落日の宰相
夜の帳が下り、広場から民衆の怒声が消えた深夜。松明も消え、ただ冷たい風だけが吹き抜ける広場には、石と泥にまみれ、息も絶え絶えのバルドが吊るされていました。
あなたの足音だけが、静寂の中に響きます。
「……バルド様。おやすみなさい。……いいえ、あなたに安らかな眠りは不要でしたね」
あなたは聖女の純白の衣を夜風になびかせ、彼の目の前に立ちました。誰もいないこの場所で、あなたはセシリアの顔で、かつてのセレスティアの冷笑を浮かべます。
「バルド様、私です。セレスティア・ヴァルカス。……あなたが慈悲深い慈善家の仮面の下で、一族から奪い取り、屑として捨てた女です」
バルドの虚ろな瞳が、最後にあなたを捉えました。言葉にならない喘ぎが彼の喉から漏れます。あなたは彼に慈悲を与えるふりをして、耳元でそっと囁きました。
「……この石の一つ一つが、私が味わった絶望の数です。どうぞ、この地獄を一生かけて噛み締めてください。……さようなら、私の最初の『投資先』」
あなたは広場を去ります。振り返ることなく、次なる絶望の地、王宮へと向けて。
第四章:落日の宰相
あなたはセシリアという聖女の皮を被り、宰相がいる王宮へ向けて歩き始めました。
王宮の門前では、高位聖女であるあなた(セシリア)の到着を、儀仗兵たちが跪いて待っています。宰相の権力は絶対ですが、王家ですら神殿の力を無視することはできません。
あなたは王宮の正門を潜ります。
かつてあなたの一族を破滅へ追い込んだ男の住処。その広大な石造りの回廊を歩く足取りには、最後を飾る悦びと、少しばかりの狂気が混じっていました。
「……火をつけましょう。宰相という巨大な城壁を、外側からの風と、内側からの腐敗で崩れさせるのです」
あなたは王宮の地下にある情報網や、神殿と王宮をつなぐ密使たちの耳に、あえて「セレスティア・ヴァルカス」という亡霊の名前を吹き込みました。
「宰相様を狙う、忌まわしい復讐者の影……」
その噂は、王宮の騎士たちの間で瞬く間に広まりました。宰相は猜疑心の塊です。彼は「セレスティア」という言葉に過剰なまでに反応し、警備を極限まで強化し始めました。しかし、それは同時に、彼が最も信頼できると判断した存在――つまり、神殿から派遣された「清らかな聖女・セシリア」――への依存を強めることでもありました。
あなたは王宮に滞在し、宰相の執務室へと毎日足を運びました。疲れ果て、悪霊の噂に怯える宰相に対し、あなたはセシリアの穏やかな微笑みを浮かべ、彼に聖なる癒しの祈りを捧げます。
「宰相様、お疲れのようですね。……セレスティアという悪しき者が、貴方の魂を狙っているようです。私が、神の加護で貴方の心を誰にも侵されないようお守りいたします」
【演技・魅了工作:成功判定(成功率95:セシリアの資質と演技の熟練)】
ダイスロール: (02)
判定: クリティカル(成功)
宰相は、あなたの清らかな祈りに触れるたび、言いようのない安心感と、セシリアに対する「盲目的な信頼」を深めていきます。彼はあなたを、唯一心を許せる聖域として扱い始めました。
「ああ……セシリア。お前だけだ、私に本当の安らぎをくれるのは。……セレスティアなどという亡霊は、私がこの手で必ず消し去ってみせる。頼む、この夜も私を見守っていてくれ……」
彼は、自分が最も守ろうとしているその「聖女」の正体こそが、自分が消し去りたいと願う亡霊本人であるとは夢にも思っていません。
復讐の最終幕、宰相を破滅へと導きます。
「……ふふ、依存という名の毒は、聖女の祈りよりもずっと甘い蜜の味がするはずですわ」
あなたは聖女セシリアの清らかな指先で、神殿の聖遺物である儀式用の杯に、かつてミアが商売で扱っていた媚薬の「最高純度版」を、聖なるオイルに隠して溶かし込みました。この媚薬は依存度を倍増させる禁忌の調合であり、もはや他の何ものにも、あなた以外には満たされなくなる魂の麻薬です。
「宰相様、貴方の心が安らぐように……」
その杯を口にした宰相の瞳は、数秒もしないうちに濁り、焦点があなたという「聖女」以外に合わなくなりました。彼はあなたの裾にすがりつき、獣のように荒い息を吐きながら、愛を乞います。
「セシリア……お前がいなければ……何も、何も意味がない……! 私のすべてを、お前に捧げる。この国も、富も、権力も……お前のためなら……ッ!」
彼の精神は限界まで張り詰め、そしてあなたへの「愛情」という名の異常な執着で埋め尽くされました。今、彼の心にあるのは、王も、政治も、復讐者への恐怖も消え去り、ただ貴方という存在だけ。
あなたは至近距離で彼を見下ろし、聖女の慈愛に満ちた表情のまま、囁くように告げました。
「私はセレスティア・ヴァルカスですわ。……あなたがかつて、何もかもを奪い、捨てた女の名前よ」
>>儀仗兵って何?
儀仗兵は、国家元首や国賓などの歓迎式典で、敬意を表すために警衛や儀礼を行う兵士のことです。軍隊や儀仗隊に所属し、国を代表する公式行事や慰霊碑への献花、要人の葬送などで栄誉礼を行います。
>>初めて聞いたよ。




