最上級回復薬
竜のおしっこの利用法が分かった。
スキルの製薬を何とかしようと、回復薬の製造法に着手したんだけど、低級から上級までは普通の材料でいけるんだけど、最上級だけは特別な素材が必要らしく、その入手方法が困難なので、文献にその製法は載っているものの、ここ最近は作れた者も居ないって話。
ここまで聞いたら分かるよな。
低級は薬草をすりつぶして水で溶き、それを煮詰めて漉して完成する。
わざわざ水を入れなくても良さそうなものだけど、薬草自体の水分だけでは塗り薬が精々なので、水溶薬にするにはどうしても注水の必要があるんだ。
そうして中級は、注水に魔素水……つまり魔力の篭った水を用いる。
これは煮出す時に魔力は飛散するものの、薬草本来の効力を引き出す効果があるらしく、初級とは比べ物にならない効果になるとか。
なので中堅からの冒険者御用達となっていて、初級の数倍以上の価格で取引されているらしいな。
そうして上級。
世には神聖魔法なるものが存在しているらしく、要は教会で「祝福された魔素水」ってのを購入すれば作れる代物なんだけど、門外不出になっているようで、上級薬は教会が主に売りに出しているとの事。
主に、と言うのは、破門になった元教会関係者が裏で売りさばいているようで、もちろん発覚すれば即座にお縄になる代物だけど、それでも生活の為には仕方なく、作って売って稼いで別の街に逃げるってのを繰り返しているらしい。
破門が気になったので聞いてみたところ、どうやら教会関係者にはある規律があるらしく、それを破ったら破門になるらしい。
その詳細は秘密ってさ。
まあ、馬の人工受精を神の摂理に反するなどと言うぐらいだし、避妊薬を用いた女遊びでもやらかしたんだろう。
さて、お待ちかねの最上級だ。
薬草をすりつぶして竜のおしっこを入れると、薬草がそれに完全に溶けてしまうんだ。
だから煮出す必要も漉す必要も無く、それがそのまま最上級になるという、何とも簡単な方法だ。
ただ、普通では竜のおしっこ自体の入手が無理なので、代替品ってのがあるらしく、そいつは最上級(仮)って名前になっているんだとか。
海の魔物のクラーケンの体液は、まるで水のように透明ながら、相当量の魔力を有しているらしく、それを使えばかなり似た効果になるらしい。
ただ、それを狩るのも普通は無理だよな。
そうして更にもうひとつ、最上級(偽)ってのがあるとか。
これの効果は上級は上回るものの、最上級には及ばない効果のようで、規定には満たないものの、限りなく近いってんで(偽)が付いた最上級として、現在の流通量の殆どを占めているとか。
その製法も簡単だった。
単に上級の回復薬に神聖魔法を使うだけらしい。
ただ、かなりの魔力を使うらしく、神聖魔法の使い手は、日々、上級回復薬に魔法を使う事のみに専念させられているらしく、それを嫌がってわざと破門になる者も居るらしい。
つまりだ、薬草をすりつぶして竜のおしっこを入れてやれば、すぐさま大量生産が可能になるって事だよな。
よし、本家に竜のおしっこの買取希望を聞いてみるか。
いやね、この手の商いは恐らく、教会やら国が絡むから、一般人、それも貧民上がりじゃ色々と大変な事になる予感がするんだ。
そりゃ稼げるだろうね。
だけどもそれに付随する様々な難事が簡単に想像できるからさ、君子危うきに近寄らず、なのさ。
それはいかに国でも有数の大商会でも同じ事だ。
あれらとて国から言われれば抗えないが、相手が貴族、それも子爵ぐらいになると国もそう簡単には無理を効かせられない。
そうして本家にも益はある。
それは稼ぎもそうだけど、いかに屁理屈で誤魔化したからと言って、人工授精反対の話が、王家から降りてくれば話は別だ。
しかるにこいつがあれば王家も、教会の話など蹴飛ばすぐらいの効果がある。
下手したら国家公認にもなりかねない。
正規の最上級回復薬を国に卸すようになれば、そいつは国とでかいパイプで繋がれた事になる。
まあそこら辺りは本家のやり様次第だろうけどな。
てな訳で、あの商人を代理人としての本家との契約、いっちょうやってみるか。
オレの取り分は恐らく2割。
本家5割、商人3割ってところだろう。
少ないと思うかな?
だけどもそれで全ての危険からは遠ざかり、ただ儲けのみを手に出来るんだから悪くないと思うがな。
自分で作って売ったりしたら、即座に国が動く羽目になった挙句、いくら貴族の親を持っていた元子弟でも、全ては隣国での話だ。
となればそんなのは無視されて、全ての素材の提出を命じられ、断れば投獄にもやりかねない。
家も当然捜索されるだろうし、見つからなければ拷問も在り得る。
挙句の果てにアイテムボックスのスキルが知られる羽目になり、生涯を隷属奴隷として、荷物運びに従事されるのが関の山。
そんな未来は真っ平だ。
◇
「本当に良いのだな」
「構わないよ」
「確かにこれで馬のほうも安泰になるであろうが、おぬしの儲けは減るぞ」
「自分は元々、2割のつもりでした。ただ、代理人にしようと思ったのに、直接自分に話が持ち込まれて、代理人の必要が無くなったのが意外でした」
「確かに隣の国とはいえ、あの商会ぐらいになれば、普通は代理人としては問題は無い。が、おぬしは帰参しないものの、それでも我が一族の関係者だ。それなれば直接、取引しても問題あるまい」
「まだ関係者と思ってくれてるんだ」
「当たり前であろう。おぬしはワシの甥なのだからの」
「そんなに近かったんだ」
「今からでも遅くはないぞ」
「いや、やっぱり止めておくよ」
「そうか……ならばもう何も言うまい。ただ、今回の件、以前の件とも絡め、本当に助かったと思っておる。何か困った事が起きたなら、真っ先に伝えるのだぞ」
「ありがとうございます」
◇
それでもせめてと、オレに嫁さんの世話をしてやると言うのを、何とか翻意させての帰国になったのでした。
オレにはお姉さんが居るしな。
たださ、朝いきなり自宅前に豪華な馬車を止めて、そのまま隣国まで一直線ってのは無しにしてくれるかな。
そりゃ帰りも馬車だったけど、腰が痛くてさ。
そりゃエアクッションは持っているけど、うっかり出したらまたぞろ商売の話になりかねないものの、その利権は売ったからやれない訳で。
それでも毛皮みたいなのが敷いてあったので、駅馬車のような乗り心地とは全然違ったけどな。
ちなみに、新型馬車の事は、それとなく宣伝しておきました。
隣国に売れたらリベートくれるかな、なんてな。




