表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『オリーブと梟』第一部 アスクルムの戦い  作者: 岡田 平真 / オカダ ヒラマサ
〜 法務官来訪
47/96

第45話『炎の宿る瞳』

ルキウス・マルキウス・ピリップスとセクストゥス・ユリウス・カエサルが執政官の年(紀元前91年)十一月初旬、ピケヌム地方アスクルム市内、ティトゥス




 パピリウスとの一件をデモステネスとソフィアに説明し終えると、ようやく一息つく間が訪れた。ソフィアが薄めた葡萄酒を携えて戻ってくる中、室内を照らしていた蝋燭の一本が、静寂の中で小さく揺らめきながらその生命を終えようとしていた。


 「ところで、リクトルの動向はどうだ?」


 デモステネスに問いかけてみたところ、その問いを受け彼の面持ちに憂鬱な影が落ちた。


 「まだ問題がありそうです。若様が説得してくださったので、以前よりは落ち着きが見受けられますが、リクトル殿の動揺は周囲に伝わっております。やはりドルースス暗殺以来、以前の自信を失い、混乱に陥った状態からまだ復調できていないようです」


 「具体的には?」


 「今朝行われた法務官歓迎式典のための十七家会合でも、『我々は間違った道を歩んでいるのではないか』と発言されていました。パピリウス殿は不参加でしたので直接対決はなかったのですが、互いの支持者の対立も激化しています。サルウィウス家内部でも意見が分裂しているようです」


 デモステネスの報告を受けて、ソフィアが更なる情報を付け加える。


 「市民の間でも、リクトル殿への支持が揺らいでいます。『理想だけで現実を見ていない』という批判の声が聞こえるようになりました」


 思わず深い溜息をつく。リクトルの存在に如何に対処すべきか、これはパピリウスとは本質的に異なる憂慮すべき難題であった。パピリウスは明確な敵対者だったが、リクトルはある意味迷走している味方のようなものだった。だが今、事態がここに至って、リクトルは不安定要因でしかなくなっている。


 「彼は今回は様子を見ると言っていたが……今この法務官(セルウィリウス)が来訪している間に予測不能な行動に出る可能性はどの程度あるだろう?」


 「依然として高い状態にあると判断せざるを得ません。特に、理想主義的な正論で法務官殿に立ち向かおうとする可能性があります」


 「それはリクトルにとっての正論なんだがな……」


 デモステネスの慎重過ぎるとも思える答え。しかしそれは考え得る最悪のシナリオだ。リクトルの高邁な理想論は、セルウィリウスのような排外的な思考の持ち主には通用しないだろう。むしろ、アスクルムを『非現実的な理想主義に毒された危険な都市』として印象づけてしまうかもしれない。いや、きっとそうなるだろうな。まだまだリクトルから目が離せないということか。


 「ラビエヌスはどうだ?」別の懸念が口をついて出る。」


 「彼の方はより深刻かもしれません」ソフィアが答えた。


 「リクトル殿への忠誠心と現実への疑念の間で引き裂かれています。リクトル殿が揺れ動いているから余計でしょう」


 「それはマズいな……」


 「ティトゥス様、ラビエヌスと会話した方がよいと思います」


 「……うーん」


 「時間がありませんよ」


 ソフィアの指摘は的を射ているものの、どうにも心が重い。しかし逡巡している場合ではないことも承知していた。

 その通りなんだがな、気が進まないんだよね……。


 

 △▼△▼△▼△▼△


 翌朝。査閲会に傍聴参加する前の僅かな隙を見計らい、意を決してラビエヌスの元を訪れることにする。彼は家には既におらず、城壁南側の訓練場で黒章隊の少年たちと打ち合わせを行っていた。昨日の出迎え時のセルウィリウスの挑発に乗りそうになったことへの反省を行っている。

 

 しばらく黙って聞いていると、次に査閲会実施中の市内見回りについて最終的な確認を始めた。昨日の光景がフラッシュバックする。デジャブかと一瞬思ったぞ。手を抜かない真面目なやつだ。大したもんだ。


 「おはよう、ラビエヌス」


 ある程度打ち合わせに目処がついた時点で、やや大きな声で話しかけると、彼がゆっくりと振り返る。昨日の一件が心に重くのしかかっているのか、その表情には僅かながら緊張の色が宿っていた。


