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草稿(設定資料集)  作者: Mel.
17/26

【第一幕】皇国潜入篇 第九節

アイリス視点にてお風呂回続きです!


【勇者アイリス】



 『そういえばアイリス、お風呂はどうするの?』


 昨晩は遅くまで起きていた為、今も若干寝不足気味だ。そんな眠気すら吹き飛ばしてくれる爆弾発言をブチ込んできた犯人こそが私の想い人であるリリスちゃんだ。

 彼女の発言が理解出来ず、思わず口に詰め込んでいた携帯食を吹き出すところだった。危ない危ない。

 それにしてもお風呂か。彼女がお風呂に入りたいというならなんとしても叶えたい。

 そう考えた私は使命感に燃えた。なんともちょろいがそれが私だ。

 何としても彼女に入浴を提供するのだ!

 だけど流石に天幕の外に入浴をしに行くのは私や彼女の立場上難しい。

 一応人族は従軍中にも簡易の公衆浴場を創り、清潔さを保つようにしている。これはちょっとした病気や怪我でも命を落とす危険のある人族ならではの発想だと思う。

 それでも天幕を出ることが難しい以上はここで課題を解決するしかない。

 魔導師を雇って浴槽を創らせる?

 私達の天幕への出入りは必要最小限に留めておきたいので却下だ。

 そういえばリリスちゃんと魔法学の話をした時に彼女は簡単な魔法なら全属性使えると言っていた。

 『リリスって全属性の魔法使える?』

 『簡単なものなら…ええ、まぁ使えるけど』

 返ってきた答えは肯定だった。これなら

 『ならお風呂入れる』

 よし!入浴計画の開始だ!



 そして私はリリスちゃんにどうやってお風呂に入るかを説明し、浴槽の作成を彼女に依頼した。

 本来なら魔法特性のない属性の魔法はたとえ簡単な初級魔法であっても、長時間使用すると集中力や生命力を使いすぎて失神することもあって危険だ。だからこそ人族では専門の風呂焚き師が軍には存在し、重宝されている。

 しかし彼女は強靭な肉体と精神力をもつ亜人だ。初級魔法の乱用くらいならちょっと疲れる程度で済むだろう。たぶん。

 彼女が魔法を唱えて浴槽の形成を行う様を見るのは中々に面白かった。彼女が一生懸命になって魔法を発動させるのを見て私は(そんなにお風呂に入りたかったのか)と感心した。

 その様子を眺めているとなんだか無性に心が安らぎ、私は昨晩の寝不足が祟ってそのまま眠りに落ちてしまった。



 気がつくとリリスちゃんが若干不機嫌そうな目をしながら私を揺すって起こしてくる。

 彼女の顔を見ると心が緩む。

 私は自分たちが監視されていることも忘れ、彼女に声をかけようとしてしまった。

 「おはよ。リリスもうおわっ……ムグッ」

 彼女が顔を寄せてシーってしてくる。なにそれ顔が良い。

 私が彼女に見惚れていると、彼女は少し不機嫌そうに伝えてくる。

 何かあったのだろうか?

 『終わったわよ』

 彼女を背後を見ると二人で入っても余裕のある立派な浴槽を拵えていた。

 どうやら彼女の力量を私は見誤っていたようだ。

 彼女を褒め称えると先程まで見せていた不機嫌な顔は消え去り、花が咲いたような素敵な笑顔を私に見せてくれた。すごくかわいい。



 ようやくお風呂の準備が出来た。

 浴槽さえ完成してしまえば後は私達の得意魔法だから簡単だ。

 リリスちゃんに水を用意して貰い、私が温める。

 私が出す炎は木を燃やすわけではなく、私の魔力を燃やしているので換気の必要もないから楽でいい。

 お湯が沸いてきたところで私は鎧を脱ぐ。

 脱ぎ捨てたところでリリスちゃんが何故か戸惑っていることに気がついた。

 どうしたんだろう?

