第4話 早速ですが、どうしましょう?
「なんなの、この状況は...」
いつもの稽古が終わり、ネクシルと送る甘い時間。
しかし最近お邪魔虫が紛れ込む様になった。
アヌシー?違う。
彼女は空気なの。
見ざる、言わざる、聞かざるなのだから。
「アブドル遠慮するな」
王宮にある貴族専用のサロン。
きらびやかな内装と調度品に囲まれたここは高位貴族が歓談したりする社交の場。
「ネクシル様、宜しいのですか?私の様な男爵家の三男風情が」
「相変わらずだなアブドル。
構わん、ぼ、俺が良いと言っている。
な、マリア」
「は、はあ...」
13歳になったネクシルはいつの間にか[僕]から[俺]に変わろうとしていた。
それは背伸びしているみたいで可愛いのだが。
「そうですよ、私なんか準男爵の妾の子なんですから」
アヌシー、貴女は聞かざる言わざるでしょ!
「まあ...そんな訳だ」
ネクシルはアヌシーを見て苦笑いする。
後で覚えてなさい!
「そうですか」
クスッと笑うアブドル。
不覚にもその顔に懐かしさを...
「どうしたマリア?」
「何でもありません」
悪夢でしか無いアブドルとの結婚生活だった筈だ。
これはおかしい、私じゃない。
....いやアブドルもおかしい、こんな笑顔を見せる奴では無かった。
「ほう、ランダムの所に」
「はい、2年前まで」
雑談の中で初めて聞いたアブドルの身の上話。
アブドルのお父さんがランダムの家臣だったとは知らなかった。
「それはすまなかった」
「ごめんなさい」
「何故です?」
私達の謝罪を理解出来ないといった顔のアブドル。
3年前、私を突き落とした事でランダム家は取り潰しとなったのだ。
アブドルの家族を含め、沢山の家臣や使用人を路頭に迷わせてしまった。
「もしかして私達が路頭に迷ったとお考えでしたら違います」
「違う?」
「はい、サニット公爵様は全ての家臣や使用人が次の仕事が見つかるまで給金を出していただきました」
「サニットがそんな事を....マリアも知らなかったのか?」
「ええ」
意外なお父様の優しさ、ただ武のみに生きて来た訳じゃないんだ。
「それに俺...私を騎士団に見習いとして身元保証まで」
アブドルは目を潤ませた。
「アブドルはどこで剣を?」
「はい、以前父が治めていた領地です」
「領地?」
知らなかった、アブドルのお父さんが以前領主を務めていたなんて。
そんな話.....思い出せない。
曲がりなりにも夫だった男でしょ?
私はなんて薄情な女だったの。
「ごめんなさい」
「どうしてマリアが謝るんだ?」
いけないネクシルの前で私は!
「いいえ、マリア様がお察しの通りで父は領地を召し上げられたんです。
領地経営には不向きな人でした」
アブドルが勘違いをしてくれた。
領地を召し上げられたなんて予想出来る筈ないでしょ?(覚えて無い私も大概だが)
「そうか、マリア良く分かったな」
「い、いいえ」
「はい、お嬢様は凄いですから」
なんでアヌシーが誇らしげなの?
「それで王都まで流れて来たのです。
ここに知り合いが居る訳ではありませんでしたが、治めていた領地は働き口が...」
領地を取られた元領主一家、さぞ肩身が狭かっただろうな。
「それでランダムに雇われたのか」
「はい、大失敗でした」
「失敗?」
顔を歪めるアブドル。
大失敗とはどうして?
「ランダムが父を雇ったのは姉が目当てでした」
「姉?」
「アブドルのお姉さん?」
アブドルにお姉さんが....
前回聞いた覚えがある。
確かランダムは自分の子供と歳の変わらぬ側室を娶ったと聞いた。
それがアブドルのお姉さんだったのかもしれない。
前世でアブドルから聞いてないな、言いたく無かったのだろう。
「お姉さんは大丈夫だったのか?」
「はい、ランダムが追放された時姉はまだ無事でした。
今は父とランネム王国の王都で働いてます」
「ランネム王国?」
「またか、どうしたマリア?」
「隣国のランネム王国と聞いてつい」
なんとか誤魔化すが何故アブドルのお父様とお姉さんがアンロム王国では無くランネム王国に行ったの?
2人共とは前世で一度も会った事が無い。
一体どんな人だったの?
「確かに不思議ですよね、でも近かったんです」
「近い?」
「はい、父が治めていた領地とランネム王国が」
「ほう」
この頃はランネム王国とアンロム王国は友好国同士だったからね。
両国の交流は盛んで人や物資の往来は簡単に出来た。
それは戦争の直前までそうだった。
[何故突然戦争になったのか?]
巻き戻ってから地道に調べてはいるがまだ分からない。
「アブドルは来年どうするんだ?」
ランネムは話題を変える。
離散した家臣の事は王族として余り聞きたくないのかな?
「来年と言いますと?」
「来年アブドルは15歳だろ、王立学園に通うのか?」
「まさか、学園は私の様な者が通える所ではありません」
アブドルは寂しそうに首を振る。
王立学園に通う人は高位貴族や爵位継承資格の者が多数だから。
「僕が推薦してやる、身分は王立騎士団のままでな」
「え?」
「は?」
今なんと?
「めっそうも無い、ネクシル様!」
「構わん、アブドル。
お前を2年見てきて分かった。
信用に足る人間だ、これからも是非僕...いや俺達の力になってくれ」
「ネクシル様....」
感動で震えてるアブドルだけど、良いの?
こんな未来想像してなかったよ。
「アヌシー...」
ダメだ泣いてる。
「分かりました、私アブドル・テンプシーはネクシル様に一生の忠誠を誓います」
「うむ、俺とマリアにな」
「はい!」
力強く頷くアブドル。
再来年の王立学園入学までにしなくてはいけない事がまた増えた。
変わってしまった未来の情報整理だ。




