楽しい最中のちょっと気にかかる話
「いや〜、あれ以来ほんとに仲良くなったよな」
ユタカが月姫と美都ちゃんを見ながら笑った。
「……あれ以来?」
俺が聞き返すと、ユタカは笑って肩をすくめた。
「まぁ、色々あってな」
「なんだよ、それ。気になるだろ」
「ははっ。まぁ、そのうちな」
ユタカはそれ以上説明せず、ふと思い出したように俺の方を向いた。
「そういえば、あっきー。ヒロキからなんか連絡あった?」
「ん? ヒロキ?」
急に出てきた名前に、俺は首を傾げた。
「一昨日くらいに『何やってる〜?』って、いつものノリで連絡があったかな。家でゴロゴロしてるって返したら、『そっか!! また連絡するわ!』って。それだけだったけど」
「あー、そっか」
ユタカは何か考えるように、短く答えた。
「なんかあったの?」
俺が尋ねると、ユタカは周りのみんなにちらりと視線を向けた。
「まぁ、今日はみんないるし、また話すわ」
ユタカはそう言って、それ以上は話さなかった。
……ヒロキのことで、何かあったんだろうか。
気にはなったけど、今は話すつもりがないらしい。俺はそれ以上、追及しなかった。
その間に、伊織ちゃんたち三人はお菓子売り場で買い物を始めていた。
「ねえ、月姫! これ美味しそうじゃない?」
伊織ちゃんが棚からお菓子を手に取る。
「本当だね。これ、みんなで食べるのによさそう」
月姫も棚を眺めながら、気になったお菓子を手に取った。
「こっちも美味しそうだよ。色々な種類があった方が楽しそうだね」
美都ちゃんが別のお菓子を見せると、伊織ちゃんが嬉しそうに頷いた。
「いいね! それも買っちゃおう!」
三人は相談しながら、甘いものやしょっぱいものを次々と選んでいった。
俺とユタカは、そんな三人の様子を眺めながら話を続けていた。
「女子って、お菓子選ぶだけでも楽しそうだよな」
「だな。あれもこれもって、どんどん増えてるし」
ユタカが笑いながらカゴの中を見た。
「まぁ、伊織ちゃんたちが食べる分だしな。好きなの選んでもらえばいいよ」
「ははっ、あっきーは優しいねぇ」
「なんだよ、急に」
俺が苦笑すると、ユタカも楽しそうに笑った。
やがて買うものが決まり、俺たちはそれぞれ会計を済ませてスーパーを出た。
夜道をみんなで歩き、しばらくするとユタカと美都ちゃんの帰り道が分かれる場所に着いた。
「じゃあ、俺たちこっちだから」
ユタカがそう言って手を上げた。
「ああ、またな!」
俺が返事をすると、伊織ちゃんと月姫も二人に手を振った。
美都ちゃんは俺たちを見回して、にこっと笑った。
「ユタカとあっきーくんの家、近いからまたすぐ会えそうだね」
「確かに、そうだな」
俺が頷くと、伊織ちゃんがぱっと月姫の方を向いた。
「ねえ、月姫! 私たちも、あっきーの家にちょくちょく泊まりに来なきゃね!」
「ふふっ、そうだね。みんなでお泊まりするの、楽しいし」
月姫も嬉しそうに頷いた。
……いや、ちょくちょく泊まりに来るのはマジでやめてくれ……
心の中で、思わずそう突っ込んでしまった。
もちろん、伊織ちゃんたちが泊まりに来るのが嫌なわけじゃない。みんなで過ごす時間は楽しいし、むしろ大歓迎だ。
ただ、こうも当たり前のように泊まりに来る話をされると、さすがに落ち着かないというか……。
「……ダメ?」
月姫が、ちょこんと首を傾げて俺を見上げた。
その仕草と、少し不安そうな表情。
「全然来て!!」
気づけば、俺は満面の笑みで答えていた。
……あれ?
今、俺、何の迷いもなく答えなかったか?
「ふふっ、よかった」
月姫はいつも通り、穏やかな笑顔で頷いた。
けれど、ほんのり赤くなった頬は隠しきれていない。
(また、あっくんのお家にお泊まり……)
みんなでゲームをしたり、漫画を読んだり、夜遅くまでおしゃべりしたり。
それから、みんなが寝静まったあとに、あっくんと二人でこっそりお話しできたりしたら……。
(……っ! そ、それは、ちょっと楽しみかも……!)
