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『オリーブと梟』第一部 アスクルムの戦い  作者: 岡田 平真 / オカダ ヒラマサ
〜 戦争の足音
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第28話 『排水門、闇夜の戦い』

ルキウス・マルキウス・ピリップスとセクストゥス・ユリウス・カエサルが執政官の年(紀元前91年)六月、ピケヌム地方アスクルム市内、ティトゥス



 「若様、お悩みですか?」


 デモステネスが声をかけてきた。朝の陽光が彼の端正な横顔を照らしている。


 「少し、な。俺がやろうとしていることが、本当に正しいのかどうか」


 「若様らしいお悩みですね」


 デモステネスが微笑んだ。その表情には、師が弟子を見守るような温かさがある。いや、父親が息子を導く優しさ、かな。


 「しかし、こう考えてみてください。若様が行動を起こさなければ、この街はどうなるでしょうか? ひとつにまとまる? どちらに? 反ローマでまとまったら暴動、戦争、そして破滅が目に見えています。それを防ごうとする若様の行為が、間違っているはずがありません」


 「でも、俺は、多くの人の運命を勝手に決めようとしているのかもしれない」


 「それは違います」デモステネスの声が力強くなった。


 「若様は人々に選択肢を与えようとしているのです。戦争か平和か、破滅か繁栄か。最終的に選ぶのは市民たちです」


 その時、ソフィアがラビエヌスを連れて戻ってきた。ラビエヌスは自警団の制服代わりの黒い肩布を身に付け、腰には木刀を差している。顔には汗の痕があり、朝の訓練を終えたばかりのようだった。


 「ティトゥス!」


 ラビエヌスが声をかけてきたので、俺は頭を切り替えることにした。今は哲学的な悩みにふける時ではない。


 「ラビエヌス、明後日の件だが‥‥‥」


 「ああ、ソフィアから聞いた。今度は武装した連中が相手らしいな」


 「俺たちだけでは危険かもしれない。市議会に正式に報告して、治安部隊の出動を要請すべきかとも考えている」


 しかしラビエヌスは首を振った。その黒い瞳には、譲れない意志の光が宿っている。


 「それでは手遅れになる。市議会で議論している間に、連中は逃げてしまう」


 「では、どうする?」


 「俺たちだけでやろう。ただし、今回は時間があるからしっかり作戦を練るんだ」


 ラビエヌスの目が輝いた。彼は戦いを恐れず、むしろ楽しんでいるようにさえ見える。その表情に、俺は古代兵士の血の滾りを感じた。


 

 △▼△▼△▼△


 その日の夕方、俺たちは作戦会議を開いた。いつもの地図を広げての詳細な計画立案を行う。石造りの壁に囲まれた倉庫は涼しく、外の暑さを忘れさせてくれる。しかし、その涼しさとは裏腹に、議論は熱を帯びていた。