 そう思って見つめているとリリスちゃんが私はどうしたらいい?なんて聞くからびっくりした。だがすぐにリリスちゃんの天然な部分が出たのだろうと納得する。

 お風呂に入るなら服は脱ぐと思うのだが、亜人達は違うのだろうか?

 それともリリスちゃんは今すぐにお風呂に入りたいわけではない?

 そう言えばリリスちゃんがお風呂に入りたいっていうはっきりとした意思表示はしていなかった。また先走ってしまったかとすこし焦る。

 兎に角今は彼女の意思を確認することが先決だと思い尋ねてみる。

 『リリスは入らないの?』

 彼女は少しの間逡巡し、真剣な顔で頷いた。

 『入るし?』



 先に私が全ての衣類を脱ぎ去り、湯船に浸かる。

 久方ぶりに湯船に包まれ全身の筋肉が解されていくのを感じる。

 やはりお風呂は良いものだと認識を新たにしていると、背後でリリスちゃんが湯船に入ってきた。そして私の背中に彼女の素肌が擦れる。

 そう言えばお風呂といえば裸だった。

 恐らく背後で入浴を楽しむ彼女も今は一糸纏わぬ姿を惜しげも無く晒しているのだろう。

 そう思うと緊張してきた。

 一度意識してしまうと私の全ての意識が背中に集中する。

 背中が燃えているかのように熱い。

 それに加えて呼吸が苦しくなる。

 私の中で彼女の肌を直接見たいという欲望が大きくなってくるのを感じた。

 そして私はその欲望に抗えずに、チラリと目線をやる。

 彼女の陶器のような白い肩が私の目に飛び込んでくる。

 我を忘れて彼女の芸術品のように美しい身体を凝視していると私の視線を感じたのか彼女がおずおずと振り向いてくる。

 その瞬間お湯に浸かって、濡れ羽色になった髪と真紅に染まる頰に目を奪われた。


 「「キレイ…」」


 その言葉は無意識に口から零れ落ちていた。

 次の瞬間には外に兵士がいることを思い出し、慌てて口を噤む。

 私は急いで自分の口を押さえて外の様子を伺う。

 良かった。外の人には聞かれていない。

 私がリリスに好意を抱いていることを皇国にバレることは避けたい。兎に角これからはもう少し気を引き締めよう。

 そう思って彼女に視線を戻すと彼女も私と同じポーズをとっていた。

 あれ?そういえばさっき私のセリフが重なって聞こえていたような…。

 真っ赤に染まったお互いの顔を見ながら私達は固まってしまっていた。

 


 しばらくの間私たちは見つめ合っていた。

 私はただリリスちゃんに見惚れていただけなのだが、リリスちゃんは私が彼女を凝視していたことにびっくりしたのだろうか?

 しかしそれも仕方ないのだと言いたい。何故なら湯気を纏ったリリスちゃんはいつもよりその妖艶さが増しているのだから。

 油断すると彼女に齧り付きたいなんてことを思ってしまうほどに私の思考は乱れていた。

 私はリリスちゃんの艶やかな裸体にすっかりと魅了されてしまっていた。

 それと同時に不安になる。

 彼女は私の体を見てどう思っただろう?

 醜いと思っただろうか?

 実際に私の身体には醜い傷痕が大量に付けられている。

 それは戦争で戦った時の傷であり、聖敵を粛清した時の傷であり、忌まわしき調教をされた時の傷である。全身傷だらけの私がキレイな筈がない。やはり先程の言葉は聞き違いか、私の妄想なのだろう。

 私は何故か胸に走ったチクリとした痛みに顔を歪ませて俯いた。

 痛みには耐性がある筈の私が苦悶の表情を浮かべるくらいにそれは強烈な痛みだった。次いで激しい目眩に襲われた。私の視界がホワイトアウトし、平衡感覚が失われ倒れかけた。

