神様の慈悲
冒険者の時は純真な子供を演じているけど、そのほうが何かと有利だからな。
なのに、それを言い含めておいたってのに、隣で笑いを堪えていると芝居が台無しだろ。
「君が? あの、盗賊の、討伐を? 請けた、のかい? 」
こいつが定住を断った村長か。
まあその判断は正解だったが、恐らく怖くなったんだろうな、報復が。
「安心してよ。全て終わらせたから」
「えっ、終わったって、あの、討伐がかい? 」
「貴方の判断は正しかった。もう報復に怯えなくて良いのです。あいつら盗賊は今、二度と目覚めない眠りの中にいるのですから」
「そう、ですか。全て分かっていて、それでも……ありがとうごさいました。本当に」
そうして依頼クリアの欄には、何故かプラスの文字が付く。
「これは? 」
「あ、いえ、何も問題はありません」
よく分からないが、まあ、問題が無いのなら良いだろう。
(例え倍額でも構わないぐらいに満足したらプラスの文字を付けろと言われたけど、うん、払っても良いと思うよ。あの頃は村に小さな子がたくさん居て、とてもじゃないけど無理だったんだ。うっかり子供が絡んだら、何をされるか分かったもんじゃない人たちを村に入れるとか、どうしても無理だったんだ。それにしてもあんな純真そうなのに、あっさりと殺した話をするなんて、冒険者になるとみんなそうなってしまうのかな。それだけ厳しいんだろうね。でもせめてあの明るさが曇らない事ぐらいは祈らせてもらうよ)
◇
「たっだいまぁ」
もはや恒例になった挨拶である。
なのにそう毎回、肩を震わせて俯くな。
「それで、どうだったの? 」
「あのね、行ったら崖崩れで埋まってた」
「えっ、それって、どういう」
「だけど、倒したって言っておいたからクリアで良いよね」
「それはどういう意味だい? 」
「出たな、守銭奴2号」
「やれやれ、すっかり警戒されたみたいだけど、アタシはあんなのと同じに思われるのは迷惑なんだからね」
そのままサブマスとの話になると、別室に連れて行かれての話し合いとなる。
同行人は連れて行けないとあって、少し待っていろと小銭を渡しておいたので、酒場で何か軽食でも食っているだろう。
「はい、決済書。ちゃんとサインあるよ」
「どれどれ……おや、プラスが付いてるね」
「それ、何の意味? 」
「本当はギルド秘なんだけど、Dになったのならまぁ良いだろう。プラスはね、例え倍額払っても良いぐらいに満足したって証。これは査定にかなりのプラスになるって意味合いもあるものなのよ」
「それを聞いて依頼者と取引したり、脅したりしたら罰則を受ける事になるが、それが分かるぐらいの頭がないと、本当のDにはなれないって示唆を含んでいるんだな」
「あらあら、貴方、それが本性なのね」
「馬鹿なガキと思ってくれていても構わないが、余計な事をされると困るんでな」
「そんなつもりは無いけどね」
「そうだな、あんたには本当の事を教えよう」
「何を教えてくれるのかしら」
「竜の加護の内容だ。知りたいんだろ? 」
「ええ、もちろんよ。教えてくれるのなら知りたいわ」
「安眠だ」
「えっ、今、なんて」
「だから安眠と言っている。非常に寝付きが良くなって、朝は爽やかな目覚めを迎える加護だ」
「そんな、嘘でしょ」
「オレも嘘と思いたいよ。期待して握った結果がそれだ。とてもじゃないけど他人に言えるような内容じゃない。あのギルマスに正直に話しても、隠すためのデタラメだと思われるに決まっている。だから言えないと断ったんだ」
「だとしたら、アタシは……とんだ勘違いで」
「だからな、竜の加護のせいで強くなったりはしてないんだ。その代わり、日々のストレスも眠りの中に消えているようでな、快適なのは確かだぞ」
「それはそれで羨ましい話だわ。それで内容はどうだったの? 」
「ああ、元の貧民街の連中だった。村がちょうど微妙な時期だったらしくてな、それで報復を恐れて闇に葬ろうとして盗賊だと言って依頼を出したらしい」
「あらあら、じゃあうちの調査員は減点ね」
「まあ、先入観ってやつだろ。盗賊は皆、汚い格好をしていれば、それと似たような格好なら同じと思い込んでしまう。しかも村長からの依頼となれば、まさかそこに虚偽が含まれているとは普通、考えないものだ。だからそう厳しい事を言ってやるなよ」
「おやおや、どちらが大人か分からないわね。それで崖崩れと言うのはどういう意味なのかしら」
