青春と白米
はじめまして!
高校生たちの青春と日常を、笑いも含めて書いていきたいです。
ヒロイン候補が増え、主人公の青春はどうなっていくのか。
暇つぶしにでも読んでもらえたら嬉しいです!
春。
俺――桐生晃星は、岐阜県内の高校に入学した。
高校一年生。
入学してから、まだ数週間しか経っていない。
新しい制服にも、まだ少しだけ慣れない。
クラスの顔と名前も、ようやく一致してきたくらいだ。
とはいえ。
別に、俺の高校生活に特別なことが起きているわけじゃない。
……少なくとも、このときまでは。
昼休み。
俺は弁当を片手に、教室を出た。
別に、一人で飯を食いたいわけじゃない。
ただ、教室で誰かと一緒に食べるより、静かな場所で飯を食うほうが落ち着く。それだけだ。友達がいないからとかでは断じてない。
向かったのは、校舎の端にある古い渡り廊下の先。
ほとんど使われていない螺旋階段を上がったところに、小さなスペースがある。
少し上から校庭が見える。
それだけ。
わざわざ昼休みにこんなところまで来る物好きは、俺くらいだと思っていた。
「……あれ?」
今日は違った。
先客がいる。
ベンチに座っている女子が一人。
風に髪を揺らしながら、弁当箱を膝の上に置いている。
誰だ?
いや、俺はこの子を知っている。
同じクラスの子だ。見覚えがある。
確か名前は天川伊織。クラス内でも1、2を争うくらいのかわいい子だ。
そんなことを考えていると、彼女が顔を上げた。
目が合う。
「あ、えっと...同じクラスの桐生くん?」
「……どうも」
「どうも?」
なんだ、その挨拶。我ながらヤバい返しだと思う。
自分しかいないと思っていたところに先客がいて不意をつかれた。ただ今更、他のところにはいけない。
「ここ、使ってた?」
「ううん」
「じゃあ、俺が座ってもいい?」
「いいよ」
あっさり許可が出た。
俺は少し離れたところに腰を下ろした。
弁当を膝に置く。
これでいい。
静かだ。
誰にも邪魔されない。
そう思ったところで、視線を感じた。
ちらっと横を見る。
彼女が俺の弁当を見ていた。
「……なに?」
「ううん」
「いや、見てたよね?」
「見てないよ」
「あ、そう? ごめん」
「ちょっとだけ」
「やっぱ見てた」
「あは、ごめん」
なぜ笑う。
俺は気にせず弁当箱を開いた。
そして、ふと彼女の弁当が目に入った。
「…………え!?」
なんだコレ!?
思わず二度見する。
白米。
そして白米。
「…………白米しかねえ」
俺は無言で彼女の顔を見る。
「なに?」
「いや……」
もう一度見る。
やっぱり白米しかない。
「……天川さん、おかず、忘れたの?」
「恐ろしいよね、入れたもんだと思ってた」
「…………こいつはヤバい」
頭の中をフル回転させて丁寧に聞いてみる。
「えーと、いつもそうなの?」
「なにが?」
「いや……」
俺は周囲を見る。
誰もいない。
そうか。
もしかすると。
「もしかして、おかず忘れたのが恥ずかしくて、ここで一人で食べてるとか?」
「違うよ?」
うん、違った。
なんか恥ずかしい。
「じゃあ、なんでこんなところに?」
「ん〜、この前偶然ここ見つけて、たまにこういう所でお昼もいいかもって」
「……それだけ?」
「それだけ」
真っ直ぐな目だ。
ほんとにそれだけっぽい。
「ここ、いいよね。いつもここで食べてるの?」
「……まあ、そうだけど」
うん、ちょっと聞いてみなければ。
「おかずないのは?」
「別に平気」
「平気なんだ」
「ご飯あるし」
「……あるよね! でもそういう問題なのか?」
「そういう問題だよ」
そう言って、彼女は白米を一口食べた。
「おいしい」
「……ならいいけど」
「いひひ」
美味しそうだけども。
天川さんて変わってるな。
俺はそう思いながら、自分の弁当へ視線を戻した。
卵焼き。
唐揚げ。
野菜のおかず。
別に食べきれない量じゃない。
でも、目の前で白米だけを食べている姿を見ていると、なんとなく気になる。
「……よかったら」
「え?」
俺は卵焼きを一つ、箸でつまんだ。
彼女は卵焼きを見た。
それから俺の弁当を見る。
そして――
「え? 全部いいの?」
「…………はい?」
思わず天川さんの顔を見る。
あれ、こいつ本気だぞ。
「うん。全部じゃないよ?」