 「ティトゥス、どうした? 昨日の件か、それともこれからのことか?」


 「これからの話だ。黒章隊の準備状況を確認したい」


 ラビエヌスは少年たちに各々の防具の点検を指示してから、改めて向き合うように対峙する。


 「準備は整っている。会場の防備班の他に、隊員二十名を四班に分け、市内各所に配置する。ただし、武器は持たせない。あくまで監視と通報が任務だ」


 「賢明な判断だね」


 「武装していれば、セルウィリウスに挑発の口実を与えかねないからな」


 その後も段取りの確認を続けながら、ラビエヌスの様子を窺う時間が続く。本題に踏み込む機会を計りかねていると、ラビエヌスは少し考える素振りを見せた後に、一つの質問を投げかけてきた。


 「ティトゥス、一つ聞きたいことがある」


 「何だ?」


 「もしリクトル兄貴が……間違った行動に出そうになったら、俺はどうすればいい?」


 その問いかけは、彼の胸中で渦巻く葛藤を如実に物語っていた。ラビエヌス自身も事態の核心を察知しているのであろう。リクトルへの篤い忠義と、冷徹な現実判断への要請。相反する二つの想いの間で、彼の心は引き裂かれているに違いない。リクトル自身が揺れているからこそ自分はしっかりしなければならない。


 「君はどう思う? リクトル殿が本当に望んでいることは一体何だろうか?」


 逆に質問を受けたラビエヌスは、長い間沈黙していた。


 「兄貴は……この街を守りたいんだ。そのためなら自分を犠牲にしても構わないと思っている」


 「なら、答えは明らかだろう。彼の真の願いを叶えることが、君にできる最大の献身だ」


 静かな応答を受けたラビエヌスの瞳に、確かな意志の炎が灯る。迷いは消え、進むべき道が見えたようだった。


 「つまり、兄貴を止めることが、兄貴への忠誠になる場合もあるということか」


 「そうだ。本当の忠誠とは、盲目的な従順ではない。相手の真の幸福を願い、時には苦しい決断をすることだ」


 ラビエヌスは深く頷いた。


 「分かった。もし兄貴が暴走しそうになったら、俺が止める」


 「ありがとう。君がいてくれて本当に良かった」



 △▼△▼△▼△▼△


 ラビエヌスと別れてすぐに商会へ戻り、急ぎ朝食を摂る。軽く身を清めた後、ソフィアが準備してくれた短衣に着替えた。シャワーを浴びたいところだが我が儘も言っていられない。デモステネスと午後の査閲会の流れを確認していると、アウレリウスとソフィアがやって来た。


 「若様。アルケウス殿との調整は済んでおりますので、やはり不安要素への対応が鍵になろうかと」


 「そうだね。念のために再確認しておこう」


 「はい」


 「パピリウスは説得済み、リクトルも抑制に同意してくれた。ラビエヌスの黒章隊も一体となって動くことができることを確認できている。一応、内部の火種は消したつもりだ」


 「素晴らしい成果ですね」アウレリウスが笑顔を見せた。


 「特にラビエヌスとの関係改善は大きな前進ですね」ソフィアも同意してくれた。


 「完全な和解にはまだ時間がかかるだろうが、少なくとも敵対関係は解消された。彼の黒章隊の協力があれば、市内の秩序維持は可能だと思うよ」


 立ち上がって窓越しに街を眺めると、城門の向こうにいるローマ軍の野営地から上がったのか、無数の炊事の煙が見える。千名もの兵が一度に押し寄せれば、アスクルムの宿泊施設では到底収容しきれない。これも査閲会への巧妙な心理的圧迫である。セルウィリウスの狡猾さには感嘆せざるを得ない。実に巧妙な手である。嫌なことしてくれるなぁ。


 「さてみんな、今日はよろしく頼む」



 深く息を吸い込むと、ようやく心の準備が整う。いよいよ正念場だ。



 本作品は生成AIを活用しつつ、作者自身の構成・加筆・編集を加えて仕上げた創作小説です。AIとの共創による物語をどうぞご覧ください。

 なお作者は著作権法上の問題はないと判断のうえ、投稿を行っております。安心してお楽しみいただければ幸いです。


--------------------------------------------------


(本来の意味において、その相手のためになること、とは一体どんなことでしょうね)



もし物語の余韻が心に残りましたら、評価やブックマークという形で、想いを返していただければ幸いです。


第一部の登場人物一覧はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n4684kz/1/


第一部の関連地図はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n4684kz/2/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