―――033―――
本日8話目です。
読み飛ばしにご注意ください。
どれ程の時間が経過しただろうか。
空間の外のスライムは暴れまわっている。
目の前のスライムは動かないままだ。
同じスライムだが、同じスライムでは無い。
そう感じてしまう。
突然、スライムの魔力が変わった。
その魔力は力強く、透明に感じられる。
自然魔力に近いが、確実に別物のその魔力。
そうか、君は勝ったのだね。
"お疲れ様"
この言葉だけで十分だろう。
あとは、自分で噛みしめるといい。
空間の外のスライムが縮んでいくのが分かる。
そのスライムには既に攻撃の意志は無い。
異次元倉庫を解除し、中と外を繋げた。
スライムは僕の目の前に集まり、そして30センチ程まで縮んだ。
だが、その魔力総量は変わらない。
ブレイさんすら上回るその魔力量。
……もう一つ仕事が増えそうだ。
"ありがとう"
"成し遂げたのは君の力だ。僕は少し、後押しをしただけ"
"それでも、ありがとう"
"……こちらこそ、ありがとう"
僕は救える。
そう思わせてくれて、ありがとう。
さて、ギルド長に交渉を持ちかけようかな。
まだ完全には救えていないだろうから。
だけどその前に。
"君はこれからどうする?"
"……透、1つお願いをしてもいい?"
"内容によるかな"
"僕に、名前を頂戴"
名前……だと。
センスの無い僕に頼むとは……。
……そうだな。
この子は透明だから……クリア、でどうだろうか?
どんな色にも適合し、変える事無く混ざり合う。
どんな状況でも、君が楽しく幸せな人生を送れるように。
"クリア、でどうかな?"
"クリア、クリアか……えへへ。ありがとう、透。これで僕は君と共にある"
……何故か少し失敗した気がする。
"透。僕は色々と経験したい。楽しく過ごしたい。それに、幸せにしてくれるんだよね?"
……確かに、その環境を整えるつもりではいた。
だが、それはクリアが楽しく幸せに暮らせる土台作りの予定だったのだ。
……まあ、一緒に暮らす程度なら問題無いか。
それに真白の友達になってくれるかもしれない。
いや、可能であればその先へ。
僕が死んでしまってもいいように。
"クリア、僕達と一緒に暮らすかい?"
"うん! これからよろしくね、透!"
クリアを抱え、ギルド長の元へと向かう為に飛び立つ。
現在ギルド長達はすぐ近くにいる。
多分、突然スライムが一か所に集まったので慎重に近づいていたのだろう。
さあ、どうなるだろうか。
出来れば、ギルド長を敵に回したくはない。
ギルド長達はこちらを見ている。
先頭にギルド長とヨウコさんとブレイさん。
そこから少し離れて他の人たちが数人の組を作って立っている。
警戒、されるよね。
ギルド長のすぐそばに降り、人形態へと変化した。
「ギルド長、話しがあります」
「言ってみろ」
そう言うギルド長の表情は真剣そのもの。
両隣に立つヨウコさん、ブレイさんも同様だ。
「この子に僕と同等の待遇をお願いします」
「無理だな。魔族は知っているな?」
やはりか。
生まれたばかりの感情にこの魔力。
放置するのは危険なのだろうね。
「少しは」
「魔族が生まれた場合、基本的にそこから一番近い魔物ギルドか町長が預かることになっている」
「基本的以外を聞いてもいいでしょうか?」
「魔族はその強い力と生まれたばかりの感情から危険視される。その為、一定期間は実力がある者の近くで監視状態で過ごしてもらう。そこに例外は無い。基本的に魔物ギルドか町長が預かると言うのはその2か所には確実に実力者がいるからだ」
「少し失礼だとは思いますが、結果的に私はあのスライムをほぼ1人で止めました。それでは足りませんか?」
「無理だな。1回程度で実力者と認められるのは難しい」
そうか、実力者と認められた者である必要があるのか。
少し、難しいな。
「それでは、何もできなかった貴方達が預かるのですか?」
「……」
「今の町でこの子相手に一番の実力者は私です。それでもダメでしょうか?」
「無理だな。その付近に適任者がいないのであれば他の場所へと移動させられる」
まあ、そうだよね。
どうしようか。
「それでは実力者になる条件を聞かせてください」
「透、その前に一つ聞かせろ。俺では安心できないのか」
安心?