「違うの?」
「違うよ」
「よかったらって言ったから」
「…………全部ではないよね!」
「そうなの?」
「そうだよ?」
「知らなかった……」
どうやら本気で知らなかったらしい。
俺は呆れながら、卵焼きを彼女の弁当箱へ置いた。
「はい」
「……ありがとう」
彼女は卵焼きをじっと見つめる。
そして、一口。
「……おいしい」
「そう?」
「うん」
嬉しそうに笑った。
うん、かわいい。
「もう一個食べたい」
「……俺のなくなるよね?」
「……じゃあ」
彼女が俺の弁当を見る。
「唐揚げ」
「これはダメ」
「なんで?」
「予約入ってるから」
「予約?」
「そう」
「誰に?」
俺は天川さんの向こう側を見る。
植え込みの陰から、茶色い猫がこちらを見ていた。
「……あいつ」
「猫?」
「うん。よくここにくるんだ」
「この小さい友達?」
「友達って……まぁ、そうか」
猫と目が合う。
すると、猫は尻尾をゆっくり振った。
「……かわいい」
天川さんが嬉しそうに身を乗り出した。
「この子、いつもいるの?」
「俺がここに来ると、たまにいる」
「そうなんだ」
「だから唐揚げはダメ」
「……予約してるもんね」
「そだね」
彼女は猫を見つめたあと、もう一度自分の弁当を見る。
当然、白米しかない。
「……じゃあ、ご飯あげる?」
「猫に?」
「うん」
「やめといたほうがいいと思う」
「そうなの?」
「知らないけど。たぶん猫も困るだろ」
「そっか……」
彼女が残念そうに呟く。
なんだか妙に申し訳なくなった。
*
「……唐揚げ、あげないの?」
「あげますとも」
「そっか」
彼女は素直に引き下がった。
……なんだ。
意外と聞き分けいいじゃん。
「…………」
いや、なんか視線をひしひし感じる。
白米だけの弁当。
その隣で、唐揚げを欲しそうにしている美少女。
「…………」
俺は唐揚げを見る。
猫を見る。
もう一度、天川さんを見る。
「……今日だけ」
「え?」
唐揚げを一つ、彼女の弁当箱へ入れた。
「いいの?」
「いいよ」
「でも、猫ちゃんの予約は?」
「……」
痛いところを突かれた。
「今日は特別」
「猫ちゃんかわいそう」
「じゃあ返して」
「それは嫌」
「なんなんだよ……」
天川さんは嬉しそうに唐揚げを眺めている。
……まあ、今日だけだし。
俺は残った唐揚げを一つ取って、植え込みの近くに置いた。
猫がすぐに近づいてくる。
「はい。お前もどうぞ」
「猫ちゃんにもあげるんだ」
「予約入ってたからな」
「ふふっ」
彼女が笑った。
俺は弁当を見る。
卵焼き。
唐揚げ。
そして――。
「……あ」
「どうしたの?」
「ふりかけ」
「ふりかけ?」
「俺のふりかけ、使う?」
「いいの?」
「白米だけだと飽きるだろ」
「……いいの?」
「いいよ」
俺は鞄から自分用のふりかけを取り出して、彼女に渡した。
「これしかないけど」
「ありがとう」
天川さんは袋を受け取る。
「まさかの味変だ〜」
「……嬉しそうだな」
その姿を眺めながら、俺はふと気づいた。
俺の弁当。
卵焼き、なし。
唐揚げ、なし。
ふりかけ、なし。
残っているのは白米と煮物だけ。
「…………」
まあ。
煮物があるだけマシか。
「……あの」
「ん?」
「私ばっかりもらってない?」
「今気づいた?」
「うん」
「俺も」
彼女が申し訳なさそうに俺の弁当を見る。
「返そうか?」
「食べかけ返すなよ」
「じゃあ……」
彼女は少し考えて。
「明日、何か持ってくる」
「いいよ。気にしなくて」
「でも」
「ほんとにいいって」
「……じゃあ、明日もここ来るね」
「……え?」
「だって、ここ静かでいいから」
「それはまあ……」
彼女はふりかけを白米にかけながら、何でもないことのように言った。
あれ?
俺専用の昼飯スポットがなくなる予感。
でも断るのも悪い気がする。
「うん」
彼女は嬉しそうに笑った。
俺は煮物を一口食べる。
……なんだか。
今日の昼飯は、思っていたより騒がしい。
読んでいただきありがとうございます!
第1話は、晃星と伊織の最初の昼休みでした。
まだまだ始まったばかりですが、ここから少しずつ晃星の周りが賑やかになって行く予定です。
楽しんでもらえたら嬉しいです。
次話もよろしくお願いします!