「もちろん埋めたに決まっている。あいつらは近所に住んでいた優しいおばさんにたかって、殺した奴らなんだし。殺せる大義名分と機会、それを逃すようなオレじゃない」
「試練は必要なかったみたいね」
(そうよね、普通の子供に見えても、彼は貧民上がり。そんなのが甘いはずはないわ。あの表向きのお芝居にすっかり騙されていたのね。まあでもあれはあれで正解だわね。少なくともうちの受付は信じているみたいだし。それも世渡りの手段と言われれば、止めろとは言えないわ。それにても、あの若さで殺しに慣れているとなると、それはそれで依頼はあるものなのよね。裏の件、請けてくれるかしら)
◇
それからまたぞろあの商人の元を訪れ、屋台に付いてのあれこれを聞く。
どうやらそれも任せても良いようで、彼に全て任せる事にした。
「こんな、大商会とも付き合いがあるとか、お前って何したんだよ」
「彼はね、この私。サイラグ商会の会頭のビジネスバートナーさ、対等のね」
ああ、絶句しているよ。
わざとそんな言い方をするから。
この人もイタズラ好きなところがあるから、絶対からかいの意味を込めているよね。
「とにかく頑張れよ」
「あ、ああ」
やれやれ、すっかり萎縮しちゃってさぁ。
どうにも将来が心配な奴だ。
◇
ギルドの件……
妙な期待を感じたので、サブマスには本性を見せ、そして加護の真実を告げた。
竜の加護をまるで勇者の資質みたいに思われたのでは、どんな難題を出される事になるか分かったもんじゃない。
オレは地味に静かに暮らしたいんであって、勇者みたいになりたい訳じゃない。
確かに荒稼ぎになりはしたけど、それで色々な伝ができた。
それが今後、自分の守りに使えるのなら、それは正解ってもんだ。
後は蛙専門の冒険者でも良いし、薬草専門でも構わない。
生活費は既にあるんだし、悠々自適に過ごせばいい。
やっとここまで来たんだ。
これから楽になるってものなのに、余計な期待は本当に困るんだ。
さて、加護よ、安らかな眠りを頼むぞ。
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「お疲れ様でした。現実の時は僅かに1時間。仮想転生体験を楽しまれましたか? 」
マジかよ。
妙にリアルだったのはそれが成人だからであって?
未成年なら血とかは見えなくされてた?
あれは本物じゃなく、あくまでもゲームだった?
もう諦めて本気で生きようと、苦労してやっと足場を固めたってのに。
何もかもこれからだって言うのに。
あれがみんな嘘?
そんな……
そんなのあるかよ。
「継続されますか? 」
今更そんな事を言うのかよ。
夢と知らされて本気で生きられると思うのかよ。
楽しかった両親との思い出が、単なるフレーバーと知ってまともに過ごせると思うのかよ。
「では終わりにしますか」
ああ、そうだな。
だけど、何て言えば良いのだろう。
無くしちまった故郷のような懐かしさを感じるな。
「つまり、未練があるのですね」
そりゃああるさ!
オレは本気で生きていたんだ!
あの世界で本気でな!
「分かりました。ではそのようにしましょう」
えっ、それってどういう……
「今はただ眠りなさい。そして起きたらあの時のまま」
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うーん、爽やかな目覚め。
たたこれだけってのが何とも言えないが、地味に生きるのには似合いの加護かも知れん。
さて、今日もまったりと過ごしますか。
そういや、原チャリがあったんだったな。
よし、今日はツーリングといきますか。
なんせ魔法のある世界だからな、何でも魔法で終わるんだろうし、あれも魔道具か何かと言っておけば、恐らく追求はあるまい。
もっともあの商人が知れば、同じようなのが欲しいと言う可能性が高いが、こればかりはちょっとな。
まあいいや、さて、何処にいきますかね。
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◇
彼に夢の記憶葉残らず、これからも元気に生きていくでしょう。
あれで終わりを選べば、VRゲームとしての終焉でした。
でも彼には未練があったようなので、彼の希望のままの世界に送られました。
彼にとって不都合な記憶を封じて。
これでこの話は終わりになります。
読んでくれてありがとうございました。




