禁忌の媚薬
辺境伯の私邸の門が、目の前に見えてきました。門番の騎士たちが怪訝そうな顔であなたを見ています。
「……さて、愛の形を教える時間です。この泥のような香り、あなたたちの鼻孔に刻み込んで差し上げますよ」
あなたは荷車に積み込まれた瓶の栓を、さりげなく一つ抜き放ちました。そこから立ち昇る甘美で官能的な香気が、湿った夜の風に乗って門番たちの鼻先をくすぐります。
【シャドウ・ステップ(成功率70)】による、香りに紛れた潜入判定を行います。
ダイスロール: (75)
判定: 失敗
「……おい、何だこの甘ったるい臭いは? 妙だぞ」
風向きが変わり、香りが門番の鼻に届くよりも先に、あなたの足音がわずかに石畳を叩いてしまいました。普段の華奢なエリンの身体とは違う、ミアの鍛えられた筋肉の重みを見誤ったのです。
「そこだ! 誰だ、夜分に何をしている!」
二人の門番が即座に槍を構え、あなたを囲い込みます。逃げ場はありません。あなたはミアの平凡な顔のまま、冷ややかな瞳で門番たちを見上げました。
「あら、ご機嫌よう。……ただの薬売りですよ。あなたの旦那様が、酷い怪我をされていると聞いて。この傷を、もっと深くして差し上げようかと思いましてね」
あなたは言葉巧みに時間を稼ぎつつ、一人の門番の懐へと飛び込みます。
「……おやおや、野蛮な方々。せっかくの甘い夜が台無しです。……ほら、お二人で愛を確かめ合ってみてはいかがですか?」
あなたは「禁忌の媚薬」の小瓶を抜き放ち、二人の門番に向けて中身をほんの数滴、霧状にして散布しました。甘美で、どこか背徳的な香りが彼らの呼吸と共に肺へ入り込みます。
【媚薬散布:成功判定(成功率70)】
ダイスロール: (39)
判定: 成功
「……なんだ、この……妙に体が熱く……。おい、お前……なんでそんなに、色っぽい顔をしてるんだ……?」
一人の門番が槍を捨て、もう一人の門番の頬に手を伸ばしました。
「何を……貴様、気色悪いことを……! だが、お前も……いい匂いだ……」
二人の門番は、一瞬のうちに正常な判断力を奪われました。彼らの瞳には、目の前の同僚がこの世で最も愛おしく、そして激しく求めるべき対象として映っています。彼らは怒号を上げながら、愛と憎しみの入り混じった殴り合いを始めました。
「うわぁっ! 門で何が起きている!」
予想通り、騒ぎを聞きつけた内門の護衛たちが、松明を掲げて一斉にこちらへ走ってきます。
「……愚かですね。愛というものは、いつだってこうして破滅を呼ぶのです」
あなたは騒乱の影で、注意が完全に門番たちへ向いている間に、堂々と正門の脇をすり抜けて屋敷の敷地内へと足を踏み入れました。
「……ええ、そうですね。隠れて潜り込むのも趣がありますが、招かれざる客が『招かれたふり』をして中枢へ踏み込む……その方がずっと滑稽で、皮肉が効いています」
あなたは服の乱れを整え、ミアという肉体に宿る演技力を総動員します。悲しげで、しかしどこか冷淡な「腕利きの薬師」の仮面を被り、混乱する使用人たちの中へ足を踏み入れました。
ちょうどそこへ、騒ぎに気づいた屋敷の執事が、青ざめた顔で駆け寄ってきました。
「おい! 正門で一体何事だ……! ……あなたは?」
あなたはミアの平凡だが誠実そうな顔を使い、哀切を込めて微笑みます。
「おや、ご無礼を。……あの方から『命が危うい、早急に秘薬を持って来い』と、密命を受けていた薬師ですよ。正門の騎士様方は、私の顔も知らずに暴れていらして……。旦那様がもしものことになったら、責任を取れるのでしょうか?」
【言いくるめ/演技:成功判定(成功率70)】
ダイスロール: (56)
判定: 成功
執事は一瞬、疑わしげにあなたを凝視しましたが、主の命という言葉と、正門の大混乱という状況判断が彼の思考を鈍らせました。
「な……辺境伯様から密命を? ……くっ、分かった! 騎士連中が狂った今、旦那様を守れるのは貴殿のような専門家だけかもしれん。こちらへ! 使用人通路から寝室へ案内する。……急げ、旦那様の容態が急変すれば貴様もただでは済まんぞ!」
「ええ、重々承知しております。……旦那様の、その『最期の時』まで、私が責任を持って見届けますから」
あなたは執事の背中に影のような笑みを向け、薄暗い使用人通路へと足を踏み入れました。壁には埃を被った肖像画が並び、どこか墓場のような静けさが漂っています。
「……ああ、なんと従順で、使い勝手の良い駒でしょう」
あなたの瞳がミアの平凡な瞳の中で怪しく光ります。執事が寝室への扉を開こうと立ち止まったその瞬間、あなたは小瓶からわずかな「禁忌の媚薬」を霧状にして、彼の背後から深く吸い込ませました。
【奇襲・媚薬付与:成功判定(成功率75:隠密と錬金術の熟練)】
ダイスロール: (14)
判定: 成功
「……っ!? ……あ……」
執事の動きがピタリと止まります。媚薬の甘い魔力が彼の理性を塗り替え、あなたに対する異常なほどの敬愛と執着へと書き換えていきます。彼はゆらりと振り返り、あなたを潤んだ瞳で見つめました。
「……お呼びでしょうか、私の……救済者よ」
あなたは優しく、しかし冷酷な笑みを浮かべて指示を下します。
「いい子ですね。今から私は辺境伯様を治療します。……その間、誰一人としてここへ近づけないで。もし邪魔をする者が来たら……たとえそれが騎士であっても、その手で排除しなさい。愛する者の邪魔をする輩は、排除すべきですからね」
「御意のままに」
執事は門番のように扉の前に立ち、剣を抜いて忠実な番犬と化しました。あなたを疑う者はいません。あなたはゆっくりと扉を開け、静寂が支配する寝室へと足を踏み入れます。
寝室の光景
部屋は薄暗く、高価な香の匂いが立ち込めています。
ベッドの上には、両足を失い、包帯でぐるぐる巻きにされた辺境伯が横たわっていました。彼は痛み止めで眠らされており、夢の中でさえ足の痛みに呻いています。
あなたはベッドの脇の椅子を引き、静かに座りました。辺境伯の顔は土気色で、かつての横暴な威厳は見る影もありません。
「……ようやく、二人きりですね」