 「まず、相手の動きを把握することから始めましょう」

 デモステネスが地図上に印をつけていく。彼の指先は正確で、まるで軍事指揮官のような動きを見せる。


 「ソフィアの情報によると、連中は夜半に排水門に現れる予定です。護衛は五名程度、武装しています」


 「こちらの戦力は?」


 「黒章隊が十二名。それに若様、ソフィア、私で計十五名です」


 ラビエヌスが頷いた。地図上の配置を検討しながら、戦術家としての一面を見せている。


 「数的には有利だが、相手は武装している。正面からぶつかるのは得策ではない」


 「では、どんな作戦で?」


 ソフィアが手を上げた。ランタンの光が彼女の銀髪を照らし、まるで戦女神のような威厳を感じさせる。


 「私が先行して、相手の配置を確認します。その間に、ラビエヌスが自警団を二手に分けて包囲するのはどうでしょう?」


 「ソフィア、君一人では危険だ」


 「大丈夫です、ティトゥス様。私は影のように動けますから」


 彼女の自信に満ちた表情を見て、渋々頷くしかなかった。確かにソフィアの潜入能力は並外れている。


 「……わかった。ただし、無理は禁物だ。危険を感じたらすぐに退却してくれ」


 「承知しました」デモステネスが最終確認をした。


 「若様は後方で待機し、証拠の収集に専念してください。戦闘は我々に任せて」


 「いや、俺も前線に出る」


 「若様、それは」


「この作戦の責任者は俺だ。最後まで責任を持つ。なに、俺が剣を持つことはないさ。頼もしい仲間がいるからな」


 三人は顔を見合わせたが、最終的に俺の意志を尊重してくれた。地下倉庫の空気は緊張に満ち、明日の夜への決意が全員の表情に現れていた。



 △▼△▼△▼△▼△


 翌日は緊張の一日だった。街全体が何かを待っているような不穏な空気に包まれている。市場では商人たちが小声で話し合い、主婦たちは急いで買い物を済ませて家に帰っていく。子供たちの遊び声もいつもより控えめだった。


 俺は商会で最後の準備を整えながら、街の様子を観察していた。午後になると急進派の若者たちが数人ずつグループを作って街中を歩き回っているのが見えた。彼らの表情は硬く、何かを警戒しているようだった。


 夕方、ラビエヌスが最終確認のために商会を訪れた。自警団のメンバー数人を連れており、全員が緊張した面持ちを見せている。中には副長となったデキムスもいた。彼だけは肝が据わっているように見える。流石だ。


 「準備はできています。今夜こそ、連中の正体を暴いてやりましょう」


 頷いたものの、同時に不安も感じていた。もし作戦が失敗すれば俺たちは反逆者として扱われかねない。しかし子供たちを守るためにこの戦いは避けて通れない。

 夜が来た。月は雲に隠れ街は深い闇に包まれている。石畳に響く夜警の足音が緊張感を高めていく。俺たちは予定通り排水門に向かった。


 街を抜ける道は昼間とは全く違う顔を見せていた。明るい陽光の下では活気に満ちた商店街も今は静まり返っている。時折聞こえる犬の遠吠えと、風に揺れる看板の軋む音だけが夜の静寂を破っていた。


 ソフィアが先行し、残る我々は少し離れた場所で待機する。彼女からの合図を待つ間、心臓は激しく鳴り続けていた。デモステネスも普段の冷静さとは異なる緊張を見せている。


 「緊張しているな」ラビエヌスが囁いた。


 「ああ。こんなことに慣れる日が来るとは思わなかった」


 「慣れない方がいい。緊張は生き抜くための立派な防具だ」


 その言葉に、俺は古代の戦士の知恵を感じた。現代人の俺には理解できない、生き抜くための本能がラビエヌスには備わっている。

 その時ソフィアからの合図が来た。彼女が小石を投げる音が約束通り三回響いた。小さな音は夜の静寂に吸い込まれ、まるで運命の扉が開かれるような響きだった。


 「行くぞ」


 ラビエヌスが立ち上がり、自警団を二手に分けて移動を開始した。もう一手はデキムスに任せているようだ。黒い肩布をまとった少年たちが、影のように闇に溶けていく。俺とデモステネスは、証拠収集のため別ルートから接近する。


 排水門の近くに着くと確かに武装した男たちがたむろしている。前回よりも警戒が厳重で見張りも立っている。松明の炎が水面に反射し、不気味な光景を作り出していた。しかしソフィアの報告通り人数は五名程度だ。


 男たちは舟に若者を乗せようとしている。縛られた少年たちの表情は恐怖に歪み、中には涙を流している者もいた。その光景を見た瞬間、俺の心に激しい怒りが湧き上がった。子どもたちを政治の道具にするなど絶対に許せない。現代人としての価値観と、この時代の現実が激しくぶつかり合う瞬間だった。


 ラビエヌスの合図で自警団が一斉に動く。闇の中から黒い影が現れまるで復讐の精霊のように男たちを包囲する。月光が雲間から漏れ、戦場を幻想的に照らし出した。


 「動くな!アスクルム市自警団だ!」


 ラビエヌスの声が夜気を震わせた。その声には、少年とは思えない威厳と力強さがあった。

 