 倒れそうになる私をリリスちゃんは抱きとめ、その優しい手つきで撫でてくれた。

 その優しさに救われ、視界が少し晴れる。

 戻った視線の先には心配そうに私を覗き込むリリスちゃんの顔があった。

 その表情を見て彼女に全てを話したいと思った。

 きっと彼女なら私の過去をも包み込んでくれる。彼女ならきっと……。

 私は過去と向き合う決意をし、声をかけようと顔を上げたその時、不躾な闖入者が声をかけてきた。


 「勇者様、指揮官がお呼びです。指揮所まで起こしくださいますようお願い申し上げます」


 軽くため息を吐きリリスちゃんに向き直る。

 『リリス、ごめん。呼ばれたから行かないと』

 リリスちゃんはまだ私のことを心配そうに見つめる。その目が本当に大丈夫なのかと問うてくるのがわかった。

 『もう大丈夫。ありがとう』

 それを聞くとリリスちゃんは心底安心したように息を吐き、私に向き直ってコクンと頷いた。

 私はリリスちゃんのその親切さ、誠実さ、心の清らかさが滲みでる表情を見るたびに何度でも彼女に惚れ直す。

 (愛してる)

 心の中で彼女にそう告げ、私は服や鎧を身につけ、聖剣を手に取り天幕を後に歩き出した。



 少し歩き、指揮所に到達する。

 すぐに指揮所に入り、指揮官こと狸親父(彼の名前は覚えていない。そもそも人の記憶をするのは得意ではない)に要件を聞く。

 「要件は?」

 「良くぞ来て下さった勇者殿。まぁこちらにおかけ下さい」

 彼の態度を訝しく思いながらも勧めに従う。

 狸親父が終始ご機嫌だと何か裏があるんじゃないかと心配になってくる。

 「先ずは魔王討伐ご苦労様ですな。昨晩部下を魔王城の方に確認に向かわせました。本当に何もかも焼き払ったのですな」

 そう言いながら彼は人払いをする。

 全く嬉しくないことにこの空間には私と信用ならない狸親父の二人だけになる。

 「昨日もそう言った」

 愛しい人との時間を邪魔されたのだ。返答も自然とトゲのあるものになる。

 「魔王以外の魔族はどうされました?」

 「目に入った者は全て薙ぎ払った」

 「左様ですか。昨晩の内に皇国やその他全ての国に伝令を出しました。私達はその返事待ちの状態ですが、恐らくは最初に此度の遠征の盟主である皇国に凱旋する運びとなりましょう」

