蛇足
『一軒家で謎の爆発。女性一人が死亡』
〇月〇日午後8時ごろ、○○県○○市○○町〇丁目の民家から爆発が起こったのを、近くを通りかかった人が発見し、119番通報した。○○署によると、現場からバラバラになった女性一人の遺体が発見された。遺体は、その当時家にいた神通サユリさん(32)と見られている。
現在、爆発の原因を調査しており――
―――
俺はネットニュースを見て、サユリが死んだことを確認した。
助かった……。
これでもう、サユリに殺される心配はなくなったのだ。
俺は、投稿した『ひどい感想で作者を悲しませたら復讐されました』を編集し、登場人物の名前やペンネーム、作品名などを変更した。
削除まではしなかったのは、せっかく書いたこの作品に愛着を感じていたからだ。
できれば他人に読んでもらい、感想をもらいたかった。
この作品を残しておいたからといって、俺がサユリを殺したとバレる心配はないだろう。
書いた文章が現実化するなど、誰も信じるはずがない。
完全犯罪だ。
ただ、謎も残っている。
なぜサユリは、俺の名前と住所がわかったのだろうか。
まあ、今となってはどうでもいいな。
それから一週間後――。
俺は落ち込んでいた。
投降した『ひどい感想で作者を悲しませたら復讐されました』に、全く読者からの反応がないのである。
一件もブックマークがつかない。
一ポイントも評価が入らない。
サユリを殺すという目的は達成したので、この作品は役目を終えたとは言えるのだが、それでも俺は他人に読んでもらい、評価をしてほしかった。
おそらくは、これが小説家の性というやつなのだろう。
さらに一週間後――、
相変わらず、読者からの反応はなかった。
どうやら、俺には文才がなかったようだ。
そう思って、諦めかけていたときだった。
ついに待ち望んでいた文字列が、目に飛び込んできた。
『感想が書かれました』
きたっ!
ついに反応があった!
もう、どんな感想でも構わない。
全く反応がないのが、一番つらいのだ。
俺はドキドキしながら感想を開いた。
―――
悪かった点:
ひたすら気持ち悪い。
一言:
読んで後悔しました。
こんなゴミみたいな話を投稿しないでください。
―――
俺はあれ以来、会社を休んでいる。
あまりのショックで、何をする気にもなれないのだ。
もちろん、あの感想は即座に削除した。
だが、俺の心には強く残っている。一生消えることはないだろう。
俺は今にして、サユリの気持ちを理解できた。
あの感想を書きこんだ奴を、ぶん殴ってやりたい。
だが、もちろんそれはかなわぬ妄想だった。
………………。
…………。
……。
ん?
ユーザTOPページを見ると、一件のメッセージが届いていた。
驚いたことにそれは、運営からのメッセージだった。
―――
件名:悪質な感想を書きこんだ人物への対応について
『小説家になろう』運営、検閲部です。
平素より弊社のサイトをご利用いただき、誠にありがとうございます。
今回、一乗谷様の作品において、悪質な感想が書き込まれたことを確認いたしました。
当部では、そのような書き込みは作者様のモチベーションを著しく低下させる行為として、厳しく取り締まっております。
つきましては、感想を書きこんだ人物のIPアドレスからプロバイダを特定し、プロバイダのデータベースにハッキングを行うことによって、該当の人物の個人情報を入手いたしました。
その人物の個人情報をお送りしますので、今後の創作活動の参考にして頂きたく思います。
なお、このことは他言無用でお願いいたします。