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―――032―――

本日7話目です。

読み飛ばしにご注意ください。

「皆、聞け! このスライムは魔法として発動する前の魔力は吸収するが、魔法として発動した現象は吸収しない! そして毒系の攻撃は効果が無い! ここから押し返すぞ!」

 

「おおー!」

 

「やってるぜ!」

 

「押し返しましょう!」

 

 少し町側に寄ったところでそんな声が聞こえてきた。

 そうか、魔力自体を吸収するのか。

 あと、毒は効いてるんだけどな。

 まあ僕の場合は1、3混ぜ毒があるからだろう。

 それにしても1、3混ぜ毒は長いな。

 今は白毒と呼ぼう。

 そして1、2混ぜ毒は黒毒だ。

 まあ毒の正式な呼び方はあとで考えるとして、ここに毒を注入して次に移動しよう。

 

 

 

 ギルド長のあの号令から、さらにスライムを押し返すことができている。

 だが、このままではいずれスライムが勝利するだろう。

 人が使用できる魔力は無限ではないのだ。

 そしてスライムは今だ自然魔力を吸収して巨大化している。

 その行為は呼吸のようなものかもしれず、限界が無いのかもしれない。

 

 そうなると、何か考えないといけないな。

 このままでは依頼を達成できない。

 最悪真白と逃げればいいのだが、それでもこのスライムの脅威は続くだろう。

 逃げ切れるとは限らない。

 それでも、本当にどうしようもなくなったら真白と逃げるつもりではいる。

 

『転移で逃げる方法もあるわよ?』

 

 転移、1人だよね。

 

『……知っていたの?』

 

 一度経験したからね。

 そして1人であれば、転移は止めて欲しい。

 例えその対象が真白であっても。

 

『私は君が救われるのならばそれでいい。それと君の意志と関係なく、私は転移を実行できるのよ?』

 

 僕はその転移を拒絶できる。

 そうだよね?

 

『やっぱり気づいていたのね。まあ転移を実行しようとは思っていないわ。安心して』

 

 うん、分かってる。

 実際に行うのならば僕に言う必要は無いからね。

 言うだけ成功する確率が下がる。

 

『私はまだ死にたくないわよ?』

 

 僕も今の状況では死にたくないかな。

 だから頑張るよ。

 

『期待してるわね?』

 

 珍しく期待されてしまったよ。

 さあ、どうするかな。

 

 

 

 う~ん……核を探そうか。

 あるかは分からないけど、そこを破壊できれば倒せるようなそんな箇所を。

 図鑑にはそんなことは記載していなかったが、可能性はある。

 まず、ギルド長が最初にブレスで倒そうとしたことからスライム相手は出現直後に一撃で倒すのが一番なのだろう。

 さらにギルド長の言葉から普通のスライムはここまで苦戦する相手ではないと考えられる。

 ならば弱点があったとしても見つけられていない、いや、見つける必要が無かった為に見つけられていない可能性はあるだろう。

 

 そしてそれがあるのならば、攻撃から一番離れた位置が怪しいな。

 それか初期位置か。

 まあ核が移動できないとは思えないので攻撃から一番離れた位置から探そうか。

 

 

 

 今まで通りの効率で毒を注入しながらギルド長達から離れるように移動しているが、核は見つからない。

 まあそんな簡単に見つかるとは思っていない。

 いくら苦戦しない相手とはいえ、簡単に見つかるのであれば既に核は発見されているだろうからね。

 

 さて、もうすぐスライム出現地点だ。

 可能性は低いとはいえ、確認しておこうか。

 

 

 

 やはり何もないな。

 さあ、先へ進もうか。

 

 ………イ。

 

 突然聞こえたその音に、いや、声に動きを止めてしまう。

 とても苦しそうなその声。

 どこから聞こえているのだろうか?

 

 ソレデモテイコウシナイト。

 

 出現位置から?

 特に変わった様子は無かったと思うが。

 

 ミンナガシンデシマウ。

 

 ブラン、魔物の声って聞こえるものなの?

 

『君が人魔族だからかもしれない。人魔族は魔物を宿しているからか、魔物に対する知覚能力が高いの』

 

 そうか。

 ちなみに魔物の魂は皆、こんなに苦しんでいるの?

 

『この子は特別なのよ』

 

 特別?

 

『この世界には魔族という種族がいるの。子を成せず、数がとても少ない種族』

 

 子を成せない?

 まって、何故絶滅していない?

 

『魔族はね魔物から生まれるの。いえ、元は魔物だったと言った方がいいかしら』

 

 ……。

 

『魂を壊す毒に抗い、勝ち残ったのが魔族よ』

 

 それでも数が少ない、か。

 それは何が理由かな?

