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追放騎士と銃装ゴブリン傭兵団  〜聖女とはじめる辺境の永世中立国〜  作者: ふろんちあ
出会いの章

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第二話 ゴブリンの巣の中で

 岩肌に口を開けた洞窟を前に、銃を抱えたゴブリン兵団がざわついていた。


 互いに肘で小突き合い、喉を鳴らしている。


「……彼ら、楽しそうですね」


 ライラの問いに、ヴィクトルは洞窟から視線を外さず答えた。


「報酬があるからな」


「ギルドの依頼報酬ですか?」


「ゴブリンだぞ? 金なんて何の価値も無い」


 じゃあなにを……疑問を口にする前に、ヴィクトルの指がライラの唇を止めた。


 洞窟の奥から一匹のゴブリンが現れ、周囲を警戒し始めた。


「……スカウト、行け」


 短い命令に一匹のゴブリンが頷き、向かう。ヴィクトルは懐から弩を取り出し、滑車を回す。


 警戒するゴブリンにスカウトが近づき話しかけると、あらぬ方向を指し油断を誘った。


 ――タンッ


 見張りの背後に鋭く弧を描いた矢が刺さり、すかさずスカウトが捕縛した。


「弓も……使えるんですね」


「言っただろ、これでも騎士だ……(ボウガン)なんて誰でも使えるけどな」


 ライラは弩の弦を引く奇妙な仕掛けを見ながら、そういうものかと思った。


 ――


 ヴィクトルが捕らえた見張りを尋問し、ライラにその内容を伝えた。


「巣の数はおよそ二十、中に捕らわれた女は四人。依頼は女の救出だ」


 ヴィクトルは淡々と続ける。


「巣の殲滅は簡単だが、女を盾にされては助けられん」


「……どうするんです?」


 ヴィクトルは短く思案し、試すような視線を向けた。


「ライラ、人質を装ってゴブリンと侵入できるか?」


「え……?」


「先に入り、人質を安全な位置に逃がすだけでいい」


「き……危険ですよね?」


「オレもすぐに突入するが、危険はある」


 ライラはちらりとゴブリンを見た。


「彼らは……信用できるんでしょうか?」


 ヴィクトルはライラから視線を外さず、真っ直ぐに目を合わせた。


「ライラ、オレが問うてるのは君の覚悟だ」


 一拍の間、救われた命と救いたい命。


 ライラは自らを天秤に乗せ、小さく頷いた。


「……やります」


「では、作戦を伝える」


 ――


 縄をかけられたライラが、三匹のゴブリンに連れられて洞窟に向かう。


 三匹の名は、小さいのがスカウト、大柄なのがガード、痩せっぽちで爪の長いのがジョーカーと言うらしい。


 巣穴に流れる湿った空気。腐臭。奥で揺れる焚き火の灯り。


 やがて中からゴブリン達が歓声をあげ、近づく。ガードがそれを遮り、スカウトがギィギィとがなりたてる。


 奥から一際大きなボスゴブリンが現れ、ガードがライラを引き渡した。ボスは舌なめずりしながらライラの髪を掴み、引きずり始めた。


(痛い……怖い……)


