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盗賊討伐

 

 仕事自体に付いては特に問題は無かった。


 それと言うのも、オレの保障が意外と効力を発し、あの商人が全て受けてくれたんだ。


「いや、助かったよ。君からのアイディアの関連でさ、手が足りなくて困っていたんだ。君がバックに居るのなら安心して使えるってものだし、彼らの事は全て引き受けるからね」


 そんなのを傍らで聞いていたまとめ役、すっかり姐さんの再来みたいなつもりになって、他の連中に広めやがったんだ。


 おかげですっかり救世主扱いとなり、うっとおしいのなんのって。


 ええいっ、構うなっ。


 ◇


「たっせー」


「もう終わったの? 」


「うん、簡単だったよ。僅か数時間で銅貨10枚か、確かに美味しい依頼だったね。なのに誰も請けなかったなんて、もしかしてオレに取っておいてくれたのかな、なんてね」


「おやおや、あれを簡単と言うのかい」


「この前にも逢った人だよね。もしかして偉い人? 」


「そう恐縮しなくて良いのよ。確かにサブマスだけどさ」


「あの守銭奴の下なら只者じゃないよね」


「あっはっはっ、あれをそう呼ぶのかい。確かにそうだわね」


 どうやら認定に認定が足されるらしく、何もしないのにいきなりDランクになるって話だった。


「いいよ別に、オレはFのままでも問題無いんだし」


「そうはいかないわ。ギルドからのランクは受けてもらいます。嫌なら抜けるしか無いわね」


「預金は下ろせるんだろうな」


「トラブル中の預金は封鎖されるわ。そうしてそのまま除名になると自動的に没収ね」


「こいつも守銭奴のクチだ」


「あっはっはっ、それでどうするんだい? 」


 競争会社が無いとやり放題だな。


 かと言って『探索者協会』なんてライバル会社を立ち上げる気力も無いし、ここは従うしか無いのかな。

 確かにオレの今持つ力をフルに使えば、恐らくはやれない事もあるまい。

 例えば本家から上に話が伝われば、不可能じゃないはずだ。


 だけどさ、そんな事で切り札を失うのは得策じゃない。


 今は本家に貸しを作った状態なのに、そんなのを頼めばイーブンになっちまう。

 そうなれば次に何かを頼もうと思えば、それはこちらの弱みになる。

 いかに関係者と言ってくれようと、そこまで貴族が甘いはずもなし。

 食えると思えば身内でも食らうのが貴族って聞くし、そんな機会は与えないに限るってもんだ。

 あの伝はオレが困ってどうしようもない時にこそ、その効力を発揮して欲しいと思っている。


 だから使えないんだ。


 ◇


 駅馬車で3日の旅。


 少し離れたある村の長からの報告で、近くの山に盗賊のアジトらしき物があるという。

 現在は特に被害は無いけど、何かと物騒なので何とかして欲しいという依頼を受けて、ギルド職員の調査の結果、盗賊の存在が確認された案件。


 つまりは盗賊討伐になる。


 Dランクに強制的にされた上、年に1度の強制依頼の義務とか言われて仕方なく、素直に受けて今馬車に揺られている。


 報告書では汚い格好の連中が、山に掘っ立て小屋を拵えて、その辺りをうろついていたとあるが、それでどうして盗賊の話となり、討伐の話となるのかがよく分からない。


 今住んでいる町では数年前、隣の町では去年、共に貧民街は潰された。

 となるとそこに住んでいた者たちはどうなったのかと思うだろう。

 住民ごと焼き払った訳でもないとなると、どっかに移住したって事になる。


 確かにこの前の連中も貧民街の者たちだったけど、潰された頃には仕事を持っていて、それで彼らだけは何とかやり過ごせたんだとか。


 それこそ貧民街に建っていても変に思われないような古い家だけど、一応は賃借契約が成り立っていて、今は亡き母親の名前で借りてあった。


 どうやら5年契約のようで、もうじきそれが切れるって話だったので、追加で10年足しておいた。


 月に銀貨1枚、年間で銀貨12枚、10年だと銀貨120枚、つまりは金貨2枚と銀貨20枚。


 あっさりと払えばますます救世主扱いが酷くなったけど、またぞろ依頼に出るのも嫌だしな。

 対策をしたのにすぐに問題になるとか、オレが手抜きをしたみたいだろ。

 確かに赤字だけどそんなのどうでも良いんだ。


 これは母親が成した事の後始末になるのだから。


 ◇


 いつもの周囲警戒魔法で問題の場所にはすぐに到着。


 確かに眼前にはかつてのオレ達のような連中がうろうろしている。


 中には……あれっ、あいつは。


「おーい、屋台の倅の……えーと、名前が、その、つまりは」


 しまった、忘れた。


「何だよ、ミゲル。オレの名前を忘れるとか薄情な奴だ。オレはカインドだ、もう忘れるなよ。てか、何でここに居る。お前もここに移住にすんのか? 」


 ああ、カインドか。


 何か攻撃ヘリの名前に似てた記憶はあったものの、それが何か分からなくてな。


 ハインドに改名しないかな?