 

『まず抗う魂が少ない。そして抗っても勝つことは奇跡に等しい』

 

 この子は……。

 

『勝てる魂はすぐに勝てると言われているわ。最初で勝てなければ毒で弱まっていく魂が勝つのはとても難しい。私もそう思うわよ』

 

 そうだよね。

 僕もその意見に賛成だ。

 ……もしかして抗った魂は早く壊れたりするのかな?

 

『魂に宿した力を使って攻撃し、抗うの。使わなければ毒から魂を守ってくれるその力を』

 

 それは魂の時点で理解しているのだよね。

 

『本能的に理解していると言われているわね』

 

 最初で勝てなければ勝つのは難しい事も?

 

『どうかな。勝てる魂は勝てると直感で分かると言われているわ』

 

 それならば何故、この子は抗うのだろうか。

 あの声から魔物を弱体化させるために抗っているように思える。

 ……そうか、攻撃をしてこないのはこの子のおかげなのか。

 

 それならば何故弱体化させる必要がある?

 自分を危険と知っているこの子は弱体化させる事で被害を抑えたい?

 ……ブラン、魂が壊れた後の魔物はどうなるのかな?

 

『壊れた魂を使い、その代限りの意識を作成するわ。その意識は生存本能に従って行動し、魔力が多いものを好んで食べる』

 

 人は魔力が多いね。

 ちなみに壊れた魂は魔物が死んだ後にどうなるの?

 

『魔物が死んだ後、魂は粉々に砕け散る。2度と転生する事は無い』

 

 それを知っていて、それでも抗うのか。

 不思議だね。

 弱体化しているスライムに勝てない現状ならば、魂が壊れて暴れられるよりは魂が壊れるのを防いで魔物が暴れるのを遅くし、他の場所から強い人が来るのを待った方がいいよね。

 

 "君は何故、抗うの?"

 

 聞こえないのは分かっている。

 それでも、問いかけずにはいられなかった。

 自分の頭の中で問いかけるだけ。

 普通に会話ができる相手にさえ届かないその問いかけ。

 

 "ダレ?"

 "ボクノコエガキコエテイルノ?"

 

 何故、聞こえてしまったのか。

 僕だけに聞こえ、僕だけがこたえられるこの声。

 聞こえなければ諦められたのに。

 

 "聞こえているよ"

 "君は何故、抗うの?"

 

 "……アラガワナイトヒトガシンデシマウカラ"

 "アラガイ、デキルダケウゴキヲトメテ、ヒトガシンデシマウマエニタオシテモライタイ"

 

 "君が抗っている今でも、近くにいる人では誰も君を倒せないよ"

 "それでもまだ、魂を壊してまで抗うの?"

 

 "……ソウシナイト、ヒトガシンデシマウ"

 

 "本当にそれが理由?"

 

 "……ソウダヨ"

 

 今にも泣きそうで、それでも感情を隠すようなその声。

 その隠された感情は、何なのだろうか。

 最後に1度、聞いてみたい。

 

 "本当に?"

 

 その言葉に返答は無い。

 やはり、君も同じなのか。

 それでも、心が読めない僕は伝えられた言葉しか分からない。

 君が死ぬことを望むのならば、依頼を放棄してでも成し遂げよう。

 

 "……イキタイよ"

 "コウシテ生まれてカンジョウガできてしまった以上、イロイロト経験したい、楽しくスゴシタイ、幸せにナリタイ"

 "ソレデモ、それでもこのタマシイヲコワス毒には勝てないんだよ!"

 "それならばできるだけ動きを止めて、デキルダケ人が死なない方がまだ良い!"

 

 "それが望みならそれでいい"

 "君は諦め、死ぬことを望むのだな"

 

 針を構え、核へと迫る。

 

 "何故、君はそこまで心を抉るんだ……"

 "何故、諦めさせてくれないんだ"

 "最初、毒に勝てなければその後は勝てない事くらい知っている"

 "直感で勝てない事も分かっていた"

 "それでも、それでも生きたかった"

 "この感情ができた、この体で!"

 "この苦しい中で何日、戦ったと思っている"

 "それでも、勝てなかった"

 "そして気づいたときには遅かった"

 "もう、抗わなくても魂は壊れるんだよ!"

 "それならば、出来るだけ人が死なない方が、いいに決まっているだろう!?"

 

 "それなのに……そこまで決意していたのに……何故、君は諦めさせてくれない!"

 "出来るなら誰かに助けてもらいたい!"

