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『オリーブと梟』第一部 アスクルムの戦い  作者: 岡田 平真 / オカダ ヒラマサ
〜 法務官来訪
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第43話『法務官到着の夜』

ルキウス・マルキウス・ピリップスと セクストゥス・ユリウス・カエサルが執政官の年(紀元前91年)十一月初旬、ピケヌム地方アスクルム市内、ティトゥス




 蜜蝋の蝋燭が放つ黄金色の炎が執務室を照らし、甘い香りが緊張した空気に溶け込んでいる。今夜到着した法務官セルウィリウス一行についての詳細を聞く前に、机上で胡坐をかき、しばし座禅を組んでいた。最近はこのスタイルが板についてきている。


 「若様、法務官殿の一行は予定通りアスクルムに到着しました」


 デモステネスが部屋に入って報告を始める。低く深い声が静寂を破り、瞑想から意識が戻ってくる。彼の冷静沈着さの中に、僅かな困惑の影を感じ取った。何かいつもと違う――そんな予感が胸をよぎる。


 改めて椅子に座り直し、デモステネスからの報告に耳を傾けた。どうらやすっかり座禅姿にも慣れてきたようで、リアクションが薄くなってきた。ソフィアは、めっという顔つきだな。実に分かり易い。



 「人数は想定していた通り約千名。二個大隊編成で、通常の外交使節とは明らかに異なる規模です」


 その報告を聞くと眉間に皺が寄ってしまった。千名とは事実上の軍事威嚇に等しい。ローマはアスクルムに喧嘩を売りたいのだろうか。売りたいのだろうな。頭の中で様々な可能性を巡らせてみるが、どれも腑に落ちない。

 

 「本日の正午過ぎに市議会場での歓迎式典を皮切りに、アスクルム政務四官との挨拶、続けて十七名家の代表者との面談は終了しております。概ね問題はなかったのですが…」


 「件の法務官殿の様子はどうだったの?」


 「極めて高圧的かつ非友好的な態度でした。アルケウス長老が『法務官殿、我々はローマの友として、常に公明正大であろうと…』と説明してもセルウィリウス殿はおろか、副官フォンテイウス殿もまともに取り合わず。まるで属州総督が現地の部族長に接するような態度でした」


 デモステネスの声にかすかな苦味が混じった。


 「二人とも実に嫌らしい笑みを浮かべながら、アルケウス長老を見下しているように感じました。あれでは紳士的な振る舞いを行うことも難しいかと」


 まぁそうだろうな。セルウィリウスという男の頭の中では、我々同盟市なんぞ対等なパートナーではなく、ローマの支配下にある従属的存在でしかないのだろう。


 「で、実際の長老の対応は?」


 「お見事でした。最初はやや動揺されていましたが、持ち前の政治的技巧で切り抜けられました。ただ、内心では相当な緊張を強いられているご様子でしたが…」


 デモステネスの表情に初めて安堵の色が浮かんだ。座り直して足を組む。アルケウス長老ほどの老練な政治家でも動揺するほどの威圧感――その辺りは流石はローマの法務官といったところか。セルウィリウスの態度は予想以上に強硬なようだ。


 「率いてきた大隊の配置は?」


 「城門外の南東、橄欖(オリーブ)畑のそばに野営地を設営しています。規律正しく、警戒も厳重です」


 とっさに頭の中に地図を思い浮かべる。その位置なら市内への進軍も容易だが、同時に退路も確保されている。さすがに計算し尽くされている。軍事的威嚇と実用性、どちらも手を抜いていない配置だ。



 そこでふと、マリウスの軍制改革の影響について考えが及んだ。大隊千名という編成は以前の徴兵制度とは根本的に異なるものだ。マリウスにより、軍は市民兵から職業軍人の集団へ作り替えられた。

 従来の百人隊六十個ではなく大隊十個を基本単位とする編成により、ローマ軍はより柔軟な運用が可能となっテイル。他にもいろいろあるが、それらの変化によりローマ軍の戦闘力は格段に向上している。

 また以前なら数ヶ月で解散していた軍が、今や何年でも継続的に作戦行動を取れるようになったのだ。すごい。


 セルウィリウスが率いる千名の兵も、こうした新制度の産物なのだ。農民や商人の寄せ集めではなく、戦争を職業とする熟練兵の集団。その威圧感は、従来の軍とは比較にならないだろう。



