狂気と血の邂逅
馬車が急ブレーキで激しく揺れ、あなたは屋根から振り落とされそうになりました。
「……ええ、そうですね。この身体は、もうこれ以上は私の美学に耐えられないようです」
あなたは屋根の上で不敵に微笑むと、魔導杖を捨てるように手放しました。代わりに、エリンの華奢な指先をナイフに添え、禁忌の魔力を限界まで練り上げます。この反動で、この身体の神経は焼き切れるでしょう。ですが、それが「乗っ取り」の布石となる。
【クロノ・スラッシュ(成功率65)】
ダイスロール: (12)
判定: クリティカル(成功)
結末:狂気と血の邂逅
時間は、あなたの意思に呼応するように完全に停止しました。
屋根を切り裂いた音よりも先に、あなたが馬車内へと滑り込む姿がそこにあった。
「誰だ、貴様ッ!」
辺境伯は腰の飾剣に手をかけようとしましたが、あなたのナイフは彼の首元に突きつけられていました。あなたは、かつて彼が一度殺したはずの――そして今、復讐の権化となって戻ってきた者の名を、優雅に、しかし墓場のように冷たく告げます。
「ご無沙汰しておりますわ、辺境伯様。……私の名前、覚えていらっしゃいますか? あなたがかつて、冷たい石畳の上で殺したはずの、セレスティア・ヴァルカスです」
辺境伯の顔から血の気が失せます。「セレスティア……? 馬鹿な、貴様は死んだはずだ! その女の顔も……!」
「ええ、これは借り物。ですが、中身は間違いなく、あなたを地獄へ誘うための怨霊ですわ」
あなたはナイフを深々と突き立てました。しかし、馬車は急停止の衝撃で横転し、周囲の騎士たちが怒号と共に押し寄せてきます。この身体の腹部にも騎士の一人の槍が貫通し、視界が急速に赤く染まっていきます。
「……ああ、この身体ももう限界ですね。ですが、私の復讐は、ここからが本番ですよ」
あなたは死にゆくエリンの身体の瞳を大きく見開き、動転して間近に迫った騎士の一人――一番若く、恐怖に震えている騎士の瞳を、自身の濁った黒い瞳で射抜きました。
【禁忌:意識転移】発動判定(成功率:初期値60)
※この判定は、対象の騎士の肉体を奪えるかの判定です。
ダイスロール: (82)
判定: 失敗
あなたの意識は霧散しかけ、騎士の肉体へ移ろうとしましたが、強固な恐怖心と拒絶反応に弾き返されました。
「ぐ、あぁ……ッ!」
エリンの身体は槍に貫かれたまま崩れ落ち、あなたの意識は闇へと引きずり込まれます。
辺境伯は首から血を流しながらも生きていました。彼は地面に這い出し、絶望的な表情でこちらを見下ろす騎士たちに叫びます。
「殺せ! 貴様ら、何をしておる! 今すぐその女を……いや、その肉片を灰にしろ!」
あなたは、薄れゆく意識の中で、冷たい大地を感じます。エリンの身体は完全に事切れました。
復讐は未完のまま、あなたは「次」を探さねばならない。
あなたは今、死者の魂として彷徨っています。意識転移は失敗し、肉体を失いました。
しかし、辺境伯の周囲には、混乱する数人の騎士と、死にかけた辺境伯がいます。
魂は肉体という牢獄から解放され、冷たい大気の中へと溶け出しました。
エリンという器を失い、死の直前の激痛と屈辱があなたを焼き尽くそうとしますが、セレスティアとしての「復讐」という執念だけが、あなたの核として闇に輝いています。
眼下では、騎士たちが倒れたエリンの骸を恐る恐る遠巻きにしています。辺境伯は無様に地面に這い蹲り、震えながら配下に怒号を飛ばしています。
「……肉体がなければ、殺せないとでも思ったのですか? 人というものは、どうしてこれほどまでに短絡的で滑稽なのでしょうね」
あなたは地上に漂う、先ほど倒した魔獣たちの「死の残滓」を見つけました。それは純粋な飢餓と憎悪の塊。あなたは迷いなくその泥のような瘴気の中へ、自らの魂を投じました。
【意識転移(魔獣への憑依)】判定(成功値:60)
ダイスロール: (19)
判定: 成功
霧の残滓が急激に収束し、黒くねじれた異形の肉体として再構築されます。
先ほどまでセレスティアが宿っていたエリンの亡骸が、突如として動き出しました。いえ、正確には「エリンの死体」から立ち上がった、霧を纏う魔獣の影です。
「――ッ!?」
辺境伯が絶叫を上げるより早く、あなたは音速を超えて跳躍しました。
あなたはナイフではなく、霧と硬質な骨で構成された「鉤爪」を振るいます。
【攻撃:魔獣の鉤爪】判定(成功値:65)
ダイスロール: (44)
判定: 成功
ザシュッ、という湿った音が夜の静寂を切り裂きました。
あなたは辺境伯の悲鳴をBGMに、その両足を付け根から食いちぎります。
「あああああぁぁぁッ!!」
地面に落ちた両足を見つめ、辺境伯はショックで白目を剥いて卒倒しかけました。あなたは彼を殺すことはせず、ただその「一生、この大地を這いずり回るしかない」という絶望を、その目に焼き付けさせるようにして霧の中に消えていきます。
「……これで少しは、対等な目線になれましたね。……辺境伯様。死ぬまでの長い時間、私の顔を思い出して震えていてください」
あなたは騎士たちの集中砲火を浴びる直前、霧の深淵へと姿を消しました。




