとですわね」


 同室天女たちの話に、うとうとしていた咲千は、はっと覚醒する。


 ――宴会。

 それは新人社畜にとって、地獄のお達しでもあった。


(一早く会場に駆けつけて座席順の確認、コースにお偉い人の好みの料理が入っているかどうかのチェック、それから遅刻者、欠席者の最終確認と、ビールの数、お酒の銘柄……)


 目が血走ってきて、眠るどころではなくなってしまった。

 のっそりと身体を起こすと、天女の一人が心配そうに眉を寄せる。


「どうなさったの? もしかしてご気分がすぐれませんの?」


 とたん、ほかの五人がざわめきたつ。


「まさか、お衣裳が汚れてしまったのです?」

「髪型がお決まりにならないとか?」

「腋に汗がにじまれてしまったのですか!?」


 同時に詰め寄られ、咲千はその勢いにのけぞる。


(それって、天女失格の条件じゃん!)


 慌てて否定する。


「心配ご無用! 元気バリバリです」

「まあよかったー」

「それなら宴会にご一緒できますわね」


 天女たちは肩を撫でおろし、優しくほほえんでくれる。


(誤解は解けたけど、宴会に行く羽目になっちゃった)


 今更「やっぱり元気がない」などと言える雰囲気ではない。

 咲千はしょんぼりとベッドを下りた。

 着替えや支度は、世話焼きの先輩たちがあれやこれやと手伝ってくれたので、あっという間に済んでしまう。


(はあ~、宴会か。ロクな思い出がないんだよね)


 酔った上司に絡まれたり、取引先のお偉いさんからはセクハラされたり、酔いつぶれた誰かの粗相した汚いアレを片付けさせられたり……。


 だが、さすがに天国の宴でそれはないだろう。

 着飾って会場へ向かう天女たちの雰囲気は、相変わらずゆるやかだ。

 これから阿鼻叫喚な酒池肉林が行われるとは決して想像できない。


「こちらですわ」


 金色の装飾が眩しい両開きの扉の前で、先導してくれた天女が教えてくれる。

 会場内からは、賑やかな楽の音が聞こえてきて、華やかな花の香りと香ばしい食べ物の匂いがこぼれてきていた。


(もう始まっているのかな?)


 恐る恐る足を踏み入れる。


「わあ……」


 そこは、豪華絢爛な部屋だった。

 壁は金や朱に塗られ、埋め込まれた雲母がキラキラと輝き、天井は五色の原色の顔料で四季折々の花が描かれている。


(ヴェルサイユ宮殿もびっくりだよ)


 もちろんフランスなんて素敵な国、行ったことがないのでガイドブックでしか見たことがないが。


 部屋の装飾の豪奢さに加え、参加者たちも賑やかだった。

 まずは天女たち。

 さすが天上世界の彩りといったところで、麗しい錦の衣をまとってあちこちを練り歩き、笑いさざめく姿は、華やかなことこの上ない。


 会場には、人間らしくない姿の者たちもいた。

 頭が鳥だったり、象だったり、河童のような雰囲気の者もいる。


(なんかよくわかんないけど、ああいう仏像をどこかで見たことがある……!)


 衝撃にふらついていれば、背後から背中をぽんと叩かれる。

 びっくりして文字通り跳びあがって振り向いた。


「咲千、わたくしよ」

(きん)さん!」


 なんとそこには、咲千を善見城へ連れてきた琴が立っていた。


「元気してた?」

「元気してた? じゃないですよっ、もうー」


 人を巻き込んでおいて、ひょうひょうとしているところが憎たらしい。


(でも、いたよね、会社にこういう人……)


 悪気なく面倒ごとに巻き込んでくる人。

 たいてい甘え上手で、世渡りがうまく、友達がたくさんいるタイプで、見た目もかわいかったりする。

 ついついこちらは表面のソフトさに騙されてしまい、あとで痛い目に遭うのだった。


(これ以上かかわらないでおいたほうがいいかもしれない)


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★新連載はじめました★
『見た目は聖女、中身が悪女のオルテンシア』

↓あさたねこの完結小説です↓
『後宮恋恋』

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