プロローグ
「完結済み」です。これから毎日、夜20時に、続章をアップします。安心して最後までお付き合いください!
このところ、胸糞悪い事件が多いので、自分がスカッとしたくて書きました。学園カーストの底辺で虐げられていたヒロインが、圧倒的に強いヒーローに救われ、いじめてきた奴らを見返すスカッとするお話です。アクションと溺愛をお楽しみください!
二百十日。古くから災いをもたらす厄日と恐れられたその日は、海からの湿った暴力的な暴風が、県立城東高校の古びた校舎を激しく揺らす朝だった。
灰色の雲が低く垂れ込め、千切れた木の葉が窓硝子を狂おしく叩く。その執拗な音は、まるで幸の摩耗しきった心の輪郭を削り取っていくかのようだった。
今日から、またあの地獄が始まる。
桜井幸は、遮るもののない屋上の床に膝をつくようにして、錆びついた転落防止のフェンスを見上げていた。
目の粗い鉄網の向こうには、濁った灰色の海と、すべてを叩き潰そうとする風の渦が広がっている。
華奢な、あまりにも儚げな身体は、季節外れの突風に今にも吹き飛ばされそうだった。
十七歳という年齢が嘘のように幼く見えるその背中に、容赦のない生塊の重圧がのしかかる。
この冷たい鉄格子の向こう側へ、ただ一歩、境界を越えて身体を投げ出しさえすれば、この終わりのない息苦しさから解放されるのだろうか。
(お願い、やめて)
声にならない悲鳴が、乾いた喉の奥で泡のように弾けて消える。
長袖の制服に隠された肌には、通学のたびに刻まれていく、どす黒い内出血の痕。疼くような腕の傷条。
それらはすべて、教室という名の閉鎖された檻の中で、心の通じない捕食者たちに与えられた記号だった。
理由など、最初から存在しない。ただ「そこにいたから」というあまりに理不尽な確率だけで、
彼女はスクールカーストの最底辺へと引き摺り下ろされ、心を削られ続けてきた。
(私、何もしてないのに)
涙はすでに枯れ果てていた。自己を否定することに慣れきった心は、もはや壊れる直前の、薄い硝子細工のようだった。
限界だった。苦しくて、息の仕方も忘れてしまいそうで、世界のすべてが敵に見えるこの場所で、
彼女はただ、届くはずのない救いを求める。
(誰か。お願い、誰か、私を助けて――)
その瞬間、一段と激しい一陣の突風が屋上を吹き抜けた。
あまりの風圧に、幸はたまらず視界を遮るように顔を背け、黒髪のミディアムボブを乱暴に揺らす。
風の唸りが一瞬だけ凪いだ時、重い鉄製の防音扉が、軋んだ音を立ててわずかに開いていた。
そこに、立っている者がいた。
逆光のなか、荒れ狂う風を背に受けて佇む、見上げるほどに背の高い男の子の影。
吹き付ける暴風のなかで、その少年だけはまるで別の時間軸にいるかのように、静かに、そして毅然とそこに存在していた。




