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名もなきファンタズマ  作者: 佐藤華澄
10/11

或る教室

 修学旅行は元々国外を予定していたが、目的地で大規模なデモが発生したため、行先は変更になった。急だったこともあり、三泊四日すべての日程で宿泊ホテルが別箇所となり、その回数だけ部屋割りをする必要があった。

 今日と明日のうちに部屋割りを決めておいてね、と名前を書き込めるプリントが教室に掲示されたのは月曜日のことだった。本日の欠席者は一名。クラスの全員が、どこか緊張したような顔をしていた。理由はみな同じだった。本日欠席の一名の生徒──彼女がものすごく嫌われていたためである。


 彼女はとにかく空気の読めない子だった。出席番号の近いこともあって、入学当初に彼女といちばん仲が良かったのは私である。しかし関わり出してから二週間ほどで、違和感を抱きだした。一か月もすれば、私はすっかり彼女を嫌いになっていた。私は自分の精神を守るために、必要なとき以外は彼女とあまり関わらないようにしていた。そのひと月あとくらいに、宿泊行事があった。私は別の仲の良かった友人や、同じ部活に所属していた生徒、それから例の彼女と同じ部屋になった。一泊二日の宿泊行事中、偶然にも彼女は生理中で、共用の温泉は利用せず、個室のユニットバスを利用していた。私は他のメンバーと温泉に向かった。直接は誰も言い出さなかったが、彼女と別れてから全員が、お疲れ様、と口にした。誰も直接言わなかったが、私たちの部屋の全員が、彼女を嫌っていると雰囲気で察していた。

 宿泊行事を無事に終え、その後もなるべく自然な距離感を保っていた私達だったが、やがて彼女も察したのか、私たちから離れて別のグループと絡むようになった。しかし数か月のうちに、別のグループと関わっている。その後も同様に、彼女はグループを転々としていた。どうやら彼女は、行く先々で嫌われていったらしかった。いつしか彼女は、クラスの全員から嫌われていた。


 クラス替えのない学科だったので、次の年も私たちは同じクラスだった。そして訪れたのが、今回の修学旅行である。私たちはクラス全員で話し合い、彼女を毎日別のグループに回して分担しよう、という方針になった。彼女を共通の敵に定めていたためか、クラスの仲は非常に良く、誰も異を唱えなかった。修学旅行中に大きな問題は起こらず、なんとか無事に終了した。


 そのひと月あとくらいから、彼女は学校に来なくなった。担任からは、彼女は体調不良でしばらく休学になった、とだけ知らされた。私はどんな顔をしていいのか分からなくって、ホームルームの間はじっと机を睨んでいた。ただわかるのは、そのとき誰も言葉を発しなくて、不気味な静寂が教室を支配していたことだけである。

 その後も彼女が教室に姿を現すことはなく、三年生に上がった夏休み前、彼女が退学したと知らされた。あとから聞いた話だと、彼女に寄生された何人かは、担任に彼女に関する不満を伝えていたらしかった。

 当時のクラスメイトや担任が、この一件をどう位置付けていたのかはわからない。ただクラスの全員が、彼女と関わりを持ち、彼女を知ったうえで、各々の原因で彼女を嫌い、自衛のために距離を取ったのである。


 今になってようやく、なぜ彼女がああだったのか、薄々見当がついた。他のクラスメイトは気づいていないかもしれないし、気づいたうえであの対応だったのかもしれない。そもそも、私の考えている仮説自体が間違っている可能性だってある。


 ……どうすればよかったのか。今でも不意に、彼女を思い出して、眠れなくなる夜がある。

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