 ◇


 やっぱりそうだ。


 どうやらあの後、揃って町を出ると決まったものの、行く場所に困った挙句、あの依頼を出した村に伝があるって奴の案内でここ辺りまで来たらしいが、肝心の村に入村を拒否されて、仕方なくこの山の中でもちょっとした広場になっていたここに住まう事にしたらしい。


「大人連中が魔物の討伐をやってくれててよ、今のところは安全なんだけど、その見返りが酷くてよ。お前もここに住むんなら、あいつらの言いなりになるぞ」


 やっぱりそんな事になってたか。


「お前、親父さんはどうした? 」


「それがな、あの時、はぐれてな、それっきりだ。だからもう死んだんじゃないかな」


「お前、屋台をやる気はあるか」


「そりゃやれるならやりたいさ。親父からやり方は教わっているし、機会さえあれば今日からでもやる自信はある。けどな、もうそんな機会は無理だろ」


「伝はここにある。もちろん資金もな」


「お前、何かやらかしたな。もしかして悪い事じゃないよな」


 おかしいな。


 オレのイメージってそんな悪人なのか?


 確かに殺しの経験もあるけどさ、そもそも冒険者ってのはそれぐらいの経験が無いとやれないものらしいし、良い経験になったとまでは言わないものの、必要な経験と思っているんだ。


 けどさ、それはあの町を出てからだ。


「お前の中ではオレはどういう扱いになってるんだ」


「盗人」


 酷い、何でだ。


「お前、貴族の薬草園の薬草を盗んで、それを裏商会に売っ払った犯人だろ」


 うっ、何でそれを。


「ははーん、やっぱりそうだったんだな。子供は鉄貨5枚が相場のどぶさらい。なのにこのオレに5枚渡したはずなのに、それでも金があるのは他に理由がある。つまりは盗人ってね」


 お前、刑事になれるぞ。


「ま、まあ、ともかくさ、あれは犯人が捕まらなかったんだし、もう良いじゃないか」


「またぞろ何かやらかして作った金なら、オレは受け取らないと言っているんだ」


「お前なぁ、普通のガキがあの貧民街でまともに生きようと思ったら、あれぐらいの事はやらないと生き残れないだろ。だから現にオレはこうして元気に生きているが、お前はどうだ。大人に流されるままに生きてそれで今、満足しているのか」


「そ、それは」


「正義感も程々にしろよ。そんなんでよく生き残れたな。お前の親父、かなり甘やかせていたとみえる。だから今苦労しているんだろうな」


「じゃあお前は今、何をしているんだ」


「冒険者さ」


「お前が? 」


「それでどうだ。一緒に来る気はあるのか、無いのか」


「ちょっと考えさせてくれ」


「ダメだ」


「どうしてだよ」


 村の長の虚偽を申し立てるのは簡単だ。

 だけどそれでは村の長の恨みを買っちまう。

 あんな連中の為に、そんなのを被るなどごめんだ。

 ここは何も知らなかった事にして全てを闇に葬ろう。


 ただ唯一の生き証人だけを残して。


 ◇


 あいつは今、眠りの中にある。


 偽バーを食わせてやったらやけに喜んで、飲み水もペットボトル1本丸々飲んだ挙句、眠くなったからと寝かせておいたんだ。


 どうやら食い物は殆どが討伐をしている連中に回るらしく、残り物を皆で分け合っている現状において、子供の自分はそれが中々得られずに、腹を空かせてひとりまたひとりと亡くなっていき、遂には自分だけとなってしまったとかって、もう少し早く知れば助けられたかも知れない命か。


 結局、オレは町の子達に何もしてやれなかったな。


 さて、やっちまうか。


 我が魔法に頼んで全ての存在を包み、そのまま永久なる眠りに誘う。

 そして全てを土の中に葬れば、後には何も無い場所があるばかり。


 今は確かに盗賊じゃないだろう。


 だけど困窮すれば話は別だ。


 近くには定住を断った薄情な村もあるとなると、いつあいつらが盗賊になるか分かったもんじゃない。


 その予防も兼ねて殲滅しておいたさ。


 あいつらがもっとまともな性根の持ち主なら、そう、せめて隣に寝ているこいつくらいの明るさがあるのなら、助けになっても良かったかも知れない。


 だけど、あいつらは親切だったおばさんに食らい付き、骨までしゃぶった連中なんだ。


 そんな連中に何かしてやる?


 そんなのありえないさ。


 仇討ちなんておこがましい事を言うつもりはないけど、あのおばさんには何かと世話になっていて、両親とも良い付き合いになっていたってのに、あんな事になって本当に悲しんでいたんだからな。


 ◇


 こいつは住んでいた場所がどうなったかは知らないし、また教えるつもりもない。

 だからもし、数年後にでも訪れて、何も無くなっていたらこう思うだろう。


 山崩れか何かで埋まったんだなと。


 実際、そう見える細工はしてあるんだし。


 オレがやったのは単に、崖の下のほうの水分を抜いただけだ。

 それで粘りの無くなった土壌はその重圧に耐えられなくなり、軽い衝撃で一気に崩れ落ちたんだ。


 連中の住処にな。


 もちろん、眠らせておいたので逃げた奴は居ないが。

 全てはドーナツの内側での出来事なので、外には漏れてないはずだ。

 振動は無理だけど、音さえ伝わらなければ単なる地震で終わる話だ。


 さて、帰って屋台の準備をしないとな。

 

盗賊がかつての住民を討伐する話でした(笑)

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