善と悪
喉も干からびてます干からびたナマコです。第三十六話、投稿しました!
王都コルソテクから無数の馬車が出陣する。ゲルモンド、引いてはヘレシーキメラ撲滅作戦のため、騎士団の大部分が王都を離れることになった。
「よし、もう出て良いぞ。」
一際大きな馬車に入った荒斬が、横の積荷に声をかけると、そこから龍牙がひょっこり顔を出した。
「助かったぜ、荒斬。」
「おう。早速だが、デヴィッドのやつから伝言を幾つか頼まれてるから、よく聞いとけよ。」
荒斬がメモを取り出し、読みあげる。
「えーっと、魔法について。この世界の魔法は大きく分けて二種類ある。属性を持つ魔法とそうで無い魔法。属性持ちの魔法は炎、水、雷、光、闇に分かれており…………」
「…………」
これが高校の授業なら龍牙は1分で寝ているが、龍牙の目は覚めていた。それはノレアを助けるという決意による真剣さ、そして、
「俺も使いたかったんだよな、魔法。」
…ただ魔法を使ってみたいという好奇心だった。
「魔法の会得には練習が一番で、新しい魔法の開発のため、国では日々研究されている。しかし…。」
しかし、まだ読んだところで荒斬りの口が止まった。
「どうした?」
「…龍牙は改造の影響によって、魔法が使えない、って書いてある。」
龍牙に電流走る。
「…マジ?」
「どんなに弱い魔法も使えないそうだ。」
「そんな…。」
龍牙が膝から崩れ落ちる。
「まあ落ち込むな。俺も魔法は使えねぇよ。」
「使えたら心臓が飛び出て二度と戻ってこないほど驚く。」
「お前…舐めすぎだろ、俺のこと。」
ガタンッ
二人が話していると、馬車が音を立てて止まった。
「お、着いたみたいだな。」
荒斬が外に出る。龍牙がヘルメットを被りながら外に出ると、中々に大きなビルが立っていた。
「うわー近代的。なんでこんな建物あんの?」
「しっ。声抑えろ。お前がいると知れたら面倒なことになる。」
「ウィッス。」
「!隠れろ。」
荒斬が龍牙を荷物に押し込むと同時に騎士の一人が荒斬の元にやって来た。
「荒斬様。全部隊、配置完了です。」
「よし、あれをやるぞ。」
そう言うと荒斬たちは何かを顔の前に構えた。
「何だあれ…メガホン?」
確かに荒斬達はメガホンを握っている。すると次の瞬間。
「ゲルモンドの、アホーーー!!」
「バカーーーーーー!」
「人でなしーーーーーー!!」
「…………」
とても国直属の機関とは思えない幼稚な行動に龍牙が梅干しを食ったオコゼの様な顔になる。
「それするなら攻撃しろよ…。」
呆れていると、ビルから怪物の群れが出てきた。
「荒斬様!敵兵、現れました!」
「よし、斬りかかれ!」
荒斬の指示と共に、剣を持った騎士たちが突撃する。瞬く間にビルの前は戦場になった。
荒斬が小声で話しかける。
「龍牙、今のうちだ。」
「おう。」
龍牙は脚に力を込め、全力で跳躍した。
「あれは…名無しのライダー!?」
「こんなところにも現れるのか!」
そのままビルの前に着地した名無しのライダーは、再度跳躍しビルの中へと消えていった。
ビルの最上階。ゲルモンドとドゥイスパーがモニターを眺める。
「遂にパーティが始まったなあ!どうするんだ、ゲルモンド!」
「予想していたより兵力が少ないな。騎士団の殆どと聞いていたが。」
「スパイによると、どうやらギャルブリアのピーポーがちょくちょく攻め込んだりしてるみたいだぜ!」
