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『オリーブと梟』第一部 アスクルムの戦い  作者: 岡田 平真 / オカダ ヒラマサ
〜 戦争の足音
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第24話『対立の火種を摘む』

ルキウス・マルキウス・ピリップスとセクストゥス・ユリウス・カエサルが執政官の年(紀元前91年)四月、ピケヌム地方アスクルム市内、ティトゥス




 黒章隊設立の根回しを行った翌日の朝、ゆっくりと中央広場から市場を歩いてみた。デモステネスとソフィアに説得されて、もう少し積極的に街の人々と接触することにしたのだ。まぁ、散歩は好きだからな。問題ない。


 「ティトゥス様!」


 八百屋の老婆が俺を見つけて手を振った。


 「先日は麦をお安くしていただき、ありがとうございましたぁ。助かりましたぁ」


 「いえいえ、お気になさらず」


 八百屋の婆さんと呑気に世間話をしていると、周りにいた他の商人たちも集まってきた。


 「若旦那、今度は塩も安くしてもらえませんかね?」

 「ローマからの税が重くて、商売が大変なんです」

 「リクトル様は理想ばかり、パピリウス様は威勢のいいことを言ってくれますが、実際に助けてくれるのは若旦那ですよ」


 人々の声に、俺は複雑な気持ちになった。確かに俺は商会の力で市民を助けることができる。しかし、それは根本的な解決ではない。ローマとの関係を改善しなければ、この街の未来はない。


 「皆さん、ありがとうございます。でも、一時的な支援だけでは限界があります。大切なのは、この街全体が安定することです」


 「若旦那のおっしゃることはもっともですが」

 パン屋の主人が困った顔で言った。


 「我々にできることといえば、日々の商売を続けることくらいで」

 

 「それで十分です」微笑みながら応えた。

 「皆さんが平和に商売を続けられる街にすることが、俺の――いえ、クリスプス商会の願いです」


 俺の言葉に周りの商人たちの表情が和らいだ。その時、人だかりの後ろから一人の中年女性が進み出てきた。染物屋のマリアという名前で、ソフィアがよく買い物に行く店の女主人だ。


 「若旦那様、実は皆でお話ししていたんです」マリアが代表するように口を開いた。

 「ソフィア様から、若旦那様がどれほど街のことを思っていらっしゃるか、よく聞かせていただいて」


 そうか、ソフィアがそんな話を。彼女の気遣いに心の中で改めて礼を述べる。


 「この前の麦の件も、ソフィア様が『ティトゥス様は本当に皆さんの暮らしを案じておられます。夜遅くまで、どうすれば街の人々が安心して暮らせるか考えていらっしゃるんです』って、涙ぐんで話してくださって」


 パン屋の主人がその続きを始める。

 「正直、商人の息子さんがそこまで思ってくれるなんて、信じられませんでした」


 ソフィアの顔が頭に浮かぶ。いつもの茶目っ気たっぷりの笑顔とは違う、真剣な表情で街の人々に俺のことを語る彼女の姿を想像すると、胸が熱くなった。


 「以前いらっしゃた若旦那様のお父様も立派な方でしたが」八百屋の老婆が言った。


 「息子さんは違う優しさをお持ちですね。私たちのような年寄りの話も、ちゃんと聞いてくださる。御父様はローマでお達者でいらっしゃるのかしら」


 「カピトの旦那が支店長だった頃は」魚屋の男性が被せるように声を落として続けた。


 「正直、クリスプス商会が怖い存在でしたさ。でもソフィア様が『今度の若旦那様は違います』って言ってくださってね」


 人々の視線が俺に向けられている。そこには警戒心ではなく、期待と信頼の光があった。この半年間ほとんど交流のなかった俺を、ソフィアが代わりに街の人々とつないでくれていたのだ。


 「ありがとうございます」深く頭を下げ、皆に感謝の言葉を伝える。

 「皆さんの信頼に応えられるよう、必ず努力します」


 その瞬間、心に新たなる決意が宿った気がした。この人々の笑顔を、彼らの日常を、なんとしても守り抜かなければならない。



 その時、市場の向こうから激しい議論の声が聞こえてきた。見ると、急進派の若者たちが演説を行っている。

 

 「ローマの犬どもに媚びへつらって、何が得られるというのか!」

 「我らピケヌムの民は、ローマ人と対等の権利を要求すべきだ!」

 

 群衆の一部が拍手を送り、別の一部が眉をひそめている。街の分裂がここでも見て取れた。


 思わず溜息が出そうになり、腰に手をついた。武力衝突を避けるにはまずこうした対立を和らげる必要がある。しかしどちらの側にも一理あるのが厄介だった。


 

 △▼△▼△▼△▼△

 

 その日の午後、デモステネスと共に市議会の建物を訪れる。既に活動している自警団を公に認めてもらおうと設立届出を提出するために来たのだが、正直なところ気が重い。


 市議会の廊下はいつものように政治的な駆け引きの場となっていた。親ローマ派と急進派の議員たちが、それぞれ小グループを作って密談している。


 「ティトゥス殿」


 アルケウス長老が俺を見つけて歩み寄ってきた。彼は親ローマ派の重鎮で、俺の父とも古い付き合いがある。

 「お久しぶりです、アルケウス様」


 礼を頭を下げると、彼は満足そうに頷いた。


 「噂は聞いておるよ。君が街のために動き始めたとな。父上もさぞ喜んでおられるだろう」


 「まだまだ未熟者ですが」


 「謙遜することはない。最近の君の商会の動きは、多くの市民の支持を得ている。それは立派なことだ」

 

