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看護の道  作者: 蒼龍 葵
三章 私が心掛けること
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「あなたに出逢えて良かった」


 人というものは具合が悪い時に救って貰えると本当に嬉しいものです。

 私が新人の頃から心がけていることは『沢山いる看護師の一人』ではなく、『●●さんに出逢えて良かった』と誰か一人でもいい。そう心から思っていただけることです。


 看護師経験15年の間で10名の方に「あんたに出逢えて良かった」と言われた事があります。15年も看護師やっててたった10名って、少ないですかね……。

 例えそれが少ないと感じた方はもっと素晴らしい看護をされているのかもしれない。ですが、私が受けたこの言葉を言った方々は心からの本心でそう言ってくださったので、私にとってかけがえのない宝物の言葉です。

 どんなに仕事が忙しくて辛い時があってもそう言われると、『ああ、この仕事をやってて良かったなあ』と思える最高の瞬間です。


 長年同じ仕事をしていると誰でも「慣れ」というものが生じます。とはいえ、「慣れ」が無いと仕事の効率は悪く、仕事も定時で終わらないので絶対必要なものです。

 しかし「慣れ」と「適当」は違います。残念ながら「慣れ」を通り越して「適当」になる人が増えているのが現実です。

 「適当」になる人はやはり「慣れ」の方に気持ちが傾き、最初に看護師を志した初心を忘れてしまっているのかも知れない。……残念ですが、これについては直接本人らに言ってもなかなか理解してもらえません。なぜなら彼女らは自分の仕事を「適当」と思っていないからです。

 「適当」な看護師に患者は心を開きません。例え心を開かなくても、その日の『担当看護師』というものは患者が決められることではないのが現実。「ああ、●さんかあ……やだなあ……」と感じても看護師の担当を変えるには、師長に声をかけて、なんで?と理由をくどくど述べて、後から聞きたくもない嫌いな看護師から「ごめんなさい気をつけます」と感情のない挨拶を受けるんですよ。もっと最悪な話しをすると、上司に怒られた看護師は心で舌打ちをしながら患者に対して目につかないような陰湿な反撃をするのです。

 ニュースで皆様が残念なくらいよく目にするのがそれです。『虐待』『放置』『異物混入』

 全ての病院がそうではありませんが、少なくともゼロでない事はテレビをご覧のみなさまは理解されておりますよね。


 自分に全く特のない面倒くさいステップなんて具合悪い時に踏んでられないじゃないですか。だから入院してる患者は自然と我慢を覚え、小さなストレスを溜めて最後に爆発するのです。

 私も可能な限り患者の話を聞きたくていつも早めに出勤し、自分の部屋周りでは訴えを聞いて対応しておりました。しかしそれが逆にあだとなり、全然関係ない部屋の患者からもあれこれ頼まれる『何でも聞いてくれるいい人』になってしまったのです。

 これが私のキャパオーバーになり、結局病院はもう厳しい……という結果になりました。

 私は誰かに必要とされる看護師でいたかった。でも自分にはそこまであちこち耳を傾ける器量が足りなくて病院での時間では賄いきれなかったのです。


 この後に語りますが、母から言われた「急性期で最低7年働け」というノルマは達成して東京に出てきたので、病院を辞めて現在の仕事に就いていることに悔いはない。

 いまは患者ではなく、利用者という立場の方々にケアをしておりますが、自分の看護観は働くジャンルが変わってもブレないものだなと思いました。

 

 これから看護師になる方、先を悩む方へ。


 人生は長いです。あなたの看護を必要とする方は沢山います。諦める、辞めるは簡単です。けれどもいつかきっとあなたの看護人生の中で「あなたに出会えて良かったです」と言ってくれる方が必ず現れます。

 どうか初心に戻り、「適当」の自覚がある方はもう一度己がしていることを振り返ってください。

 先に述べた人にされて嫌なことはしてはいけないのです。私達の仕事はあくまでも患者がその病院や施設を選び、そこで十分なケアを受けてこその報酬なのです。

 病院にいるとどうしても長いものに巻かれているので守られている気分になるでしょう。ですがいずれ「適当」な人はどこかで手痛い傷を受けますよ。

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