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“影の騎士”の物語  作者: 夜夢
第四部 “出会い、あるいは、再会”
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第三章:踊りの果てに


 一方、所変わって王都フォーサイトのフォースフォート――

 玉座の間では、いまだ “影の騎士” の処遇についての討論が交わされている。

「やはり、彼の者を捕らえねばなりますまいか……」

 武官として最も上座に立つ壮年の騎士は、そう広間に響く言葉を放つ。その騎士――フォーサイト騎士団を統べる者の言葉に反論するように王の傍に控える老宰相が言葉をかける。

「フォルタス卿、『捕らえる』とは些か言い過ぎな感を受けますな。……噂とは言え、彼の者が我が国の騎士やも知れぬと言うのに――」

「オーボル老……しかし、噂と言うなら彼の者には “騎士殺し” の嫌疑もあります。まず、捕らえてその正体を確かめる必要がありましょう。」

「フォルタス閣下のおっしゃる通り! もし、貴奴が我が国に害なす者であったなら、早々に討ち滅ぼす事を考えねばなりますまい。」

 フォルタスの言葉への賛意を示す過激な言葉で、口角泡飛ばす勢いの鉄騎騎団長に、年若い宮廷魔術師の長は怯ず怯ずと声をかけた。

「クルレム卿……お言葉ですが、市井に流布する噂を見るに、“影の騎士” の所業の多くが、我が国民の危機を救ったと言うもの……更に言えば、それらの噂を総合しても、彼がシェユラス卿である事は十分考えられますし……国に害なす者とは…………」

「黙れっ! 本ばかり読んどる若造が偉そうな口を叩くでないわっ!!」

 クルレムの怒号に魔術師は震え上がる。

「クルレム……それは言い過ぎと言うものだ。

 ジョーナル、我が国の騎士団以外の者が民を救い助けているということは、国の権威を失墜させかねぬ……このことは十分考慮すべきだと思うが……?」

 そう語る老将の言葉に、その場は一旦納った。


 そんな中、玉座の間に一人の騎士が至急の目通りを願い出てきた。

 トラム王は、支障はないと判断し騎士の入室を許可した。その言葉にその騎士は、急いで王座の間へと入室した。

「……恐れ入りますっ。急ぎ御報告するべきことこれあり、参上致しましたっ。」

 入室してきた騎士は、先頃解放された遺跡の調査に出向いた者の一人である。肩で息をしながら、彼は報告を始めた。

「彼の “陰の騎士” の護りし遺跡にございますが、現在、地下三層目までの調査が終了し、それらより、各種機械の交換用部品・薬液及び精錬された各種鉱物等が多数発見されております。遺跡の保存状態は極めて良好であり、現存する少ない資料からも、この遺跡の各種兵器の埋蔵量は甚大な物となることが予想されます。

 ……調査隊と致しましては、遺跡全体の把握と、隣国セクサイトの介入の回避の為、調査隊と護衛部隊の増員を切に願い上げる次第にございます。」

 そう一息で言い募り、使者は息を吐いた。


 使者にいたわりの声をかけ、トラム王は彼を下がらせた。その後、おもむろにその場に残る者たちに問掛けた。

「……との事だが、諸卿等の意見を聞きたい。」

 その問いに答えたのは、まず親衛騎士団長ドレイル老であった。

「何はともあれ、大規模な遺跡を敵に奪われる愚は犯したくはありませぬ……護衛部隊の編成を取り急ぎ進めるべきと考えます。」

 その言葉に、もう一人の老臣である宰相オーボルも同意の言葉を発する。

「臣も同じく思います……何よりも五百年前の再現は避けたいと考えますれば――」

 二人の老臣の言葉は、他の者の心境を雄弁に語ったものと、若き王は感じた。

 そして、王はジョーナル配下の魔導技術師団より調査隊を、クルレム配下の鉄騎騎団より護衛隊を再編するように命じた。

 それら幾つかの指示を出した後、今日の会議は終了となった。


 ここは王城の一室……とある高級武官の私室――

 そこに控えるは、一人の女密偵……

「分かったな……彼の地に赴き、“影の騎士” の事を調べろ……まぁ、小細工をやっても構わん。それと、遺跡にセクサイトの手の者が来るのも阻むのだ。」

 女は軽く頭を下げると、人知れず、その場を後にした。


「……ふふふっ……あの遺跡から兵器が発掘されれば――」

 フォーサイト王国は、大陸西部に広がる大平原のほぼ中央に位置する小国であり、機械化部隊たる鉄騎騎団の規模は、他の十六諸王国に比して脆弱と言える。しかし、ドールホースの産出量は十七王国一であり、他の発掘されたドール等も機動性の高いドールウルフやドールファルコンと言うこともあり、その類稀なる機動性を生かした戦術により、寡兵の不利を補っていたのだ。

 それが、あの遺跡よりもたらされる多数の兵器は、フォーサイトの軍事力を強化し、隣国とのパワーバランスも変化させる…………

「くくくっ……今まで攻められ続けていたが、これでセクサイトヘの逆侵攻も可能となる……それらを全て我が功績とした暁には――」

 部屋の主は笑いを漏らした。その笑いは次第に大きくなり、哄笑となっていく。聞く者なき笑いの中に、狂気が含まれていることを知る者は……いなかった。



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