想像が膨らみかけて、月姫は慌てて小さく首を振った。
(だ、だめだめ。まだ次のお泊まりが決まったわけでもないのに……!)
「月姫? どうかした?」
伊織ちゃんが不思議そうに顔を覗き込む。
「ううん、なんでもないよ」
月姫は何事もなかったかのように微笑んだ。
けれど、口元はどうしても緩んでしまう。
(……次のお泊まり、いつになるのかな)
そんなことを考えながら、月姫はみんなの後ろを歩いていった。
⸻
「じゃあ、またな、あっきー!」
「うん、ユタカも美都ちゃんも気をつけてな!」
俺たちは笑顔で手を振り合った。
「伊織ちゃん、月姫ちゃん、またな!」
「うん、またね、ユタカくん! 美都ちゃんも!」
伊織ちゃんが元気よく手を振る。
「またね、ユタカくん。美都ちゃんも、気をつけてね」
月姫も穏やかに微笑んだ。
「うん、二人ともまたね!」
美都ちゃんは最後にもう一度、俺たちに向かって小さく手を振ると、ユタカと並んで歩き始めた。
二人の背中が少しずつ遠ざかっていく。
「じゃあ、私たちも帰ろっか!」
伊織ちゃんが、買い物袋を持ち直しながら言った。
「そうだね。早く帰って、お菓子を広げたいな」
月姫も楽しそうに微笑む。
二人の手には、それぞれ買ったお菓子の袋があった。
「それ、俺が持つよ」
俺は自然に手を伸ばし、二人の袋を受け取った。
「えっ、いいの?」
伊織ちゃんが目を丸くする。
「うん。二人とも、歩きながらだと持ちにくいだろ」
「ありがとう、あっくん」
月姫が嬉しそうに微笑んだ。
「ありがと、あっきー!」
伊織ちゃんもにっと笑う。
「どういたしまして。じゃあ、帰ろうか」
俺たちは家へ向かって歩き出した。
夜の道は静かで、街灯の明かりが足元を照らしている。
隣では伊織ちゃんが、さっき買ったお菓子の話を楽しそうに続けていた。
「ねえねえ、帰ったら何から食べる? 私はチョコ系からいきたい!」
「私は、みんなで選んだものを少しずつ食べたいかな」
月姫も相槌を打ちながら、ときどき嬉しそうに笑っている。
……こうしてみんなで歩いて帰るのも、悪くないな。
両手に二人のお菓子の袋を持ちながら、俺はそんなことを思った。
やがて、見慣れた我が家が見えてくる。
「着いたー!」
伊織ちゃんが、待ちきれないといった様子で声を弾ませた。
「ふふっ。さっそくお菓子を広げようか、あっくん」
月姫も楽しそうに俺を見た。
「うん。とりあえず中に入ろう」
俺が玄関の鍵を開けると、二人は嬉しそうに後に続いた。
リビングを覗くと、母ちゃんが父ちゃんに膝枕をしていた。
父ちゃんは気持ちよさそうに眠り、母ちゃんはその頭を優しく撫でている。
「あっ! ママ、パパに膝枕してあげてる!」
伊織ちゃんが声を上げた。
「ちょっと、伊織ちゃん! 声大きいって! パパが起きちゃうでしょ!」
「えへへ、ごめん! でも、ママとパパって仲良しだね!」
「べ、別に普通だよ! パパが寝ちゃったから、膝を貸してあげてるだけ!」
「ふーん? ママ、顔赤いよ?」
「赤くないっ! もう、伊織ちゃんは!」
母ちゃんは頬を膨らませて、プンスカと怒った。
そんな母ちゃんたちを見ていた月姫ちゃんが、突然ぽんっと手を打った。
「あっ! だからあっくんは膝枕が好きなんだ!」
「……あっ!」
伊織ちゃんも納得したように頷いた。
「そっか! あっきー、私や月姫が膝枕してあげたときも、全然ためらわなかったもんね! 奈緒先輩のときもそうだったのかな?」
「なるほどね。家で見慣れてるから、自然に受け入れられるんだ!」
「いや、そういうことなのか……?」
二人はすっきりした顔で頷き合った。
「ほら、二人とも。いつまでもここにいないで、俺の部屋行くよ」
俺が声をかけると、伊織ちゃんと月姫は「はーい!」と返事をした。
母ちゃんに見送られながら、俺たち三人はリビングを出て、二階にある俺の部屋へと向かった。