 「…若様?」


 デモステネスの声で我に返る。いつの間にか思考に没頭していたようだ。


 「すまない。マリウスの軍制改革の影響について考えていた」


 「なるほど。確かに、あの整然とした野営地を見れば、軍制改革の成果は明らかですね」


 デモステネスの理解力には改めて感心する。一つの事象から広範な政治的含意を読み取る洞察力は、やはり並大抵ではない。


 「それで、明日の予定は?」


 「午前中から査閲会が予定されています。場所は市議会場。まずは十七名家の代表者も出席し、セルウィリウス殿への報告と質疑応答が行われます」


 続けて実務的な業務内容の確認もしてくる。

 「明日の役割分担も予定通りですね。アルケウス長老が前面に立ちます。今日と異なるのは若様が後方支援で参加すること。私は引き続き随行し、通訳を務めます。ソフィアは商会での情報収集と後方支援が担当たなります」

 

 「了解。ただし、予期せぬ事態に備えて、臨機応変な対応も必要になるかもしれないな」

 


 「ところで、結局パピリウスたちはどうしたの?」

 ソフィアがデモステネスに問いかけると、彼はちらりとソフィアに目を向けた。

 

 「パピリウス殿をはじめとする急進派の姿は見当たりませんでした。城門での出迎えにも、アルケウス長老の歓迎の辞にも、一切姿を現しませんでした」


 そう言い終えるとデモステネスはこちらをじっと見つめてくる。どうやら俺が驚いていないことを察したようだ。デモステネスの観察眼は相変わらず鋭い。そう、パピリウスが出迎えに現れなかった理由は承知している。


 「デモステネス、パピリウスが姿を見せなかったのは、今朝彼に接触した結果、いや成果かな」


 デモステネスの目が僅かに細まる。ソフィアも羊皮紙から顔を上げてこちらを見つめる。


 「やっと彼を捕まえることができたよ」

  


 △▼△▼△▼△▼△


 時は遡って、セルウィリウスが到着した日の早朝のこと。


 城門の外へ向かう石畳の道を歩きながら、まだ誰もいない夜霧に煙る街並みを見渡した。商人たちが荷車を引き、職人が工房を開く——いつもと変わらぬアスクルムの日常がこれから始まるはずだ。しかし、この平穏な風景が数日後には暴徒による火で包まれるかもしれないのだ。


 郊外の丘陵地帯に差し掛かると、日が昇り始める。オリーブ畑の合間に点在する古い遺跡が目に入った。その中でも一際目立つ円柱の残骸——そこがパピリウスの潜伏場所だった。

 夜中に一瞬雨が通り過ぎたせいか、石造りの柱の一部が未だ濡れており、朝日に輝いている。一方同じ陽の光は、地面に列柱の長い影を落とし、光と陰のコントラストが美しい。

 涼しい風が流れ、草むらをゆらゆらと揺らしている。こんな場所に隠れてどうするつもりだったのか。誰にも邪魔されずに話すにはもってこいのロケーションなのだが。


 そのパピリウスが、立て籠もっていた古い神殿跡で待っていた。ゆっくりと近づき、彼と対峙する。



 「よく一人で来たな、クリスプス」


 パピリウスの声には皮肉が込められていた。彼は神殿の階段に腰掛け、見下ろしている。彼の取り巻きは一人も出てこない。中で眠っているのか――


 「貴方と話したいことがある。法務官セルウィリウスへの対応についてだ」


 「ほう、ローマの犬が愛国者に説教でもするつもりか?」


 ローマの犬か、面白い表現だな。しかし彼の挑発に乗らず、冷静に答えることにした。こいつには理詰めが一番効果があるだろうからな。


 「貴方の気持ちは理解できる。準名家として十七名家制度の外に置かれ、正当な評価を受けられない苦しみ。父上の遺志を継ぎたい想い。そして、ローマで受けた屈辱」


 パピリウスの顔色が変わるのがはっきりと分かった。驚きと警戒――そして微かな動揺。思った通りの反応だ。いいぞ、実にわかりやすい。


 「理解できるだと?! 貴様は何を知っているというのだ!」


 「ドルースス暗殺に関わったこと。ウィダキリウス将軍から冷遇されたこと。そして今、最後の手段としてアスクルムを戦争に巻き込もうとしていることも」


 「貴様……何者だ?」

 

 パピリウスが立ち上がり、そう呟いた。その瞳に大きな怒りの炎と、微かな怯えの色が宿っていた。それには気づき、少しだけ声色を変えて話しかける。


 「私は、貴方の敵ではない」



 本作品は生成AIを活用しつつ、作者自身の構成・加筆・編集を加えて仕上げた創作小説です。AIとの共創による物語をどうぞご覧ください。

 なお作者は著作権法上の問題はないと判断のうえ、投稿を行っております。安心してお楽しみいただければ幸いです。


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(いよいよ噂の人、セルウィリウスがやって来ます。彼は史実通りアスクルムの露と消えてしまうのでしょうか。それとも……)



もし物語の余韻が心に残りましたら、評価やブックマークという形で、想いを返していただければ幸いです。


第一部の登場人物一覧はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n4684kz/1/


第一部の関連地図はこちら↓

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