「そっちにそこそこ当ててる。ってことか。新聞で『大部分』って出てたのは誇張表現か?」
そう呟きながら、ゲルモンドが目を横にやると、鎖に繋がれた少女が座っていた。
「お前はどう思う?ノレア。」
「……………………」
ノレアは表情を変えず、虚な目のまま動かない。
「ずっとこの状態だ。俺の『解剖』がよほど応えたと見える。」
「ショッキングだったんだろうな!ま、お子ちゃまには早すぎるよな、お前の『解剖』は!」
「クフフフフ。それにしても驚いたな。まさかこいつが…」
ゲルモンドがノレアの頭に手を置く。ノレアは依然として動かない。
「神の産物、『魔眼』を埋め込まれているとはな。」
「建物外の怪生物殲滅!突撃ー!」
後ろから声が聞こえる。どうやら騎士団も入ってくる様だ。
「にしても、どんだけ居るんだよ!」
既に全身が鱗に覆われる程力を解放している龍牙だが、あまりにも数が多い。
「よっ、とぅ!」
流石に相手をしてられないため、頭を踏みつけ上を飛び越えていく。
「満員電車と同じだな。数が多すぎると動きが鈍る。」
怪物たちは理性がないのか、我先にと押し寄せてくる。しかしそれが功を奏して、怪物たちはもみくちゃになっていた。
「それでもキツイな…………あ、部屋みっけ!」
扉を開けて飛び込むと、その中には無数の怪物はいなかった。
「よし!ここで一休憩入れて行こう。」
「させませんよ。」
「ギャバ!?」
不意に声をかけられ奇声を上げながら振り向くと、一人の男性が立っていた。
「ど、どちら様?」
「ここの研究員にしてレボリューションの開発者、バルザと申します。」
自己紹介をしながらバルザがどんどん毛深くなり、顔が前に突き出してくる。
「私自身も狼のレボリューション。旧型さん、とくと味わって下さい!」
言い終わると、バルザは飛びかかってきた。
「旧型!?何の話だ!」
回転して攻撃を躱しながら龍牙が問う。バルザは爪で斬りかかりながら続ける。
「おや、ご存じない?レボリューションはあなたを改造した技術の応用なのです。まあ、あなたを作ったのは私ではありませんが。」
「そうかい。正直興味ないけど教えてくれてありがと、さん!」
攻撃を避け続けていた龍牙が身をひねり、脇腹に向かって蹴りを入れる。
「効きませんねえ。」
それを容易く受け止め。バルザが龍牙の胸に打撃を打ち込む。
「オゴァ!」
そのまま吹き飛び、壁に叩きつけられる龍牙。間違いなく、肋が折れていた。
「再生力の高いあなたでも、骨まで通ればどうでしょう?」
「う…………く…………」
蹲っていた龍牙が、フラフラと立ち上がる。
「さあ、私のサンプルとなりなさい!」
「グアアアアアアア!」
弾丸の様に迫るバルザを、獣の様に吠えながら龍牙がバルザを迎え撃つ。
「無駄です、諦めなさい!」
「アア…………グッ!」
もがいていた龍牙が動きを止め、痙攣する。
「勝負ありましたね。」
「…………!」
バルザが触れる次の瞬間、跳ね上がった龍牙の右脚がバルザを吹き飛ばした。
「なっ!」
「グアアアアアアアアアア!」
明らかに龍牙の意思ではない。龍牙自身ですら、言うことを聞かない身体に振り回されている。
「何だ…何が起きている。私の技術で、こんなこと起こるはずが。」
バルザが戸惑う。無理もない、龍牙の受けた手術では、バルザの想定していない「異物」が埋め込まれていたから。
バンッ!
