26 女性はグズが好き?
桐山は、先日沙耶香さんと口論になってしまったので、できるだけ何もなかったかのように平静を装い、無難な話題を選んで話そうと決めていた。
「沙耶香さん、そこのお花、とってもかわいらしくてきれいだけど、見たことのない変わったお花だね。何となく花びらが蝋みたいな感じで」
「あっ、それ、グズマニアっていうの」
「へえ、きれいなのに我々日本人にとっては変な感じがする名前だね」
「どこが変なの?」
「いや、変ていうのは言い過ぎかもしれないけど、グズのマニアって何なの?みたいな」
「私、別に気にならないけど」
すぐそばでお客さんの相手をしている桐子は、今夜の沙耶香さんもやや棘があるなと感じた。早く別の話題に移って楽しく談笑して欲しいと心の中で願っていた。
けれども桐山は
「グズっていうのがなんか響きが良くないよね。あっ、そういえば、このまえ本屋さんで本を物色していたら、最近売れっ子の女性脳科学者のN女史の本が並んでて、そのうちの一冊を手にとってパラパラとめくってみたら、女性の脳はグズ男が好きになるようにできてるって書いてあったんだ。
でもそれはおかしいと思うんだよね。そりゃあ、世の中にはそういう男が好きな女性も一定の数はいるんだろうけど、多くの女性はそうじゃないでしょう?
例えば沙耶香さんだってグズなんかより、真面目な人の方が好きでしょ?」
「えっ?私、グズもいいと思うけど。なんか、真面目な男ってつまんないのよね。グズって魅力あるのよね。話とか面白そうだし」
「ご冗談でしょ。グズっていうのは、片方の点々をとればクズじゃない。つまり男のクズってことさ。
沙耶香さんのようなしっかりした、清楚系の美人はそんな男とつきあったりするはずないよね」
「これまではね。でも出会いがあれば面白そうだからつきあってみるかも」
「何言ってるの。そういう奴とつきあったりしたら君の人生、メチャメチャにされちゃうよ」
「人生なんて大袈裟よ。あくまで興味本位で一時期つきあってみるっていう意味よ」
「嘘でしょ。君みたいな子が?信じられない。絶対良くないよ」
「何よ。そんなの私の勝手でしょ!あなたに指図される覚えはないわ。だいたいあなた、真面目すぎてつまらないのよ。お客さんだから合わせて楽しそうにしているだけよ」
「じゃ、お客さんである僕に対して、どうして最近はそうやって噛みついてくるの?人によってもちろん考え方は違うわけだけど、もっとソフトにやんわりと自分の意見を言うとか、さりげなく受け流すとかしてもいいんじゃないの?」
「私、桐山さんとはもう無理だわ。そうだ、桐子ちゃん、変わってちょうだい。この人、最近あんたに興味あるみたいだからさ」
「沙耶香さん、どうしちゃったの?いつもの沙耶香さんらしくないし、お客さんのリクエストでもママさんの指示でもないのに勝手に変わったりできません」
すると桐山が
「桐子ちゃん、君をリクエストするから。楽しく話をしたいからね。さあ、こっちに来て」




