第3話 早速ですが、お願いします。
お父様達から半殺しにされたランダムへの正式処分(爵位剥奪、国外追放)が終わり、平穏な日々が帰ってきた。
しかし私の心は晴れない。
なぜなら8年後と25年後に起きるランネム王国との2度に渡る戦争、その事が頭から離れないのだ。
「どうしたの?」
「ううん、なんでも」
あれから頻繁に訪ねて来るネクシルは私を気遣うが、こればかりは話す訳にいかない。
10歳の小娘が話す未来なんか大人達が信じる筈がない。
新たな未来を掴む為、私は1つ決意を固めた。
「お父様、お母様、お願いがあります」
1年が過ぎたある日、王宮から戻って来た両親を呼び止めた。
「何かな?」
お父様達は兵士の訓練で疲れているにもかかわらず優しい笑みを浮かべた。
「私に稽古をつけてほしいのです」
「稽古?」
「はい、剣と戦い方です」
「ほう...」
お父様の目付きが鋭くなる。
お母様は相変わらず無言で微笑んでいるが、僅かに開いた目には射抜く物が宿っていた。
「後で理由を聞こう」
「ありがとうございます」
夕飯の後、両親の部屋に。
部屋に入るとテーブルには真剣な目のお父様とお母様が待っていた。
「マリア、どうして稽古なんだ?」
「はい王妃たるもの剣を取り、夫の為に戦う時もあるかと」
「それは王妃の役目では無い、臣下たる我々の仕事だ」
お父様は即座に返した。
正に正論なのだ、平時においては。
「嫌なのです」
「嫌とは?」
ここで退いては先に進めない。
今回は運命を変える為、必要なのだから。
「今回私はランダムに襲われ不覚を取りました。
幸いにも大事にはいたりませんでしたが今後また、この様な事態が無いとも限りません」
「それで稽古か」
「ええ」
お父様は目を瞑る。
納得出来る言葉になってない自覚はある。
身辺警護を増やす事や、不審者のチェックを厳しくする等、策は沢山あるのだから。
「王妃教育は?」
お母様が呟いた。
久し振りに聞くお母様の懐かしい声、思わず目が潤みそうになる。
「決して疎かに致しません」
しっかりと頷いた。
「王妃の教育は厳しく多大な量だ、もし遅れてしまう事があれば...」
「大丈夫です。もし遅れ等が起きたら直ぐに稽古を止めていただいても構いません」
「いや、そう簡単には」
お父様はまだ迷っている。
不安も分かる。
王立学園に入学するまで後4年、それまでに世界に恥じないだけの王妃教育を済ませなければならない。
もし王妃教育が遅れ、アンロム王の婚約者の資格無しとなればサニット公爵家にも泥を塗る事になる。
「お願いします。私とてサニット公爵の娘、家名を汚す様な事は致しません」
二人は真剣な眼差しで私の言葉を聞き、頷いた。
「マリア、次から王宮の稽古に参加しなさい」
「覚悟はあるのね」
こうして王宮での妃教育に加え、新たに剣の稽古が始まった。
「痛てて...」
剣の稽古が始まり半年が過ぎた。
最初は木の剣すらまともに振れず周りを唖然とさせたが両親譲りのセンス(負けず嫌い)で何とか形になってきた。
しかし毎日の筋肉痛に悩まされる日々だった。
「お嬢様、程々にされた方が」
アヌシーが半ば呆れながら私の身体を解してくれる。
彼女は私の為、毎回稽古に付き添いマッサージを覚えてくれたのだ。
「いいえ、奴に負ける様ではまだまだです」
「奴とはアブドル様の事ですか?」
「あんな奴に『様』は要りません!」
私の稽古相手にお父様が指名したのはアブドル。
そう前回私の夫だった男。
全く知らなかったが奴はお父様の部下で見習いの騎士だったのだ。
どうやって前回奴がアブドルを引っ張り出したか知らないが因縁の相手に闘志が倍増したのは間違いない。
「それにしてもネクシル様達、格好良かったですね」
「...そうね」
アヌシーはうっとりとした顔でネクシルとアブドルの稽古を思い出している。
アブドルと一緒に稽古する私達を見てネクシルも参加する様になった。
『俺がマリアを守る』
そう言って剣を振るネクシルの姿に心が痺れた。
幼少の頃から鍛えているネクシルの剣は流石で、アブドルも敵わない。
前回に於いてもネクシルは強かったのだから当然だ。
「ネクシル様とアブドル様か...」
「アヌシー、ネクシル様は私の婚約者なのですよ」
「そうですが?」
馴れ馴れしくネクシルの名を呼ぶアヌシーに苛立ちを覚える。
前回、すっかり洗脳されてた癖に!!