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決闘対策

 

 どうにも蛙専門の冒険者になっていたので、ここいらで他の依頼をしようと思う。


 それにしても不思議なのは、周囲警戒の魔法を使っていて、それに魔物が引っかかった事が無いんだ。


 もしかしたらあれは、単に警戒しているだけじゃなく、威嚇になっているのかも知れない。


 確かに魔力の量は使っているうちに日々増えていったような気がするから、もしかすると周囲に広めた事であたかも膨大な魔力量の持ち主みたいに見えてたりして。

 単にドーナツ状態なのに、中も詰まっていると思われているのかな。

 つまりそのドーナツを広げてやれば、それだけ広い範囲のガードになったりして。


 全てが仮説なのはいただけないが、現に魔物と遭遇しないんだからな。


「ソロで薬草50本確保」


「それはまた、幸運でしたね」


「うん、魔物との遭遇無し」


「でも危険なのでパーティを組んだほうが良いわよ」


「出会わない魔物の警戒は不要。だからソロで問題無し」


「そういうの、あんまり感心しないわよ」


「そうだね。油断はしないけど、出会わないのは本当だし」


「それでも上のランクになるには、戦闘技能の証を立てないと登れないからね」


「いいよ、このままで」


「そうそう、チビスケにはFランクがお似合いだぜ」


 受付嬢との言葉の応酬を楽しんでいたら、余計な存在が現れる。

 お呼びじゃないのにしゃしゃり出るとは、こいつも空気が読めないクチか。

 それとなく聞いてみると、一応はDランクらしく、戦闘技能はあるらしいが、大したもんじゃないのよって、どういう意味だよ。


 どうやら戦闘技能の証明はパーティ単位でも可能なようで、随行のギルド職員の前で魔物をいくらか倒せばそれで良いらしい。

 そこであいつは大声をあげたり石を投げたりして魔物の気を散らす役回りだったらしく、本人は戦えると言っているものの、本当はその証明は取れてないんだとか。


 それでも他のパーティメンバーの証言もあり、何とかクリアした状態で、とりあえずランクはDだけど、書類には仮の文字が付いているらしい。


「オレに何か用か」


「何を粋がっている。ガキのくせに生意気なんだよ」


「決闘なら受けて立つが、生きて戻れると思うな」


「何だと、この野郎」


「ちょっと、ギルド内はそういうの禁止よ」


「外でやってくれるかな。街の外で」


「アリエさん、そんな」


「分かっていると思うけど、殺したらきちんと埋めておく事。死体を晒しておいたら事件だと言われる事になるんだし、それぐらいは分かるよね」


「ああ、埋めておこう」


「あんだと、この野郎っ。ああ、てめぇを埋めてやるさ」


 ◇


(アリエさん、あんな子供に勝ち目があるはずもないのに、どうして止めてくれなかったの? )


(あの子、竜の加護持ちよ。そこいらのチンピラに負けるようなのが、竜に認められるなど有り得ない話。だからきっと戻って来るわ)


(だからって)


(いずれは経験しなきゃいけないの。上のランクに上がるには、殺しの経験は必要なのよ。盗賊討伐依頼で尻込みするようなのは、上のランクじゃ使い物にならないわ。なら、今の内に体験さぜておけばいいの。どうせ相手は仮の付いたDランクもどき、消えちまっても構わないわ)


(アリエさんったらシビアなんだから)


(そうね、勝って戻るようならEランク認定者にしましょうか)


(認定、ですか)


(そうよ、Eランクまでならそれがやれる。このサブマスの権限でね)


(ああっ、そうでした)


(もっとも、その上のランクとなると、ギルマスでも相当の理由が無いと無理だけど、仮にも竜の加護を得たんだし、さっさと登って欲しいもんだわ)


 ◇


 調子に乗っているように見えたのかな?