龍牙の全身に衝撃が走り、そのまま動かなくなったかと思うと、彼はゆっくりと立ち上がった。
「今……何が起きた?」
「お前、一体何をされた!?何故そんなことが起こる!?」
動揺するバルザに龍牙は向き直り、口を開いた。
「はあ!?知らねーよ!お前開発者なのに分かんねーのかよ!つくづく迷惑な奴らだなお前ら!」
一切の我慢せず言いたいことを言う龍牙。否、「我慢するための理性が失われている」ため、本人にすらどうしようも無いことなのだ。
「お前らマジで邪魔!自分のやりたい様にばっかやって恥ずかしく無いわけ!?」
龍牙の一言が、バルザの逆鱗に触れた。
「……殺す。」
「上等。」
次の瞬間、二人が室内を飛び回る。空中で何度もぶつかり合うが、彼等は止まらない。
「殺す殺す殺す殺す殺す!」
「邪魔な上にうるせえんだよ!」
龍牙が空中でバルザを受け止める。そのまま回転し、頭から床に叩きつけた。
「ガハッ!」
「まだだコラァ!」
龍牙が垂直に跳び、天井に脚をつく。
「!!」
バルザが避けるよりも早く、急降下してきた龍牙がバルザの腹を押し潰した。
「何だ!?今の音!」
騎士団、怪物、全員が辺りを見渡す。龍牙の一撃がビル全体を揺らしたのだ。
「怯むな!畳み掛けろ!」
騎士たちに指示を出しながら、荒斬が敵を斬り刻む。
「もうかなり上まで来た筈だが…」
『その通りだ。よく来たな。』
ゲルモンドの声が建物内に響く。次の瞬間、荒斬たちのいるフロアの屋根が開いた。壁も無くなり、その先にいたのは、
「ようこそ、最上階へ。」
「ヒャッホーイ!血祭りだー!」
ゲルモンドとドゥイスパーだった。
荒斬とゲルモンドの対面と時を同じくして、バルザが口を開いた。
「くそ!くそ!くそ!…何故だ。何故どいつもこいつも認めないんだ!」
「あ?」
そこから去ろうとしていた龍牙が振り返る。
「邪魔、迷惑、外道、残酷!何故そんな評価ばかり!」
涙を流しながら、己の体を掻き毟りながらバルザは叫ぶ。
「何が悪い!?レボリューションは人類の進歩だ!副作用も何もない!なのに!なのに!」
「…………」
先程とは違い、バルザの嘆きを静かに聞く龍牙。
「何が『化け物』!誰が『狂人』!勝手に悪だと決めつけやがって!ただ無知なだけの癖に!」
大粒の涙を溢すバルザの頭に、龍牙は静かに手を置いた。
「何のつもりだ!」
「知らん!」
龍牙の大声にバルザが固まる。龍牙は続けた。
「俺は!お前らがノレアを攫ったことに怒ってるの!お前個人のことなんか初めてあったし知らねえよ!それに!」
龍牙は一泊置いてから一際大きな声で叫んだ。
「ぶっちゃけお前の技術凄い良いって、思ってるわ!俺、変身するのとか、めっちゃ好きだし!」
「え………。」
「お前はお前の正義!俺は俺の正義!それをぶつけ合った!悪なんて無い!」
「あ…………あ…………」
「だから……泣くな。」
龍牙の優しい抱擁にバルザが涙を流す。しかしそれは、憤慨故では無く。
「ありが…とう。」
喜び故の、涙だった。
「…泣くなって、言ったろ。」
「すみません…あと、」
「何だ?」
バルザが最後の願いを口にする。
「私はレボリューションだからこの程度では死にません。ですが…どうか私を殺してくれませんか?」
「…は?」
バルザはゆっくりと続ける。
「このままだと、私は捕まります。でも、私は悪人として捕まりたく無い。私は自分の正義を貫いた…未練は無い。」
「…………わかった。」
そう言って、龍牙は右腕を振りかぶる。
「ありがとう。私の最初で最後で、最高の『友達』。」
「は…出会ったその日で友達とか……軽すぎる……だろ…」
「おや。そう言う割には、涙が出ていますよ。」
「うるせえ…じゃあな、『友達』。」
「はい…」
容赦無い、しかし慈愛に満ちた一撃が振り下ろされた。
バルザは現代を越えた技術力を持っていますが、実は彼は逆に異世界から現代の世界に訪れた経験があり、技術を持ち帰って魔法と組み合わせ発展させました。また、彼はバイセクシャルという設定があります。ではこの辺で。龍の牙と龍の腕、読んでいただき有り難うございました!




