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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第十一章 あるべき場所へ
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第一話 消えてしまった存在に①

ストックが足りないので隔日更新です。

 松ヶ崎中央駅に隣接するショッピングモール「オメガ」は、血の海に(まみ)れた。

確認出来た死者は、現時点で百二名。でも、それは犠牲者の一部でしかなくて。

 犠牲者の大多数は死亡どころか、そもそもこの世界に存在していた事実すら忘却されていたせいで、誰が亡くなったのか、どれくらい亡くなったのかを割り出すのが困難になっていたのである。

 それは事情を知る警察も、そして百鬼組(おれたち)も例外では無かった。

「ネットもテレビも、不気味なくらいに静かだな」

「ショッピングモールが結界で封鎖されて、中で沢山の人が殺されたのに、何もかもが“まるで無かった事のように”……か」

 普段と同じ様に、夜のバラエティ番組が居間にある大画面のテレビを賑わせる。とてもショッピングモールで大量殺人が起こったばかりだとは思えない(ほが)らかな遣り取りを、俺は冷めた目で眺めていた。

 俺と同じく横に座っていた父――百鬼(なきり) 真之は、全く笑わずにリモコンでテレビの電源を消していたのだった。まるで、これ以上その無神経な明るさを目にするのを嫌がるように。

「信じられるか護? 人が死んだ事どころか、生きていた事さえ忘れ去らせるなんて」

「悪夢を見せられてる気分だよ。存在そのものが忘れ去られていると確認されて初めて、死亡が確認できる……こんな確認作業を続けていたら、心が壊れそうだ」

 今回の件で亡くなった人は、多くの人の記憶から消えてしまっている。その不自然さを認識してしまっている俺達からすれば、気が狂いそうになるくらいだった。

「普通、これだけの人が居なくなったら、何処かしらに支障とか問題が出てくると思うけど」

「それはこれからだろうな。そうなった時に、忘却された人々の存在が記憶から呼び起こされるかどうか……厳しいかもな。月夜野(つきよの)の話では、警察内部でも同僚の存在を忘却している者が後を絶たないそうだ」

「もうずっとそのままとか、そんな冗談ないよな?」

 答えなど無い事を知っていても、俺は父にそう問うた。問わずにはいられなかったからだ。

 しかし、父は当然と言えば当然で、そして残酷な返答をする事しか出来ないようだった。

「俺に訊くな。今、オーバンが地下の研究所で必死に分析してくれているが、彼女も望み薄だとは言っていたな。そういう事なんだろう」

「……そういう事って何だよっ」

 悪態が、口をついて出た。

 父もそんな俺の心を見透かしてか、敢えて何も言ってこない。ただ黙って一瞬だけ、こちらを横目に眺めただけだった。

「護、これはお前のせいじゃない。今回も自分を責めるなよ」

「分かってるッ」

「忘却しているからと言って怒るなよ。その人は何も悪くない」

「分かってるってのッ」

「一人で先走るなよ。こんな状況だ、カバーに回せる人員にも限りがある。何が起こるかも分からないからな」

「分かってるって言ってんだろ、煩いなッ」

 どん、と卓に拳を叩き付けた。

 衝撃で湯呑が大きく揺れたが、幸いにも倒れる事は無かった。その様子を無言で眺めていた父は、目を閉じると問いかけてくる。

「じゃあ、今のお前は何をすべきだと考えてる?」

「何をって、そりゃ亡くなった人たちの把握を……」

「そっちは警察が進めてくれるさ。向こうにも何人か、記憶の忘却が及んでいない奴が居るらしいからな。ウチみたいな民間組織がやるよりもよっぽど効率よく進めてくれる筈だ。そしてその辺の情報を、月夜野から得れば良い」

 それで? と父は問うてくる。他には何も思い浮かばないのか?と言われた気分になった俺は、ムッとしながら言い返す。

「それでも、うちが協力すればもっと効率が良くなるんじゃないの?」

「そっちは俺がやる。お前は学校もあるし宿題もあるからな」

「こんな状況で勉強に手なんざ付かねえよ! 何人死んだと思ってる!? 俺はこの目で、(おびただ)しい人の死体を嫌って言うくらい目にしてるんだぞ!?」

 何でこんな当たり前の事に気付かないのか。そんな苛立ちのままに、俺は父に向かって怒鳴っていた。

 それを黙して、何も言わず聞いている父の姿に、俺はすぐさま我に返っていたのだった。

「……ごめん、かっとなり過ぎた」

「こちらも配慮に欠けていたな、すまん。とは言え、犠牲者の確認作業はお前にやらせるのは厳しい。恐らく、現時点でも精神的にやられている筈だ」

「そう、かもな」

 居間と廊下を隔てる襖の間から、誰かが様子を窺っている気配がする。多分、さっき俺が声を荒げたのを聞きつけて、様子を見に来たのだろう。

 見世物になっている気分になって、俺は座布団から立ち上がった。

「……ちょっと、頭冷やしてくる」

「どこへ行く?」

「散歩。家に閉じ籠ってるだけじゃ気持ちが落ち着かないんだ」

「そうか。くれぐれも暴れたりはするなよ。それさえ守ってくれるなら、多くは言わない」

「了解。んじゃ、行ってくる」

 足音も立てずに襖の前に立って勢いよく開ければ、途端に複数の男女が雪崩れ込んで来るのだった。

 幼馴染で一時的とはいえ居候の美才治 綾音を筆頭に、三榊 迅太郎さん、毛利 吉政、コンスタンディノス、プサッフォー……その他にも色んな人間が畳の上に転がっていた。

「盗み聞きして何をしようってんだ?」

「ま、護、これは違くて……ただ、大きな声がしたから気になっただけって言うか」

 ワタワタしながら綾音が一生懸命弁明しているが、正直なところその内容に興味はなかった。彼女が全て言い終わらない内に、俺は廊下に出ていたのである。

「何でもいいけど、そんな心配しなくても大丈夫だ」

「ど、どこ行くの……?」

「散歩。父さんからも許可取ってるから、んじゃ」

 振り返りもしないで綾音にそう言ってから、俺は真っ直ぐに玄関を目指していた。




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