 "誰かに救ってもらいたい!"

 "でも、今この状況でそれができる人はいないだろう……"

 "それとも、君が救ってくれるのか?"

 "その貧弱な体で"

 "こちらが攻撃すれば一撃で死んでしまう、本体にすら辿り着けない程に打たれ弱いその体で"

 "辿り着けても何もできないその体で"

 "君が救ってくれると言うのか!"

 

 今にも壊れそうなその声で、隠される事のない感情がこもったその言葉を放つ。

 その姿は重なってしまうのだ。

 

 "最後に問う、君は僕に救ってほしいのか?"

 

 "できるなら、救ってほしいよ……"

 

 そして、僕だけにしか見えないその手を差し出されたのならば、僕はその手を握る以外に選択肢は無い。

 力がある今ならば尚更に。

 

 "僕を受け入れ、信じろ。僕だけに向けられたその手を、僕は握る"

 

 透明なスライムがこちらへ向けて体を伸ばしてきたのが見える。

 その先端は棘の様に鋭く、当たれば一撃で貫かれてしまうだろう。

 だが、違う。

 これは攻撃では無い。

 君が、抗っているのだろう?

 諦めず、全力で抗っているのだろう。

 僕の言葉を信じて。

 

 スライムが行うのは無差別な攻撃。

 その中を、突き進む。

 声がしたあの場所へ。

 

 右針1を送還し、右針2を召喚する。

 そして左針へ1毒を、右針2へ白毒を注入する。

 必要なのはこの2つ。

 できるかなんて知らない。

 それでも、僕ができる最高がこれなのだ。

 

 集中しろ。

 僕に、僕だけにしか救いを求められないその手に、最大の応えを。

 あの時には叶わなかった、あの時には叶えきれなかった。

 力がある今は、叶えきる為に。

 

 一呼吸置き、急降下する。

 針が入り乱れるその場所へ。

 

 右から迫る針の進路を少しずらす事で避ける。

 前から迫る針は当たらないので直進を。

 左から迫る針をさらに加速して避ける。

 

 スライムが周囲を包み込んでいるのが分かる。

 薄くのばしていた体をここに集めているのだろう。

 それは一気に抗いを鎮圧する為だろうか。

 まるで、強大な力の前にその小さな抗いは無駄だと言うかのように。

 

 あと10メートル。

 背後から数多の針が迫るのを感じる。

 それは空間を埋め尽くす程の数。

 避ける隙間は無い。

 速度はあちらの方が早い。

 

 ……君は信じてくれているだろうか。

 異次元倉庫に物が入る条件。

 それは対象が僕を一定以上に信じている事だと考えている。

 信用でも信頼でもいい。

 意志の無いものであれば抵抗が無い為、無条件で入る。

 魔力や魔法であれば持ち主に依存する。

 意志のある物質であれば……その意志に依存する。

 

 ここで君が僕を信じていなければ、僕は針に貫かれて死ぬだろう。

 しかし、信じてくれていれば可能性は繋がる。

 

 後ろ広域へとドアを設置する。

 一枚では足りない。

 君と僕を囲むように、邪魔をされないように。

 声の元と僕、そしてそれらを繋ぐ道以外の全てを包むように合計で5枚のドアを設置する。

 そして元部屋へと接続する。

 

 あと5メートル。

 移動に合わせてドアを縮小する。

 接続した状態で。

 どれだけ時間が掛かるか分からない今、魔力は節約するべきだ。

 

 あと3メートル。

 背後に迫りくる針の気配は直前で消え去る。

 君は僕を信じてくれたのだね。

 ありがとう。

 

 あと1メートル。

 決して間違えはしない。

 そこに、君の意志がある。

 

 声の元に右針を刺し、白毒を注入する。

 魔物よ、弱まれ。

 そして僕の毒を受け入れろ。

 

 白毒が広がったのを確認し、左針を刺して1毒を注入する。

 君よさらに強くあれ。

 

 1毒の注入は止めない。

 この結果、スライムがさらに強くなったとしても僕が責任取ろう。

 まあ責任と言っても、死ぬまで戦うだけだ。

 

 僕は世界が滅ぼうと構わない。

 それに、これは神が望んだ結果でもある。

 神はそれを受け入れればいい。

 僕に1人も被害を出さずに集結させる力があると信じたのだから。

 

 1面150センチの空間。

 そこに存在するのは僕と君だけ。

 この空間の外は既にスライムで満たされている。

 僕の魔力が無くなれば飲み込まれるだろう。

 君も、僕も。

 さあ、存分に抗え。

 その結果をともに受け入れよう。

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