 男たちは動揺したが、すぐに武器を抜いて応戦の構えを見せた。剣の金属音が石畳に響き、緊迫した空気が流れる。


 「くそ、バレたか!」

 「逃げるぞ!」


 男たちは舟に飛び乗ろうとしたがソフィアがそれを阻む。彼女の短剣が月光に光り、まるで銀の稲妻のような軌跡を描く。男の一人が川に落ち、水しぶきが上がった。

 

 戦いは短時間で決着がついた。自警団の練度は高く、連携の取れた動きで男たちを無力化した。ラビエヌスの指導の下、少年たちは見事な統制を見せている。武器を持たない彼らが武装した大人を圧倒する光景は、まさに圧巻である。訓練の賜物なのだろう。


 すかさず舟に駆け寄り証拠となる書類を探す。水に濡れた羊皮紙から今度も人質交換の記録が見つかり、さらにトゥッリウム市との契約書も発見できた。月光の下で文字を読むのは困難だったが、内容は明らかに違法な取引を示していた。


 「これで決定的な証拠が揃った」


 この言葉にデモステネスが満足そうに頷いた。彼の顔にも安堵の色が浮かんでいる。


 若者たちも元気そうに見えたので、彼らを拘束してる縄を解きながらホッと短く息を吐き出す。なんとか今回も人質交換を阻止することができた。

 解放された少年たちは、恐怖から解放された安堵で泣き崩れる者もいた。俺たちの行動が確実に誰かの人生を救ったのだ。


 しかし、これで終わりではない。ウィダキリウス派は必ず別の手を打ってくるだろう。今夜の作戦は勝利に終わったが、戦争はまだ始まったばかりだ。


 「ティトゥス様」


 ソフィアが俺の袖を引いた。その表情は勝利の喜びではなく、新たな心配を示していた。どうしたのだろう、怪我でもしたのか。


 「一人逃げました。恐らく仲間に報告するでしょう」


 思わず表情が曇った。ソフィアも申し訳なさそうな顔をしている。秘密作戦のはずだったが、これで相手に知られてしまうことになるだろう。

 これで、俺たちとウィダキリウス派の対立は決定的になった。水面に逃げ去った男の影が見え隠れし、やがて闇に消えていった。


 しかし後悔はしていない。子どもたちの命を救えたのだから。この価値観はこの時代においても決して間違ってはいない。



 夜明けが近づく中、一行は証拠と共に商会に戻った。東の空がうっすらと明るくなり始め、街に新しい一日の始まりを告げている。しかし、その朝日は同時に、長い戦いの始まりを告げる光でもあった。

 商会に戻ると、使用人たちが心配そうに出迎えてくれた。彼らも俺たちの夜間行動を知っており、無事を祈っていたのだろう。温かい飲み物と簡単な食事が用意され、疲れた身体に染み渡った。


 書斎で証拠を整理しながら今後の戦略を考えてみる。今夜の成功により、俺たちの立場は強化されたはず。これをどう生かすか。次の手立てを考える必要がある。


 やはり相手次第、そしてタイミングだな……

 疲れた身体を労りながら、次の手筈を考えていた。



 本作品は生成AIを活用しつつ、作者自身の構成・加筆・編集を加えて仕上げた創作小説です。AIとの共創による物語をどうぞご覧ください。

 なお作者は著作権法上の問題はないと判断のうえ、投稿を行っております。安心してお楽しみいただければ幸いです。


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(いわるゆ逮捕術、と呼ばれるものは日本には室町時代からその存在が確認されているようです。ローマ時代にそのような技術が確立されていたかは不明ですが、ラビエヌスがサビウス師範と共に目指したのはそのようなものだったのかも知れませんね)

もし物語の余韻が心に残りましたら、評価やブックマークという形で、想いを返していただければ幸いです。


第一部の登場人物一覧はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n4684kz/1/


第一部の関連地図はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n4684kz/2/

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