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“影の騎士”の物語  作者: 夜夢
第三部 “陰の騎士”
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第五章:夜闇が深まりし時に


 異形の騎士の一騎打ちに少し前後する頃、遺跡を望める空に一つの暗色の翼があった。……ポル=ポリーである。

 彼女は、彼女を見張っていたセラーたちの隙をついて抜け出してきたのだ。ここのところ、人目を忍ぶ旅をし、シェアナの為に行ってきた偵察していたことなどの経験が、彼女の脱出を容易にさせていた。

 彼女は遺跡に急ぐ、今までシェアナが剣を振るう時は何時も付いていった。“影の騎士” の側にいて、彼女は何らかの役に立ちたかった。その思いが、彼女の翔きに力を与えていた。

 そんなポルの視界に奇妙な一団が映ったのは、偶然であった。彼女はその一団に目を落とす。

 密かに遺跡に向かう、一本の棒杖を持った長衣の者を囲む暗色の動き易い衣装に身を包む数人の者たち。

 彼女は翔きを止め、やや高度を落とした上で、耳を澄ませる。その時、彼等の言葉の断片を聞き取ることができた。


「…………任務……」

「……フォーサイトからの奪取…………」

「…………支配…… “陰の騎士” ――」

「――セクサイトを勝利……」


「……!!」

 話の内容は理解しきれなかったけれど、聞き取れた言葉の不穏な内容に、彼女は “影の騎士” の危機を直感した。緊張が走った彼女に隙ができたのか、下の黒装束の男の一人が顔を上げた。

「……何者!」

 黒装束の叫びとともに、男から上空の彼女に向け、一条の閃きが走る。

「ぎゅぃにぃゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 ポルは突如襲った衝撃に悲鳴を上げた。左の翼にナイフが突き刺さっていた。彼女がそれを抜く間もなく、呪文の詠唱が聞こえた。咄嗟に相手に背を向け、逃げようとする。彼女の無茶な翔きの為に、刃の刺さった翼が引攣り、ナイフによる傷が拡がる。そこへ、魔法による爆風が彼女の背を焼いた。

 痛みに身を焼かれながらも、彼女は自身の翼を更に強く翔かせた。このことを遺跡へ伝える為に――


 爆風に吹き飛ばされながらも、その場を飛び去る風妖の影を眺めやり、男の一人が呟く。

「逃がしたか……」

「しかし、そう遠くへは逃げられまい。あの傷だ……あと数翔きで翼はオシャカさ」

 呟きを漏らした男の下に別の男が声をかける。その声をかけた男に一瞥を向けた後、一団の皆に向け静かに言い放つ。

「…………急ぐぞ……いずれにしろ、遺跡の強襲は難しくなった事に変わりはない――」

 男たちは再び黙々と走り始めた。

 彼等はセクサイトの密偵部隊の者たちであった。彼等は、過日の魔導砲の強襲による損失の補填の一貫として、この地域にある遺跡の奪取の任務を与えられていたのだった。

 彼等とて “陰の騎士” の伝説を知らぬ筈はない。むしろ、セクサイト軍内部の方が、フォーサイトのそれより詳細に伝わっていると言えよう。セクサイトとて、密かにあるいは公然とこの遺跡の奪取を幾度となく試みていたのである。

 そのような背景を持ちながら、彼等が少人数で行動するのは重要な意味がある。一つは、これが隠密性の高い任務ということ。……フォーサイトには知られずに遂行しなくてはならない。一つは、無駄に人数を揃えれば、それがそのまま敵戦力に化ける危険性があると言うこと。そしてもう一つは、“陰の騎士” 対策の為の秘密兵器があるという自信からだ。


 しかし、彼等は思わぬ失態を犯した。暗闇でしかとは確認できなかったが、風の妖精らしき者に話を聞かれたことだ。……しかも、打ち漏らした挙げ句に、遺跡方面に逃げられてしまった。これは後々、任務の障害となりうる。

 しかし、それは致命的なものではないと判断し、彼等は遺跡へ急いだ。任務を速やかに遂行する為に――


 一方、遺跡の前で繰り広げられていた異形の騎士同士の一騎打ちが手詰まりとなって暫し……今度は “影の騎士” が焦り始めた。

(……やはり……まずい……な、このままでは――)

 戦闘による緊張は、精神を大いに消耗させる。しかし、相手は既に死せる亡者……その種の消耗に無縁と言える。このまま消耗戦に縺れ込めば、今度はこちらが不利になってくる。

 そんな決闘の場に墜落してきた者があった。その姿を確認したシェアナは、驚きに声を上げる。

「……! ポルっ!!」

 そこに落ちて来たのは、ポル=ポリーであった。シェアナは前後のことも忘れ、少女を抱き上げる。その背側は何かに焙られたように火傷があり、その左翼は無惨な程に裂け破れている。

「どうして……しっかりしろ、ポルっ!」

 騎士の呼び掛けに少女は目を開き、覚束なくも石板に単語を羅列する。


 -セクサイト-

 -黒尽くめ-

 -遺跡を襲う-

 -……の支配-


 素早く石板に羅列された文字群を読み解いた “影の騎士” は問う。

「……セクサイトの密偵たちがここを襲うというのか?」

 その問いに、少女は弱々しく頷いた。騎士は振り返り、もう一人の騎士に問掛けた。

「“陰の騎士”……いやアルバート殿、ここへセクサイトの者たちが向かっているそうです。いかがなされます?」

 その言葉に、“影の騎士” に剣を向けていた “陰の騎士” は即座に答えを返す。

(……セクサイトノモノナド、ハイジョスルニキマッテイル……)

「微力ながら貴方に御助力します。私も貴方と同じフォーサイトの騎士ですから……よろしいですね?」

(…………カッテニシロ……)

 “陰の騎士” は “影の騎士” の害意の無さに気付いてか、新たな真の敵を前にした為か、彼等を黙認した。

 まさにその時、その場に黒装束の男たちが現れた。



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