 ――大人しくさえしていれば、ゴブリンは女を殺さない


 例えその言葉が真実だとしても、この場で犯されるかも知れない……ライラは緩む縄を握りしめて恐怖に耐えた。


 連れ込まれた粗末な木製の格子の中、縛られた女が四人。衣服は引き裂かれ、傷だらけの足で虚ろな目をしている。


 三匹のゴブリンとボスが何やら喚き合っている間に、ライラはそっと彼女らに近づいた。


「……もう大丈夫です。助けに来ました」


 小声で告げ、ナイフで縄を切り、そっと足に手を当てる。


 心の中で大天使エセリエルへの祈りを捧げる。淡い治癒の光が、女達の足を癒やしていく。


 その瞬間、光に気づいた手下が鳴き、ボスゴブリンが吠えた。


 味方の小鬼らが手下を殴り倒し、次々にボスに飛びかかる。


 ――ブォン


 大柄なボスが丸太のごときこん棒を振り抜き、スカウトが壁に叩きつけられた。


 ――ゴシャ


 鈍い音をたて、血を吐き崩れ落ちる小鬼。


 ガードが懸命にボスを押さえ込む。奥からはギィギィと鳴き声が近づいてくる。


 ライラの視界が揺れる。


 手が震え、逃げ出したかった。


 だが逃げれば女達も、この小鬼も死ぬだろう。


 ライラは意を決し、倒れた小鬼の傷口に手を当てた。


 緑色の肌、ざらついた皮膚。初めて触れる、魔物の感触。


 一瞬ためらい目をつむるも、赤い血とその温もりは人と同じだった。


「エセリエル様、どうかこの者にも治癒の加護を……」


 祈るように治癒を唱え、ライラの手に強い光が満ちる。


 虚ろな小鬼の目に光が灯り、ニタリと歪んだ笑みを浮かべた。


 ギョッとしたライラの体が一瞬のけ反る。


 だが、その小鬼は牙をむき出しにして、ライラを引きずり倒した。


「キャア!」


 すれ違うゴブリン、その牙はライラの背後に襲いかかろうとしていた敵の喉笛に噛み付いていた。


 騒然とする洞窟内に、女たちの悲鳴、ボスゴブリンの怒号が響き渡る。


 混戦の最中、ライラは必死に女達を奥の壁際に避難させた。


 そのとき――


 洞窟に銃声が鳴り響く。


「救出優先、三列横隊で前進!」


 ヴィクトルの声が反響すると、ジョーカーが奇声のような甲高い声をあげた。


 銃装ゴブリン兵団が隊列を組んだまま、声の方向へまっすぐに前進した。銃装隊にゴブリンの群が襲いかかる。


 銃装ゴブリンが狙いを定め、ヴィクトルが火花を放つ。妨害する敵は次々に撃ち殺される。


「撃ったら下れ! 先頭は進め!」


 ヴィクトルの操るゴブリン兵団はまるで、よく訓練された騎士団のように従順だった。


 ヴィクトルに向かいらボスゴブリンが雄たけびをあげて襲いかかる。


 ――パパパン


 ……無情に放たれる数発の銃声。巨体がぐらりと崩れ落ち、あっけなく倒れ伏していく。


 息絶え絶えにもがくボスの首筋に、炎を纏う剣が突き立てられた。


「無事のようだな、良くやった。ライラ」


「ヴィクトル様……」


 ライラは堪えきれずヴィクトルに歩み寄り——ふと、あの時の小鬼に振り返った。


 小鬼は治癒されたケガをさすりながら、ニタリと笑っていた。


「……ありがとう、ゴブリンさん」


 ――


 降伏したオスゴブリンが縛られ、メスと幼子はまとめて囲われた。


 ゴブリン達は嬉しそうに捕らえたメスゴブリンを値踏みしている。メスゴブリンもまた、それを受け入れているようだった。


「ああ……これが彼らの報酬なんですね」


「そうだ。勝者が女を得る。シンプルだろ?」


「メスゴブリンは初めて見ましたが……意外に可愛いんですね」


「捕らえた女と一緒で、普段外には出ないからな。肌もずいぶん白いだろ」


 丸っこい顔、薄緑の肌、長い耳、細い体……。


「これではまるで、歌に聞こえるエルフのよう……」


 その光景をみて、救出された女達が叫んだ。


「全部……全部殺してよ!」


 ヴィクトルはやれやれと首を振った。


「生かしたゴブリンらは服従を示した。それに、ここのゴブリンは女を殺していない。ならば、こちらも女と子は殺すべきではない」


「だから何よ……! 私たちは、辱められたのよ」


「魔物を庇うなんて!」


「こいつらに、何人殺されたと思ってるのよ!」


 女達が泣きながら、口々に叫んでいる。


 昨日までのライラなら、彼女らと同じ事を思っただろう。だが今は……ヴィクトルの言葉が正しいように思えた。


「……皆殺しが希望か」


 ヴィクトルは肩をすくめ、その瞳に仄暗い炎を宿した。


「ならばお前達も、ゴブリンに殺されても文句は言えまい」


「ひっ……!」


 ヴィクトルの後ろでは、ゴブリン兵団が牙を剥き出しにして女達を睨みつけていた。

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