何を言っているのだろうか?
「出会って僅かしか経過していない、それも数回しか会っていない相手に預けて安心するわけないでしょう?」
「何が不安なんだ?」
「貴方はあのスライム相手に対策を知らなかった。つまり新種の可能性が高い。さらにあの特性も珍しいものでしょう。それで実験に使用されないなんて甘い考え、持っていませんよ。僕が約束したのは楽しく、幸せな生活です。実験に縛られてはそれに該当しません。そして何より、あの子が僕と共に過ごすことを望んだのです。渡しはしませんよ」
「俺達を敵に回してもか?」
「大丈夫です。それでもあの子は生き残れます。その先の幸せは約束できませんが、それでもあの子の望みを優先します」
「本気、何だな?」
その言葉と共にギルド長、ヨウコさん、ブレイさんから殺気が感じられるようになった。
……。
「何の茶番ですか?」
「お前程の実力者ならば分かるだろう? そのスライムは危険すぎる。実力行使も厭わない。その結果、お前が死のうとな」
「それならば、もう少し殺す気できてください。その程度の覚悟で人を殺せるとは思っていないでしょう?」
「分かった。本気なんだな」
ギルド長からの殺気が高まり、さらに魔力を集中させているのも感じられる。
「舐めているのですか?」
その言葉を発し終わるのと同時に魔物形態へと変化し、同時に召喚した左針をヨウコさんの首元へと突き当てる。
「え!?」
「透、それが貴様の意志か」
肯定を示す必要は無い。
そしてギルド長の弱点がそこにあるのだ。
狙わない理由は無い。
"透、死にたいの?"
"死なないよ"
死ぬわけがない。
この程度の意志しかない相手に。
魔力がギルド長の手に集まり、ギルド長の手から氷の針が放たれる。
針を突き当てたまま横に避けることで氷の針を回避する。
……やはり、そうなのか。
それでも、ギルド長の口から言われるまでは。
「俺の弱点がヨウコだと思ったか? 残念だが俺は任務を優先するぞ」
ギルド長は何を見たいのか。
「そう言えば、貴様の連れがいたな。俺の一言でいつでも家に突入できるぞ」
そんなに犠牲者を増やしたいのだろうか?
真白は僕ほど甘くないと言うのに。
それとも、動揺を誘いたいのだろうか?
「ブレイ、こいつの家に向かえ」
「分かった」
動揺を誘うには不十分。
そうだな、こちらも少し揺らさないと。
左針をほんの少しヨウコさんから離し、先端から1毒を少し垂らす。
その透明な物体はヨウコさんに当たることなく地面へと落ちる。
その瞬間、ギルド長の殺気が格段に増し、その体は大きな白い狼へと変化した。
さらにギルド長が変化したのと同時に、クリアが体の一部を針状に変化させ、その狼の喉元に突き当てる。
クリアから迸る殺気はギルド長のそれを上回っており、それは僕以外の全員に向けられていた。
それにしても、やはりギルド長は精霊族では無いのか。
そして氷狼か。
少し不利かもしれないかな。
右手に右針2を召喚し、ヨウコさんからは左針を離さずにその針をギルド長へと構える。
狼になった瞬間爆発的に魔力が上昇した。
油断はできない。
油断しなくても戦えば勝ち目は薄いだろう。
まあそれは僕だけで戦った場合だ。
クリアと共に戦えば、クリアは勝利することができるだろう。
この場の全員を相手にしても。