 その時、廊下の向こうから一人の議員が近づいてきた。パピリウスだ。マルシ族の英雄ウィダキリウスの腹心の一人と自称している急進派の筆頭格だ。この前のリクトルの演説会を台無しにした男だな。

 

 「これはティトゥス殿。お噂はかねがね」


 彼の声には皮肉が込められていた。

 「ローマの手先の息子が、ついに表舞台に現れたか」


 「パリピウス殿、言葉が過ぎる」アルケウスが咎めたが、パリピウスは意に介さない。


 「事実を述べただけだ。クリスプス商会はローマとの取引で肥え太り、我らピケヌムの民を搾取している」


 ここは冷静に対応するのが無難だな。でも決して舐められてはいけない。


 「商売は双方に利益をもたらすものです。搾取ではありません」


 「綺麗事を」パリピウスが鼻で笑った。

 「お前のような若造に、この街の苦しみが分かるものか」


 全否定から入られたその瞬間、俺の中で何かが切れそうになった。しかしデモステネスが軽く俺の袖を引いたため、冷静さを保つことができた。


 「‥‥‥若造かもしれませんが」努めて感情を抑えて答える。

 「少なくとも、民衆を煽って暴動を起こそうとは思いません」


 パリピウスの顔が赤くなった。


 「貴様、何を――」


 「お二人とも、ここは市議会の神聖な場です」アルケウスが仲裁に入った。


 「続きは別の機会に」


 パリピウスは悔しそうな顔で立ち去った。その背中を見送りながら、戦いは既に始まっているのだと実感した。


 

 △▼△▼△▼△▼△

 

 夕方、商会の屋上に上がり街を見下ろす。陽がアスクルムの城壁を赤く染め、炊事の煙が静かに立ち上っている。平和な光景だが、その下には確実に対立の火種がくすぶっている。そのことを考えると気が重くなる。ため息が出そうになるのをこらえ、慌てて空を見上げてふっと息を吐いた。

 

 「ティトゥス様」

 ソフィアが梯子を上がってきた。手には温かい葡萄酒の入った杯を持っている。


 「お疲れ様でした。今日は大変でしたね」


 「ありがとう」杯を受け取りお礼を伝える。


 しばらく二人で並んで座り、沈み往く夕陽を眺めていた。


 「ソフィア、正直に聞かせてくれ。俺のやり方で、本当にこの街を救えると思うか?」


 彼女は少し考えてから答えた。

 「ティトゥス様は、きっとこの街を救えます。でも」


 「でも?」


 「もう少し、ご自分に自信を持ってください。皆、ティトゥス様を信頼しているのですから」


 その時、階下からデモステネスの声が聞こえた。


 「若様、お客様です」

 二人では急ぎ階下に降りる。玄関には、黒い肩布を着けたラビエヌスが立っていた。


 「ティトゥス、緊急事態だ」彼の表情は深刻だった。


 「何があった?」


 「人質交換の動きを掴んだ。今夜か明日にでも、何かが起こる」


 背筋に冷たいものが流れ、身が凍りつく思いがした。ついに来たか。

 

 「詳しく聞かせてくれ」


 ラビエヌスは息を切らしながら説明してくれた。彼の自警団が夜間巡回中に、怪しい馬車と舟の動きを発見したのだという。


 「間違いない。奴らは今夜、若者を他の都市に送ろうとしている」


 デモステネスが俺をじっと見つめている。

 「若様、どういたしますか?」


 俺は深呼吸した。俺の知っている歴史では、この人質交換がやがて大きな戦争の引き金となるはず。今ここで止めなければ、アスクルムは破滅への道を歩むことになる。

 

 「止める」決意を込めてそう言い切った。


 「俺たちで人質交換を阻止する」


 「ティトゥス様」ソフィアがやや心配そうに声を出す。


 「例え危険でもやらなければならない。この街の未来がかかっているんだ」


 デモステネスが頷いた。

 「承知しました。では、準備を整えましょう」


 ラビエヌス、ソフィア、デモステネスと順に目を合わせ頷き合う。そして夕日が完全に落ちた街を再び見上げ短く腹の底から息を吐いた。

 

 今夜の行動が、アスクルムの運命を大きく左右することになる。なんとしてもこの街を救ってみせる、と自分に言い聞かせる。


 正直に言えば、心の奥底で不安が渦巻いていた。果たして俺に、この歴史の流れを変える力があるのだろうか。一万数千の人々の命を背負うという重責にまだ慣れていなかった。それはそうだ、ただのサラリーマンだったんだから。


 それでも、やるしかない。俺がこの世界、この街にやって来たのも一つの(えにし)だ。その天の差配に逆らわず、やるだけやってみるさ。



 本作品は生成AIを活用しつつ、作者自身の構成・加筆・編集を加えて仕上げた創作小説です。AIとの共創による物語をどうぞご覧ください。

 なお作者は著作権法上の問題はないと判断のうえ、投稿を行っております。安心してお楽しみいただければ幸いです。


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(仕事がデキル人の頭の中は一体どうなっているんでしょうね。思い通りに身体を操れる人の感覚も不思議でいっぱいです。人は他者の感覚や思考を直前共有することは出来ません。だからこそ、言葉が発達したのだと思います。声に出すって大事ですね)


もし物語の余韻が心に残りましたら、評価やブックマークという形で、想いを返していただければ幸いです。


第一部の登場人物一覧はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n4684kz/1/


第一部の関連地図はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n4684kz/2/

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