 確かに最近、と言うか、あのドラゴンとの遭遇以来、非常に寝付きが良くて朝は快適だけどさ、

 ただそれだけの効果の加護って言うのも情けないよな。


 もっとこう、戦いに有利になる効果とか。


 普通はそういうのを連想するようで、ギルマスに色々聞かれて困ったんだ。

 うっかり正直に話しても、あからさまな隠し事をしているようにしか聞こえない、『安眠』の加護なんだし、それなら内緒だと言って誤魔化すしかなかったんだ。


 一応口止めはしたんだけど、ギルド内には漏れてたみたいだな。


 しまったな、あいつに対しては金銭的な制止方法をすれば良かったのに、単に口頭での依頼で済ませたのが失敗だったな。

 例えばさ、漏らさなければ倍額の話はそのうち無しにしてもいいが、漏らしたら5倍になっちまうとかさ、それなら貝のようになると思うんだよ。


 守銭奴っぽいし。


「ここいらでいいか、お前を埋める場所は」


「どうしても気は変わらない? 今なら間に合うよ」


「ビビってんのかよ、このガキ」


 ああ、これは止まらないクチだ。


「仕方が無いな。こちらは中止の機会は出したが、そちらが受けなかったんだ。だから悪く思うなよ」


「今更、止められるかよ」


「とりあえず、決闘なんだから名乗りからしようか」


「ああ、いいだろう、それぐらいはな。オレはDランク冒険者のマイカードだ」


「オレは、ミゲール・フォン・アメミテス子爵令息だ。獲物は魔法になるが、貴族相手の決闘なら、当たり前だよな」


「な……んだと」


『我が手に宿れ、我が魔法よ。全ての物を切り裂く魔法の刃』


「な……ほ、本当、に、魔法、つまり、貴族、そんな」


「さあどうした。得物を構えろよ。Dランク冒険者さんよ」


 ◇


 結論から言うと戦いにはならなかったんだ。


 この国では庶民が貴族をうっかりでも殺すと、一族郎党に累が及ぶ可能性が高く、それも子爵が相手の殺しになれば、公開処刑にすらなりかねない。

 親も親戚も揃ってそんな事になるのなら、ここで謝ってしまえばいい。


 そう思ったのか、日本古来からの最下層な謝罪方法をされたうえ、財布を差し出して、これで堪えてくれと言われてもな。


「ギルド預金も出すのか? 」


「ああ、全部渡す。だからな、頼むよ、なぁ」


 どうにも気分は強盗だな。


 確かに帰参はしないとは言ったけど、名前を使うぐらいなら構わないだろうと、今回ちょろっと使ってみたんだけど、思った以上の効果があったようで、今後はうっかり使えないと思った次第。


 それでも嘘じゃないので問題は無いんだけど、あんまり広まると宜しくない者が寄って来るからな。


 ギルド預金は止めてやるから、オレの出自を喋るなと口止めしておいた。


 バラせばもれなく決闘の話となり、貴族を殺そうとした事が世間に広まると言えば、それで貝のようになった。


「たっだいまぁ」


「え、あの、あれは? 」


「ああ、話せば良い奴だったよ。だからね、話し合いで解決したから決闘は無しになったんだ」


「そう、なのね」


「うんうん。やっぱり冒険者同士での殺し合いとか、物騒なのは無いほうが良いよね」


「そうね、そういうのはまだ早いもの」


 ◇


 とりあえずギルドには話し合いで終わったと告げた後、薬草の支払いを受けてギルドを出る。


 計算中のちょっかいで報酬も受けずにあんな事になったけど、忘れて無いからな。


 覚えてたのね、とか言われても困るよ。


 50本の薬草は銀貨2枚なんだし、それぐらいならギルドに預けるまでもない。


 今までのギルド預金に関しては、常設のグリーン・フロッグの駆除をやっていたに過ぎない。


 1匹銅貨1枚という、薬草の半分の価格提示だけど、2500匹で金貨1枚になる代物だ。


 それを1年近くひたすらやっていたのであり、それはそのままギルド預金になっていて、積もりに積もって金貨22枚になっていたと。


 そのついでに薬草も納品したりしていたので、蛙ばかりって訳でもない。


 ただなぁ、蛙の討伐証明部位が目玉なのがいただけない。


 処理薬品を入れるつぼに収めての納品になっていたんだけど、あれを何に使うのかをどうしても教えてくれないんだ。


 ところがその疑問は、ひょんな事から明らかとなる。


 お姉さんとのいつもの逢瀬の時、話題の接ぎ穂でそれを出してみたんだけど、何の事は無い。


 あれは避妊薬の原料になるんだと。


 ここ最近、薬屋の女将さんが、「原料が大量に出回るようになって楽になったんだけど、あの子の製品のおかげであんまり売れなくなったのが困り物なのよね」って言われたらしく、その原料調達を主にやっていたのがオレと知ればどう思うかな。


 1日50匹狩れば、目玉は毎日100個が市場に流れる。


 避妊薬は目玉だけじゅなく、他の素材も使うからそちらのほうが足りなくなるぐらいの供給量だったらしく、蛙の宝庫と地底湖の分も流したので、恐らく相当の量が市場に流れただろう。


 だから恐らく、供給過多だろうから、しばらく狩らないほうが良さそうだ。


 それはそうと、地底湖の駆除以来、巷での疫病の話は収まったので、やっぱりあの蛙が繁殖していたせいだったらしい。


 そんな訳で、裏庭にある井戸にパイプラインを垂らし、業務用ろ過器具に接続されての風呂水供給は実に調子が良い。


 太陽光発電なので、電気の無いこんな世界でも普通に動くし、交換用のバッテリーも何故か、1基に対して5つも付いていた。

 確かに一般用って訳じゃないバッテリーなので、うっかりしたら製造中止になるかも知れないけどさ、そこまで至れり尽くせりなのに売れなかったって話も、今では単なる設定とは思えないんだ。


 あの準備世界も実は、既に異世界だったんじゃないかって。


 つまり、オレ達は異世界に転生する前に、その準備として更なる別の異世界での準備になっていたんじゃなかろうか。

 だってさ、当時、あんなに居たのに、その話題すらも無いんだ。

 最初はオレだけかと思っていたけど、よく考えたらそれもおかしな話だ。

 だからさ、あの世界からあちこちの異世界にそれぞれ転生したんじゃないかって思ったんだ。


 まあこれも単なる仮説だけど。

 

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