 「分かった」

 「これも全て狙い通りなのですかな?」

 お互いの間に緊張が走る。

 私は狸親父を睨みつけながら彼に問う。

 「どういうこと?」

 彼は冷静な態度を崩さずに返答する。

 「昨晩私は信頼できる部下に戦地の調査を依頼しました。彼らの城下町も魔王城も全て調べる様に指示したのです」

 私は無言で彼の言葉の続きを待つ。

 「確かに火の手は魔王城にまで及んでいましたが、されど城内には二日間戦い続けたほどの激しい戦闘の痕跡は確認できておりませんでした」

 存外よく見ている。

 少し彼のことを侮っていたようだ。

 「貴女にしてはツメが甘かったのでは?」

 内心少し思っていたことを言い当てられ少し冷や汗が流れる。

 確かに私は後始末を怠った。それも偏に…

 「それだけ彼女が大切ということですかな?」

 今度こそ動揺が顔にまで出てしまった。

 そうなのだ。私は愛する人が出来たが故に出来ないことが増えてしまった。

 だからと言って私はその愛から逃げるつもりも、それを失敗の言い訳にするつもりもなかった。

 「お気に入りだから」

 「左様ですか。しかしもうそろそろ腹を割って話しても宜しいのでは?私は皇国の力を削りたい。貴女も私を信用してその本当の目的を話してくれても良いのでは?」

 それも一つの手ではある。

 どのみち今後も彼の力は必要になってくるのだ。

 だけど彼を今無条件に信用は出来ない。

 一度彼を試す必要がある。

 信用に値しないのであれば消えてもらう他ない。

 私は聖剣を抜き、目にも留まらぬ速さで駆け抜け、彼の喉元に切っ先を突きつける。

 「今この場でお前の命を握っているのは私。お前に命令される筋合いなどない」

 狸親父の喉元の剣が喉に食い込む。

 信用できない輩は大抵この程度で音をあげる。

 さて、彼はどうだろうか。

 「わ、私を殺したとてなんの意味もないでしょう。それに私がしたのは命令ではなく、お願いのつもりです!」

 微妙な反応だ。もう少し試してみよう。

 私は冷酷に笑い、彼を脅す。

 「お前を殺して代わりに皇国の将軍をこの遠征軍の頭に挿げ替える。詮索屋よりは幾分御し易いだろう」

 「わ、私を殺したとてすぐに勇者殿に疑いがかかりますぞ!」

 「気にするな。聖剣には命が尽きた後も死体に浄化魔法と回復魔法をかける機能が備わっている。お前の首を掻っ切り、その傷を消してしまえば分かるまい?」

 その言葉を聞いた狸親父は顔を青褪めるも、その目の光は消えなかった。

 そして私に宣言する。

 「たとえここで勇者殿が私を殺そうが構わぬ!私は祖国への愛に殉じるのみよ!ただ勇者殿、これだけは覚えておきたまえ。私以上に勇者殿に力を貸せる者など他に居ないということを!」

 その言葉を聞いた私は剣を鞘に収める。

 「すまない。試させてもらった」

 彼はその言葉に安堵しつつも憤慨していた。

 「噂通り勇者殿は乱暴な御仁ですな」

 「本当にすまない」

 「いえ…。貴女がそこまでするのは彼女が関係しているのですな?」

 その問いに頷く。

 「そう。それよりも貴方以上に力になってくれる者は居ないってどういうこと?」

 「ええ、それはですな。勇者殿も知っての通り私たちの国は魔族領に隣接して居ます。なので私達は皇国よりも長く魔族と関わりがあります」

 それは初耳の情報だ。

 「なので私達の国にとって魔族は昔馴染みの交易相手であり、それ以上でもそれ以下でもありません。なので私達は教会の方々ほど魔族に対して思うところはないのです」

 非常に興味深い情報だ。

 だけどかなり危険な話だ。この話を万が一にでも皇国の耳に入ったら彼の祖国は神聖皇国と戦争状態に突入する危険すらある。

 私が周囲を警戒していると彼が大丈夫だという。

 「人払いは完全に済ませております」

 本格的に彼の評価を改める必要があるようだ。

 少なくともこの場では完全にこの人の掌の上だったわけなのだから。

 これで私は彼のことをより警戒する必要が出てきたが、誠意はキッチリと見せて貰った。

 誠意には誠意で返さなければ…。

 そう思い、口を開きかけたその瞬間嫌な予感を感じた。

 その直感を肯定するかのように兵士が慌てた様子で指揮所に入ってくる。

 「し、失礼します!指揮官殿はおられますか?」

 「ここへは入ってくるなとあれほど…!」

 指揮官の怒声にも怯えながらも、伝令に来た兵士はその声を遮って報告を叫ぶ。

 「も、申し訳ございません!しかし非常事態です!只今勇者様の天幕にて魔族の捕虜が暴行を受けている…」

 私はその兵士の言葉を最後まで聞かずに駆け出していた。

 グングンと速度を上げながら、嫌な予感が胸中を渦巻く。

 嫌だ。嫌だ!嫌だ!!!

 絶対に彼女を失いたくない。


 どうか無事でいて…。


 そう祈りながら私は自身の出せる最高速度で疾走していった。



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